【ホラー/怖い話】ピアノと妖精

※TOPイラストは赤井林檎さんからお借りしました!twitterはこちら!

違っている。間違っている。異なっている。
私が求めたのは、こんな物では無かった。ただ、ひたすら事実を求め、真実を遠ざけてた。でも、違った。求められたのは真実、捨てられたのは事実。
だから、私はこれにて終了。

〇〇をすれば願いが叶う。
在り来たり過ぎて聴き飽きた内容の占いだった。例えば枕元に好きな子の写真を置いてから一週間寝ればその子と結ばれるとか、特定の場所を行き来すれば願いが叶うなどという現実味もなければ根拠のない、理にかなわない内容のデマカセばかり。
でも、そんな紛い物に縋らなければならない人達もいた。それを必要とし、利用しなければ壊れてしまうような脆い者達。
私が、その脆い人の一人である。占いに身を挺し、委ね、占いが私の願いを叶えてくれると一人信じる。それが私である。
「それで、今日決行するんでしょ?」
「うん、そうだけど。未那はいいの?私の為にこんな」
「いいんだよ、私は。それに、私たち親友じゃん」
そう、私たちは親友である。親しい友と書いて親友。悪くない響きだけれど、それでも私はそれに満足できていない。それだけでは、私は満たされないんだ。
「そういえばさ、聞いてなかったんだけど……香織の願い事って何?」
「え、そ、それは……」
「あ、聞いちゃ不味かった?だったらごめん」
「ち、違うの。ただ恥ずかしくてね。終わったら未那にも解るから、その時まで秘密って事で」
「おぉ、何か余計に知りたくなってきた!楽しみだな、香織」
楽しみだ。本当に、今にでも大声で叫びたくなるほど私は嬉しさで胸が一杯になっている。あぁ、これから私は満たされるんだ。やっと、心が満たされるんだ。
「うん、そうだね。それじゃ、夜の十二時にあの場所でね。頼りにしてるよ、霊感少女さん」
「オッケー。この霊感少女未那さまの力、とくと見届けるがいい」
そのあと私は未那と別れ、日光が差し込むすきのない真夜中に再び学校を訪れて真っ暗な校舎の廊下を進み音楽室へと向かう。
ここまで来た。ここまで来たんだ。後はそれを実行するだけ。それだけで、私は望んでいた未来を掴めるんだ。私が求めた、未来の自分の姿を。
ドアの隙間から見える蛍光灯の光を見て安心した私は、ゆっくりとドアを開けて中に入る。そこには既にピアノの前に腰かけ指を鍵盤に乗せていた未那が居た。
「お、香織。やっと来た」
「あれ、私もしかして遅刻した?」
「いやいや、私が少し早く着いちゃってね。でも一人でいるとやはり怖いね、音楽室って」
「ご、ごめんね、遅れて」
「まぁ、明日何か奢ってるなら許すよ。あ、アイスおごってよ」
「それでいいなら、明日駅前のアイスおごってあげるよ」
「よっしゃ!それじゃ始めますか。えと、まず私がピアノを弾いて、香織が音楽室のどこかに隠れていればいいんだっけ?」
「うん、そうだよ。私は後ろの掃除用具入れに入ってるから、ピアノはよろしくね」
「任せておきな!」
未那の元を離れて、私は音楽室の光を消す。窓の外と同化した真っ暗な部屋で私はまだ暗闇に慣れない目を必死に使って掃除用具入れまでたどり着く。
聴こえるのは雨音と私の足音だけ。それ以外の音はその二つの音に弾かれて私の耳には到底届かない。ただひたすら、ぽつぽつと、かつかつと音を部屋に響かせる。
ドアを開いて中に入る。それを見た未那がピアノを弾き始めた。
聞いたことの無い曲。聞き覚えの無い曲。でも、何故か引き寄せられてく様な曲。
そんな曲を弾く未那を、私は開けられた小さな隙間から眺めていた。闇に慣れはじめた目は未那の後姿をハッキリと脳に映し出す。後ろで結んだ長い髪も、長く細い首も、綺麗な腕も、抱き締めたい背中も。
在り来たり過ぎて聴き飽きた内容の占い。夜中の丁度に真っ暗な音楽室でピアノを弾くと、妖精が現れ、妖精に気付かずにお願い事をすると次の日にその願い事が叶うという単純な占い。途中演奏を止めてはいけない。途中電気をつけてはいけない。途中喋ってはいけない。そんな、誰にでも出来る簡単な内容。
だから、私はここで待っていればいい。ピアノの音を聞いて現れた妖精が私の願いを聞いてくれるまで、私はここから出ることなくただ両手を合わせて祈りを捧げていればいい。
未那の演奏を聴きながら掃除用具室の中に隠れている。――難しいことはない、何が起きても逃げ出さず祈り続けていればいい。それだけで、いいんだ。
誰一人の声も聴こえない中、部屋には綺麗な曲が流れた。ピアノの演奏と外の雨音が綺麗に混じりあい最高の曲を織りなす。聞き惚れるくらいその曲は私の心を浄化させていった。恐怖は消え去り、残るは愛情だけ。あぁ、これは愛の唄なのだ。私の愛を、この空間にいる誰もが祝福してくれてるんだ。
鳴り響き、澄み渡り、満ち始めた。
このまま順調に進めば、私は掴めるんだ。これで私は――

