OVER ENDING【Re:bit】 第6話 トレードオフ

◇◇

明確な対策が決まらないまま昼休みが過ぎ、教室に戻ってきた俺たちは≪VRC≫の用意をしていた。偏った栄養素と過剰な糖分摂取の言い訳に使った実技教科の事だ。
バーチャル・リマイン・コンバット<VRC>――仮想空間にリマインして行う≪模擬戦闘訓練≫。もっと分かりやすく言えば『ゲームの主人公になれる』夢のような授業。リマイナー教育に力を入れている学校がゲーミングスクールと呼ばれる所以だ。
ちなみに正式には『バーチャル・リマイニング・コンバット・トレーニング』という科目なんだがみんな略して≪VRC≫と呼んでいる。

≪VRC端末≫と呼ばれている≪リマイニング装置≫を使い仮想空間ゲームの世界に≪リマイン≫して、コントローラーやディスプレイなどを使わずに直接プレイヤーキャラクターを操作するヴァーチャルゲーム。
ゲームの世界に実際に入り、そこに立つ感覚は他では味わえない。

携帯端末とゲーム機を鞄からリュックに入れ替えて座学装備から実技装備にインベントリを変更する。
体育の授業では運動着に着替えるように、VRCの授業では≪ライフスーツ≫という専用の衣服を着用する必要がある。繊維に電極が埋め込まれていてリマイン中の生徒のバイタルサインを常時細かくモニターする事が出来るスーツ。でも要はハイテクな全身タイツだけれども。

入れ替えを終えて空になった鞄を電子ロックが付いたロッカーにしまい、更衣室に向かおうと教室の扉を開けた。

「――ッ」

危なかった。もし俺が飛び出していたらぶつかっていただろう。と言うか扉開けたら目の前にいるとかちょっとびっくりするからやめてほしい。
開いた扉の前には生徒から『ヨボ先』と呼ばれている教師が立っていた。
ちなみにどうして『ヨボ先』なのかと言うと『ヨボヨボの先生』だからである。別に馬鹿にしている訳じゃない。本人自ら自己紹介でそう言っていたんだ。

「先生どうしたんですか」「オレたち次はVRCの授業っすよ」「教室間違えたんですかぁウケルー」

突然の登場で教室が騒がしくなった教室に何も言わず入ると、ゆっくりと俺の横を通り過ぎヨボ先は教卓に向かった。
忘れ物でも取りに来たのかと思ったが、そうでは無いようだ……。

状況が分からないまま生徒たちに席に付くように指示が出し、そして教室が静かになったところでゆっくりとその口を開き状況を説明し始めた。

「えー放課後に開かれる実技選考会の準備の為、今日の実技の授業は中止になります。えー代わりに私が授業を行います」

「「――なッ!!」」
なにぃい中止だとぉお!! んな馬鹿な話、納得できるわけねぇだろッ!
なんの通達もなく、いきなり中止を宣言されたVRCの授業。楽しみにしていた分、押し寄せるショックが重く肩にのしかかった。
……あ、ありえんだろ……今こそ騒ぐ時だろう! クラスよッ! さあ抗議の狼煙を上げるのだッ!!

『まぁしょうがないよねぇ』『休み時間に着替えなくてよかった』『中止とかウケル―』
あっ……案外、みんな物分りいいんですね。

学校生活、唯一の生き甲斐と言っても過言ではない≪VRC≫の授業が中止になった事は許せないが、選考会の為に体力を残しておくと思えば、少しは気が楽になる。か、な?
まあ人生、時には犠牲を払わなければならないものだ。
それはゲームでもよくある話。高性能スキルにはトレードオフな仕様が付き物なんだよ……しっかしVRCの代わりが世界史というのは納得いかないぜ。どう計算しても『出』の方が多い気がする。

ヨボ先の受け持ち科目は世界史だ。そしてその独特の『しゃべり方』は催眠呪文の如く生徒たちを居眠りへと導く。見た目的には古文の教師っぽいけれども偏見で判断するのはいけないよな。

みんな大好きな世界史ってのは簡単に説明すれば誰でも知っている『当たり前の事』と『どうでも良い事』が混ざった云わば『年表』だ。
物語の主人公が存在するRPGゲーム等の年表なら分かりやすく纏まっているんだが、残念なことに現実世界には主人公が居ない。だから複雑で理解しにくい上に覚えずらいんだよ。

――退屈な授業。

そう感じているのは俺だけではないはずだ。
その証明としてユナだってテキストを凝視はしているものの目元は緩み、凄く眠そうにしている。
ウトウトと必死な抵抗を続けてはいるけれども多分長くは持たないだろうな。それにしてもあんなになってまで本能に抗うなんて相変わらず優等生は真面目だな。
いや、真面目だから優等生なのか……?

ヨボ先が黒板にキーワードを書き出しながら聞き飽きた歴史を読み上げている。
耳にタコが出来る程聞いてきた当たり前の事。

三十年前に起こったパラダイムシフト。全世界に大きな影響をもたらした≪V-data≫による≪電子事変データシフト≫によって俺たちの日常は大きく変わった。
人類にとって平面的だった<デジタルネットワーク>を多面的に進化させて電子の世界に空間的概念を生成した。これによってもう一つの世界≪電子世界データワールド≫が誕生した。実際にはもっと前からデータワールドは存在していたとされているが明確な時期は特定できていない。何故ならデータシフトとはただの『観測点』でしかないから。
人類が初めてデータワールドの存在を知った日。データシフトの『副産物』を利用し始めたのが三十年前の『その日』だったに過ぎない。

ここで言う『副産物』とは≪リマイニング装置≫の事だ。
今では当たり前の存在になっているが、俺たちがVRCの授業で利用しているVRC端末は元々は≪V-data≫によって体現化された技術革新オーバーテクノロジーの一つなんだ。

VRC端末以外にも、<デジタルネットワーク>の裏側に≪データワールド≫を構築するだけに留まらず≪V-data≫は現実世界に様々な技術革新を齎した。
リマイニングデバイズの様な機械工学は勿論、不治の病を治す奇跡の薬や若返りさえも可能とする再生医療技術、飢餓を無くす食糧事情の改善策などの生物工学。人類の工学技術は≪V-data≫によって百年ほど進化させられたとされている。
それだけ聞くとデータシフトはそんなに悪くない事件のように思えるだろうが、世の中バランスってものが存在する。

技術革新と時同じくして、跳躍的に進歩した人類に害をなす存在――≪フォルト≫が出現するようになった。

◇第6話

各話サブタイトル作者
登場人物紹介こちらNORA×絵師様
プロローグ/第0話主人公補正KAITO×NORA
第1話偽りの始まりKAITO×NORA
第2話A.シャンプーKAITO×NORA
第3話ミス・パーフェクトKAITO×NORA
第4話馬と鹿KAITO×NORA
第5話忍者だってッKAITO×NORA
第6話トレードオフKAITO×NORA
第7話正義と欠陥KAITO×NORA
第8話死に急ぐ者KAITO×NORA
第9話友の追悼KAITO×NORA
第10話四番モニターKAITO×NORA
第11話ボーナススコアKAITO×NORA
第12話試験範囲KAITO×NORA
第13話アルファリーダーKAITO×NORA
第14話トレジャーハントKAITO×NORA
第15話チェックシートKAITO×NORA
第16話レバガチャKAITO×NORA
第17話記念写真KAITO×NORA
第18話手応えKAITO×NORA
第19話仲裁KAITO×NORA
第20話気遣いKAITO×NORA
第21話不貞寝KAITO×NORA
第22話ナカヨシKAITO×NORA
第23話ハーフタイムKAITO×NORA
第24話ルート分岐KAITO×NORA
第25話リアシートKAITO×NORA
第26話レストランKAITO×NORA
第27話夜の景色KAITO×NORA
第28話アクビKAITO×NORA
第29話ネクタイKAITO×NORA
第30話ドラゴンブレスKAITO×NORA
第31話尻尾KAITO×NORA
第32話反省会KAITO×NORA
第33話ノーデリカシーKAITO×NORA
第34話待ち時間KAITO×NORA
第35話キョウイKAITO×NORA
第36話リプレイデータKAITO×NORA
第37話初見明人KAITO×NORA
第38話ラクガキKAITO×NORA
第39話模範解答KAITO×NORA
第40話レシピKAITO×NORA
第41話実技本戦KAITO×NORA
第42話ファーストブラッドKAITO×NORA
第43話絶望と記憶KAITO×NORA
第44話試験開始KAITO×NORA
第45話醍醐味KAITO×NORA
第46話作戦開始KAITO×NORA
第47話必殺の一撃KAITO×NORA
第48話全力の結果KAITO×NORA
第49話ルールの思惑KAITO×NORA
第50話閉会式KAITO×NORA
第51話/第一部完結優勝チームKAITO×NORA

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