【ホラー/怖い話】樹海の中で

ミイラ取りがミイラになるではないが、さすがにこうも毎日大量の自殺体を見ているとこちらも人生の意義とはなにか身につまされる思いがする。
私の仕事は宝探し師。もっというのなら樹海の中で自殺した人物を発見し、警察に通報するという役割である。

その日は勘が冴えていた。
虚穴と呼ばれる噴火の際にできた富士山中腹にあいた穴へと向かう道がある。
そのツアーコースの途中の草々が変な伸び方をしていることに気がついたのだ。
具体的には草々の背丈が違う。均一な光のさす暗い森の奥で同じ種類の草の伸び方が違うというのはまずありえない。
つまり考えられるのは誰かが草木をなぎ倒して道を作ったということだ。
そしてわざわざコースから外れる理由は?

その誰かと一緒の行動を私もとった。
草々を倒して進んでいく。するとすぐに目的のホトケは見つかった。
樹海の木々は水平に枝を伸ばす。
それにボロボロの布切れがまるで墓標のようにぶら下がっていた。
すぐ真下には同じくボロボロの靴と、白いなにか。

「うぉーーーーーっ!あったぞ!」
叫び声とも唸り声ともつかない声が出た。
その声を聞きつけて、捜索隊員たちがわらわらとあつまってきた。
しかしその歩みは遅い。慣れていなければ無理もない話である。
富士山の表面は噴火の衝撃であたり一面が溶岩に覆われてしまっている。
その上を蛇壺のように幾重にも重なった太い木の根っこが覆っているのだから歩く側からしたらたまったものではない。
さらには薄暗くじっとりとした気候のせいで生えた苔で表面が滑りやすくなってしまうことも拍車をかけていた。

「先生!どうですか!」
私は人だったものに指をさした。
死体は完全に白骨化してしまっていた。
「手遅れだよ。とっくの昔にね」
「あー」
落胆の声が漏れた。痴呆の老人が家出したとわかったのが二ヶ月前。
そして警察に通報したのが一ヶ月前。
そして、自宅に残され観光パンフレットから樹海に行った可能性が高いと割り出されたのが一週間前。
捜索開始は二日前だ。
死体が風化し白骨化するのには十分すぎる時間だろう。
我々は手を静かに合わせた。死体に対し我々は最大の敬意を払う。
生前がどんな人間であったにせよ死んだら全員ホトケに成るというのが日本の死生観だ。
軽い調書と、時間を測ったあと
「よし、現場検証開始だ」
同行していた法医官が死体の検証にかかる。

これにて私の仕事は終了した。
ほんとはこのまま帰宅しても良い(私はほとんどの場合このタイミングで帰っている)このホトケのことが少し気になったので今回は無理を言って残してもらった。

私の読みだとこの死体は他殺死体だった。
自殺死体を探し続けて今年で6年になるが、いくつか自殺死体には共通点がある。
まずひとつ目だがほんとに自殺したいとおもってる人間がこんな山の奥まで入ってくるわけがない。
自殺志願者の半分は自意識過剰で自己中心的人間が多い。
故に彼らの死とは自分を殺すことに重きを置いているのではなく世の中や親族への抗議の表現形態の一部として死を用いているに過ぎない。
つまり見つけてもらうためにわざわざ入り口近くや人通りのおおいところで死んでいることが大多数である。

二つ目にだが、生まれてくるのに人間の意志が関係ないように死ぬ瞬間というのも本人の意志とはまるで関係ない場合が多い。
まったく不思議な話だが私たちがたまに寿司を食いたくなるような感覚で彼らは死という手段を選ぶ。
そして、その衝動は突発的で抗いがたいものなのだという。

この痴呆老人の場合わざわざ都会からこんな田舎くんだりまで来て自殺などと回りくどい方法をとったりするだろうか。
もっとシンプルに家のなかで首をつったほうが圧倒的に手軽ではないか。

「どう思いますか?この死体」
登山装備に身を包んだ法医官に質問をぶつける。
「うん。ガイシャ(他殺)だね」

やはり。僅かな時間で一瞬で他殺か自殺か見分けることなど死体を見慣れた医官からすれば造作も無いことなのだ。
「やっぱりですか」
「うん。ここみて」
彼は白い骨の一部をさした。
「下の付け根の舌骨がおれてるでしょ」
確かに左右対称になっていない部位があった。
「これって、首をしめられたときぐらいにしか折れない位置にある骨なの。自殺じゃまずおれないよね」
それ以外にもっと決定的な証拠をつらつらと上げていった。
よく死体に口なしというがそれは大間違いだ。
死体ほど雄弁に語る物体はまずない。すくなくとも彼らは決して嘘をつかない。
小細工をしてみたところで日本の医療体制をもってすれば見破るのは造作も無いことなのだ。

「おおかた邪魔になった老人をゴミを捨てる感じで捨ててったんだろうね」

手袋を外しながら彼は深く深くため息をついた。
なんともやるせない感情が体の奥底から湧き出しているのだろう。
その姿に同業者として同情する。ほんとに最近の日本の家庭というものは狂いきっている。
最近は自殺が減ってきているものの事象の一番根底にあるのは日本の家庭という共同体の機能不全が大きいのではないか。

「はい。おつかれさん」

それだけ言うとこの場は解散になった。
給料は前払い制になっている。後のことは担当者に任せて私たちは帰途についた。
ぶるりと背筋を悪寒が突き抜ける。
死体をみるのは初めてではないがやはり何度みてもなれないものだ。

帰途の半分だった。妙なものを見つけたと捜索隊員の一人が言った。
そいつは近場の木に貼り付けてあった紙を手に取ると、訝しげな目をその用紙に注いでいた。
「何だ?」
「何でしょうこれ?」

かれの手にはポスターが握られていた。
プラスチック製のラミネート塗装がほどこされているだけではなく、嗅いでみるとどうやら特殊な香料でカビが生えないように加工してあるようだ。
それだけでもかなりおかしいだろう。
しかしポスターに書かれた文言はそれを遥かに上回るものだった。

「こんにゃくを熱した油にさっと通すと油揚げになるってしってたか?」

……原文ママである。

「なるのか?」
「なるわけないでしょう」
「ほんとにか?」
「……そう言われると自信なくなってくるなぁ」

「しかし……」
なんども裏返して確認する。片面印刷である。裏面は白紙だった。
「不気味だなぁ」
人気のない道端にはられた張り紙1枚。明らかに人に対して見られるように作ってあるものとは呼べない。
しかしその妙なフォントと、書いてある文言、それに野獣派とよんでも差し支えないほどの強烈なショッキングピンクで文字がかいてあるのはいやがおうにでも他人の目を引く。
強烈な違和感だ。そこだけ異世界になってしまったような。

「ちょっとちょっとコッチ!」

呼ばれるままにそちらにいくと、眼前にひろがる光景に目を疑った。

「wifiの電波って薄紫の発光ダイオードで見えるようになるってしってた?」
「アルカリ電池を電子レンジに入れてチンするとバッテリーが回復するってしってた?」

そんな文言が書かれた紙があちらこちらに貼られていたのだった。明らかに常人の仕業ではなかった。
そして、その量は明らかに人に見られることを意識して作られていた。
「なんだこれ」
私たちは誰からも強制されることなく同じ言葉を発していた……。

△△△   ▲▼   ▽▽▽
気づくと白骨死体の発見から一週間近く立っていた。
最近やたらめったら時間が立つのが早い。
「ただいま」
もちろん家族などいない。返答を期待した問いかけではなく。孤独を紛らわせる自己満足の発言だった。
テレビをつける。テレビをつける前までは景気の良い話をしていたように見えたが、風前の灯火というやつだったようで今では打って変わって暗いオーラの漂う話がつらつらと流れだした。

上場企業の倒産、合併。いじめによる自殺……
楽しむためにテレビをつけているのにコレでは意味がないではないか。
急に不機嫌になってしまって、リモコンを取って即座にチャンネルを変えようとした。
ピタリと動きを止めた。

「次のニュースは、偽装殺人の話です……昨夜未明、死体遺棄と殺人の容疑で」

紛れも無く、今日担当したばかりの事件だった。
「やっぱりか」
やはり私達が睨んだ通り偽装だった。
まったく呆れた事件だ、日本の司法機関を舐め腐っているとしかおもえない手口だった。
そもそも発覚から通報まであれだけ日にちが空いたのは、白骨化して事件がうやむやになることを狙ったのだろう。

もしあのまま発見出来なかったら家族らはたっぷりと保険金を受け取っていたことは間違いない。
まったく本当に頭に来る。

「さて、今回は心の緊急センター所長のテゴシさんにお越しいただきました」
テロップにはご大層な経歴が並んでいた。
コンビニで買ってきた発泡酒のプルタブを引き抜く、プシュっという音が散らかった部屋に寒々しく響く。
「えぇ……最近の日本の自殺率は異常です。その原因としてはやはり経済の……」
ぐっと缶ビールを煽る。
「お前らになにが分かる」
思ったよりも大きな声になってしまった。酒はまだ回っていない。
それが本心だ。後ろに引っ込んで現場を見ないで自殺のなにがわかるというのだ。

自殺とは社会のカナリアだ。なにか世の中が間違っている時にそのことを知らせるべくして命を散らす。
生物にとっての一番基本的な生きるという気持ちが断たれるというのは果たしてどれほどの絶望があったのか。自殺体に長く関わってきた私ですら想像を絶するものがある。

しかし想像できることもある。彼らの大多数は孤独である。
昔の日本にはいろいろな共同体があったがいまでは『普通』の言葉の元、魔女狩りに晒され、破壊されてしまった。
おまけに今ではサービス業が主流となり、コミュニケーションの不得意な人間にとっては針のむしろの中で寝かされるよりも辛い状況である。
そして逃げ場を失った彼らは、木枯らした唇に反省の言葉を浮かべつつ、走馬灯をまといあの世へと飛び込むのだろう。

頭痛がひどい。昔はいくらでも酒がいけたのだが最近はめっきり弱くなってしまった。
机の上に裸のままでおいてある錠剤を2粒とると酒で喉の奥に落とし込んだ。
睡眠薬だ。最近は嫌な夢をみるのでコレを飲まないとやってられない。

待つまでもなくすぐに意識に黒い靄がかかった。
「死にてぇ」
聞く人もいない部屋で残響はゆっくりとこだました。

△△△   ▲▼   ▽▽▽

翌日も、一人で捜索を始めた。
厄介なもので、私の仕事には定休日というものはない。とくに、昨日は自殺のニュースが全国区で流れた。
こういう日は後追い自殺が多発する。あいつがやれたんだから俺もやれるだろう。という風に。だから私の仕事は、そういう死体を見つけることだけではなく可能なかぎり生きている間に助けることである。

杖を片手に森の中を練り歩く。
森の中を歩くこと自体はまるで苦痛ではない。
もともとマタギだった私からしてみれば森を歩くというのは普通の人が呼吸をするのと同じくらい自然なことである。
それに樹海。青木ヶ原は本当に気持ちのいい森だ。

世間一般で想像されているほど暗い森では無いし、澄み切った空気はこころに心地よい。そしてなによりその静けさだ。
都会に行けばどこにいっても騒音から逃れることは難しい。
ここでは、木々や小動物たちが気まぐれにたてるささやかな音以外は何一つ聞こえない。

まるでコントのように聞こえるかもしれないが、死のうと思って樹海のなかに入った人が、自然によって癒され、帰るときにはすっかり鬱が完治してしまっていた。なんて話もあるくらいだ。

散策をつづけていると、この前の事件の現場に近づいた。
そういえば、この前の張り紙があった場所はどうなっているのだろうか。
純粋な好奇心からでた疑問だった。
私は何かにとりつかれたようにその場に向かって歩を進めていた。

森と森との間にできた切れ間が目的地である。
この場所は樹海に散策にくる人間にとっては有名な場所であり、小休止をとるためにここに立ち寄るというのがもっぱらである。
私も、ここまで深く森の中に入った時は必ずここで一度休憩を挟むことにしていた。
日光に照らされて光り輝いた場所は前回みたときよりも輝いて見えた気がした。
しかし美しい場所であったからこそその異変は一際目を引いて見えた。

「なんだよこれ」

口をついてでた言葉はそれであった。
前回よりも張り紙が増えていた。それも倍増と言っていいほどに。

あたりの異常さに意味もなくぶるりと背筋が震える心地がした。
もちろんこういうことが初めてではない。

オカルト宗教の教団や、似非科学者たちがお守りや怪しげな装置を置いっていったりすることはよくあることである。
しかしその多くが訳分からない言語や機能であるため、実体感としてはあぁまた変なことをしてるなと感じる程度だった。
恐怖感が薄かったのだ。

しかしこの張り紙に限っては意味がわかるが目的がわからない。
なにを意図して作られたのか、救いを求める意味合いも読み取れなければ避霊的な意味合いもなさげである。
あえていうのならその、メッセージを伝えることに重点が置かれているような気もする。

私は張り紙を1枚引きちぎるとよく見てみることにした。
きつい香料の臭いが鼻孔をつく。

『フライパンのテフロン加工は十次元立体っていう構造物が使われてるって知ってた?』

そしてそれらに書かれた、胡散臭いトリビアも健在であった。

「いや、知らんかったな」

裏返す、あいも変わらず白紙である。
もしかしたらこの文面自体では意味をもたないのかもしれない。
表面を透かしてみたり、軽く指先でねぶったりしてみるものの変わった感触はない。
縦読みや透かし、炙りといった変わったギミックも搭載されていないようだ。

私はしばらく考えて、スマホを取り出した。
Safariを起動する。見慣れた検索エンジンが表示されていた。
困ったときはグーグル先生に聞くのが一番である。
樹海 張り紙

検索結果をスクロールしていくが、これだと思える候補はでてこない。
唯一、自殺死体の遺留品が乗せられたサイトが当たりに近い文面を掲載していた。

張り紙を見つけた方、いましたか?
ブログのタイトルはそうなっていた。
タッチして、ブログのページに跳ぶ。

■いやーこの前の富士山登山会お疲れ様でした!
んでんで、懲りずにまた樹海のなかにはいっちゃいましたw
でも今回は成果なし、残念。
代わりに(っておかしいかw)
おもしろいもの見つけちゃいました!

貼り付けられていた画像は疑いようもなくこの張り紙と遜色違いなしの同じものであった。

この張り紙張ってる人は何が目的なんだろー
気になってあちこち調べてみましたが、一件もヒットせず。残念。
結構さがしたんだけどなぁ。

なにか情報あったら教えてくれるとありがたいです。

ここでこの記事は終わっていた。
ほかの記事も1つ2つ開いてみたがあまりにも見慣れた光景の話しか載っていないのでそっとブラウザをバックした。
結局この人物も張り紙を見つけただけで正解までいきつくことは出来なかったようだ。
だとするならますます謎がつのる。

張り紙の状態からして最近貼られたものに間違いない。
ブログの日付も2週間まえのものである。
つまり狂人はごくごく最近何らかの意図を持ってこの行為を開始したということになる。
「一体何のために?」
ここ最近のニュースを思い出してみる。
火のないところに煙はたたない。変なことが起きているときはへんなことが起こっているものだ。
しかしびっくりするほどに心当たりがない。

程なくして私は考えるのをやめた。
いくら考えてもむりなものは無理だ。
それに私には仕事がある。自殺者を助けるという仕事が。
私は歩を森の奥へと向けて一歩と踏み出した。

今考えるとあの決断は正しかったのだ。なんせ答えは向こうからあるいてやってきたのだから。
数日後、再び森のなかに入った時のことだ。
どう考えても、登山装備ではない男が森の中に入っていくのを偶然見かけたのだった。
ジャージ姿に積載量の少なそうな華奢なリュックサック。
山を舐めきっているのだとするのでないなら帰る気がないというとである。

私はそっと、後ろをつけることにした。
自殺志願者に死ぬのはダメだとご高説をといてみたところで意味は無い。
出鼻をくじき、自殺という行為が恥ずべき行為だということを思い出させてやるのが一番なのである。

しばらくすると、男はリュックサックを地面に置き、何かを取り出した。
目を見張った。
疑いようもなく、あの張り紙だった。

「おい!君!」
男は漫画みたいにビクリと震えた。

「何をしてるんだ!」
「え、あのその」
言い訳はいわせない。聴きたくもない。
「青木ヶ原をよごす罰金をとられるんだ!知らなかったとはいわせんぞ」

彼は目を右往左往させると、虚空に目をやったまま
「そんな知らないっすよ!おれただのバイトですし!」
と言い放った。
言葉の意味を頭の奥に落としこむのにしばらく時間がたった。
気まずい空気を、生ぬるい風が吹流していくのを感じながら、私はのどの奥から空気の塊を絞り出した。

「はぁ!バイトだって!?」
繰り出された返答に鼻白んだ末の行動だった。
とすると、この行為は金を払ってでもやらなければいけないものなのか?
頭の中身を整理しきれない。なにが目的なのか。
そしてそもそも私はこの張り紙になぜこんなにも躍起になっているのか。

「誰に雇われてる」
「えぇっと、この会社ですよ」
あわてて彼はポケットを探りだした。
刃物をとりだすかもしれないと一瞬身構えたが彼が代わりに取り出したのはただのスマホだった。
「あ、あったあった」
そういうと彼は画面を目の前に突きつけてきた。

「有限会社、剣の会?」

△△△   ▲▼   ▽▽

ひどく居心地の悪い応接室だった。
神奈川市内の一角にあるその建物が剣の会の本拠地であった。
剣の会名前からすると厳しい印象を受けるが、地元に根付いた学生団体の一部が発展した列記とした慈善団体であるらしい。

歯医者でながれているような寒々しいオルゴールの音が、耳につく。
木造の机に指を這わせてとんとんと叩きながら代表者が到着するのを待つ。
むっつりした受付から出されたお茶はすでに冷えきっていた。

しばらくすると唐突にノックの音が響いた。
「どうぞ」
座椅子から立ち上がる。ドアが開かれた。
すぐに目を向ける。
男はそこに立っていた。

「おまたせしました」
中肉中背、スーツに身をつつんだ姿はテレビで見た時よりもずっと小柄に見えた。
テゴシそれが彼の名前だった。

「どうも。青木ヶ原管理者のミドウです」
「どうも」

社交辞令もなしに私は本題を切り出していた。

「あの張り紙は一体なんなんですか」
彼はきょとんとした顔をした。
次の瞬間、その顔がくしゃりとゆがむと、耐え切れなかったようにぷっと吹き出した。

「わざわざそのことを聞くためだけに神奈川にいらしたんですか?」
私は腹の底が滾るのを感じた。明らかに小馬鹿にした態度だったからだ。

「なにか問題でも?」
私の露骨な嫌悪感に気づいたのだろう、彼は慌てて
「あ、いえいえ馬鹿にしたわけではないんです。すいません」
自分の非礼をわびた。
「てっきり、樹海を汚したことで説教をうけるのかと」
彼は二度、三度咳払いしたあと彼は真面目な顔を作った。

「あの張り紙ですか?逆になんだと思いますか?」
私は唸った。まるで検討がつかない。
樹海、意味不明な内容、慈善団体。
この3つからはじき出されうる結果はなんであろうか。

「皆目検討が付きません」
素直な感想だった。
かれは会心の笑みを浮かべると首を縦に振った。
「それでいいんです」
「は?どういうことですか?」
「気になりますか?」
「そりゃぁ……まぁ」
「それが目的なんです」
「というと?」
「あれね、自殺予防用なんですよ」

「えぇと?まったく意味が分からないのですが」
「自殺する人っていうのは大抵がしょうもない理由です」
「まぁ、他人から見ればそのとおりでしょう」

「だからもう一度しっかり考えることができれば自らの命を散らすなんてことは起こりえないのです」
「……」
「僕は考えました。どうやれば彼らを死の淵から救い出すことができるのか?」
そこで彼は手を打った。
「そこで思いついたのです!」

彼は一旦そこで間を取った。
「しょうもないことを考えさせるのです」
「は?」
素の表情と声が心の底よりにじみ出てしまった。
もはや呆れ果てて口から漏れる言葉すら無い。
意味がわからなさすぎる。考えることを脳が否定していた。

「もしあなたが自殺するとして、現世に悔いを残したまま死んでいきたいですか?」
「いえ……」
「好奇心猫をも殺すというのはよく言われることですが逆もまた然り、好奇心は活かすこともできるのです」

荒唐無稽のようにしか聞こえない話だ。まったくもってばかげている。

「そんなことしてなんの意味があるんですか?」
「なんの意味があるかって?」

「現にあなたがここまで来たじゃないですか」
あっと声が出た。
たしかにはじめは純粋な憤りから起こしたこの行動だったが、最後は好奇心に突き動かされていた。

「現にこの張り紙を貼りだしてから自殺者の数は激減しました……それはあなたが一番良く知ってるでしょう?」
「確かに」
それは事実だ。
解けてしまうとあまりにも当たり前すぎる回答になんだか憑物が落ちきってしまったようにスッと肩が軽くなる。
すでに、日は落ちかかっていた。

帰りの電車では信じられないほどに熟睡することが出来た。
死にたいという願望はすっかりなくなっていた。

 

【単発物ホラー】樹海の中で

小説タイトル作者タグ読了予測時間(分)
みっくちゅじゅーちゅ夜空人間系、グロ注意4
その瞳は何色か夜空ミリタリー、人間系5
ドライブKAITO人間系、パッと読み1
トモダチ瀬尾標生心霊系3
犬鳴峠夜空心霊系5
ピアノと妖精瀬尾標生心霊系6
藁人形夜空心霊系、怪奇系4
幻の原稿夜空怪奇系10
サツジンジケン瀬尾標生心霊系、怪奇系5
樹海の中で夜空心霊系20
違和感瀬尾標生心霊系、グロ注意8
ミソカヨー夜空心霊系、怪奇系10
嫌な家夜空心霊系、怪奇系7
悪魔(上)瀬尾標生心霊系、洋風12
悪魔(下)瀬尾標生心霊系、洋風7
鼻(前編)夜空人間系、意味怖10
鼻(中編)夜空人間系、意味怖10
鼻(後編)夜空人間系、意味怖10
(E)scapeGoat瀬尾標生人間系、サバイバル系7
Night Terror瀬尾標生人間系、パッと読み1
隠し家の三悪人(上)夜空人間系10
隠し家の三悪人(下)夜空人間系10
ホクロ夜空意味怖、閲覧注意5
緊急停止初矢粒人間系、グロ注意3
訳あり物件まるけす人間系、都市伝説、一部実話、パッと読み1
迷信不信初矢粒意味怖、心霊系4
産まれて来るキミへまるけす意味怖、心霊系5
魂売りませんか?夜空意味怖、心霊系5
大物youtuber夜空意味怖、心霊系5
後ろ夜空意味怖、心霊系5
鉄の雫初矢粒人間系、グロ注意5
催眠まるけす人間系3
人魚姫その後
夜空意味怖6
ゆうかいなう初矢粒意味怖5
めいにち夜空人間系、パッと読み3
同窓会夜空意味怖5

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