「バタンッ!」

途切れた。
音が、途切れて、消えていった。
聴こえるのは雨音と足音と、そして
悲鳴。
「い、いや、いやあああああああああ!」
何が起こったのか、私には理解できなかった。教室のドアが開かれて、ピアノが止まって、足音がして、未那が悲鳴をあげて。隠れている私には、何もわからなった。
「な、なにこれ!違う、こんなの、間違ってる!違う、違うんだ!こんなの、私の知っている妖精なんかじゃない!可笑しいって、絶対に可笑しいって!いったい、何なんだよこれは!」
助けようと思った。未那を安心させようと思った。傍に寄り添って抱きしめてあげたかった。でも、動かない。私の体はまるで金縛りにあったかのように微動だにしなかった。唯一動くとすれば、バクバクと破裂する心臓と足音に怯え震える体だけ。
隙間から覗き込んでも、何も見えない。見えないけど、解る。そこに、何かが居るって事は。
「もう、無理!死にたくない!死にたくない!死ぬなら、一人で死ね!香織!」
一瞬、目の前で起こった出来事を私は理解できなかった。どんなに視界にそれが映っても、脳がその情報を解読しない。未那が私を置いて逃げた事実を、私は認めれらなかった。
閉ざされた。
何もかも、閉ざされてしまった。
もう既に、そこに私の希望は無く、ただ存在するのは足音と雨音と恐怖のみ。
ぺたぺたと、音は増していく。見えない、臭わない、触れられない、味わえない、だけれど聴こえてくる。ただ、ひたすらに増していく音だけが。
止まらない。止まることを知らない。やがて、部屋は足音だけで満ち溢れた。聴こえていた雨音は消し去り、幾多もの足音だけが充満した部屋、私はただ呪うだけ。

こいつも私を裏切るんだ。こいつも私を捨てていくんだ。こいつも私を殺すんだ。
「う、うわあああああ!」
溢れ出した怒りは、止まることを知らない。
満ちて満ちて、やがて溢れ出し、こぼれ始める。保てなくなった器は壊れ、暴れ出す。
「いない、いない!未那も私を捨てたんだ!私を裏切ったんだ!」
目に映るのは鳴らないピアノと雨が滴る窓と開いたドア。そこに、私以外の姿は皆無だった。何もない。そこには未那もいなければ足音も無い。でも、聴こえてくる。見えていないのに、感じられないのに、聴こえてくる。
ぺた、ぺた、ぺた、ぺた、ぺた、ぺた、ぺた、ぺた、ぺた
誰もいない。何もない。でも、聴こえる。雨に濡れた足音が、耳から離れない。
ピアノの音も聞こえない。雨が窓を打つ音も聞こえない。ただ、幾千幾万の足音だけが耳に流れ込んでくる。
動けなかった。喋れなかった。逃げれなかった。
私はただ、そこに立ち尽くして、何もしない。何も出来ない。ただひたすら、計り知れない恐怖に怯えるだけ。
「こ、来ないで!こっちに来ないで!な、何でもするから!だから殺さないで!ねえ、お願い!私はまだ死にたくない!」
解らない。解らない。解らない。解らない。何もわからない。
何で、私だけ、こうなるんだ。
何で、私だけ、こんな怖がらなきゃならないんだ。
何で、私だけ、こんな苦しまなきゃならないんだ。
止まらない、止まらない。何一つ止まらない。
雨も、足音も、心臓も、恐怖も、憎悪も、後悔も、何もかも止まらない。
ぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺた
ペタペタペタペタペタペタペタペタぺペタペタペタペタペタペタペタペタぺ
ペタペタペタペたぺたぺたぺたぺタペタペタペタぺたぺたぺたぺた
そして、止まった。
そして、途切れた。
そして、終わった。
音は聴こえない。
何も聴こえない。何も見えない。何も感じない。何も臭わない。何も味わえない。何も――
全て、途切れてしまった。

求められたのは真実。
捨てられたのは事実。
幸福を願う人間なんて以外に少ないものだ

だって願望は心の深いところに生える狂気のつぼみなんだから。

 

【単発物ホラー】ピアノと妖精

小説タイトル作者タグ読了予測時間(分)
みっくちゅじゅーちゅ夜空人間系、グロ注意4
その瞳は何色か夜空ミリタリー、人間系5
ドライブKAITO人間系、パッと読み1
トモダチ瀬尾標生心霊系3
犬鳴峠夜空心霊系5
ピアノと妖精瀬尾標生心霊系6
藁人形夜空心霊系、怪奇系4
幻の原稿夜空怪奇系10
サツジンジケン瀬尾標生心霊系、怪奇系5
樹海の中で夜空心霊系20
違和感瀬尾標生心霊系、グロ注意8
ミソカヨー夜空心霊系、怪奇系10
嫌な家夜空心霊系、怪奇系7
悪魔(上)瀬尾標生心霊系、洋風12
悪魔(下)瀬尾標生心霊系、洋風7
鼻(前編)夜空人間系、意味怖10
鼻(中編)夜空人間系、意味怖10
鼻(後編)夜空人間系、意味怖10
(E)scapeGoat瀬尾標生人間系、サバイバル系7
Night Terror瀬尾標生人間系、パッと読み1
隠し家の三悪人(上)夜空人間系10
隠し家の三悪人(下)夜空人間系10
ホクロ夜空意味怖、閲覧注意5
緊急停止初矢粒人間系、グロ注意3
訳あり物件まるけす人間系、都市伝説、一部実話、パッと読み1
迷信不信初矢粒意味怖、心霊系4
産まれて来るキミへまるけす意味怖、心霊系5
魂売りませんか?夜空意味怖、心霊系5
大物youtuber夜空意味怖、心霊系5
後ろ夜空意味怖、心霊系5
鉄の雫初矢粒人間系、グロ注意5
催眠まるけす人間系3
人魚姫その後
夜空意味怖6
ゆうかいなう初矢粒意味怖5
めいにち夜空人間系、パッと読み3

シェアして貰えると創作の活力に!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA