OVER ENDING【Re:bit】 第10話 四番モニター

「コウヤ、現実世界には残機余分に無いんだからもっと考えて行動しとけ」
「バっカ、コンティニュー出来ないから、何にでも挑戦するんじゃねぇか? ゲームじゃねーんだから衝動的なぐらいが丁度いいんだよ。一瞬だった……だけど……オレ、見つけたんだぜ? 桃源郷シャングリラってやつをよっ」

普段はバカだが凄い説得力だ。覗きの正当化に使うには勿体ない才能だけど。

「あ、うんっ。コウヤ? 言ってることは間違ってないけど、次やったら『残機は0』だからねっ?」
「ッうへ、はひぃッ!! ゆ、ユナ様!」
「ナユも分かったッ?」
「わ、分かった分かった。覗かないです。はい」

分かったも何も俺は何もやってないんだがな。風評被害だ。巻き込むんじゃねえよコウヤ。

エントリーを済ませた俺達は昼に打ち合わせた通りに列の後ろの方に並び後半に挑戦する事にした。
携帯端末に送られてきた情報によると、俺が想定していたよりも参加人数は少ないようだった。ライバルは少ないに越したことは無いんだが、出来るだけ多く情報は集めたい。初見プレイは避けるべきだ。

技育専には最新VRC端末が百台近く配備されている。普通のゲーミングスクールでは多くても50台程らしいが流石は政府直下の学校と言うだけはある。
選考会には500人ほどが参加すると見ていたんだが、エントリー人数は実際には200人前後しかいなかった。
これはつまり予定では4回はあると思っていた『下見』が一回しか無いって事を意味している。難易度がかなり上がったってことだ。

「私達は第二陣で挑戦することになりそうだねっ、初見殺しとか無いといいなぁ」

全くだ。こういう時に一番注意すべきは『初見殺し』と呼ばれる予想外の攻撃による<即死攻撃ゲームオーバー>。
正攻法での攻略難易度はかなり高く、予備知識が生死を分ける事になる。
もう一つ見ておくのは『パターン』だ。特定の行動がトリガーとなるカウンター攻撃、条件分岐する移動ルートなどを把握しておけば<安地ハメノーリスク>でクリアができる場合もある。
だから俺達は誰かが『人柱』としてプレイした後に挑戦するんだ。

≪――これより、実技選考会を開始いたします。準備のできた生徒から順にリマインを開始して下さい≫

実行委員による放送が流れると<ルールを分かっていない生徒達>が一斉にリマインを開始した。

「年末のバーゲンセールかよ。自分たちが人柱って自覚ないんだろうなアイツら」
「……あれ? えーと……ナユ。あの……、四番モニターに映ってるのって……」
「……そうだな。作戦通り行けそうだな!」

「ナユ。<現実モニター>みて」

嵐の前の静けさということわざを聞いたことはあるだろうか? そう、暴風吹き荒れる前に訪れる不気味な静寂の事を意味している。逆に『普段騒がしい奴』が静かな今、嵐の前触れだろな。
見たくない。大体予想がついてしまうから嫌だ。

「 「 「喰らえッ! 大いなる裁き下す聖騎士ホーリーナイト・ジャッジメントォオッ!」 」 」

「「いいぞー晃也ー!」」「「佐藤君がんばってー」」

脅威のフラグ回収率。まさか自分達から『人柱』が出るとは思っていなかった。四文字に集約するならば『プランB』、絶対に狙ってボケているだろッ!
ちなみに『B』は『馬鹿な奴、先陣斬って、人柱。放置でおk』の略称だ。

「あいつの事は気にしないでいいユナ。俺達はするべきことをしよう……俺達は最後の方に挑戦だ」

しかしまあ、運動が得意なだけあってコウヤは『体』の動かし方を分かっている。
研ぎ澄まされた感覚神経と抜群の運動神経から織り成される反射神経が肉体を常人離れした反応速度でコントロールする様はまさに『野生』の如く、敵疎かそれを観る者さえも圧倒していた。
通常、『認識』し『判断』を下し『動作』するには約0.2から0.3秒のロスが生じる。格闘ゲームで言うところの<溜め動作スキ>が現実世界では存在する。
しかしリマインすると肉体を含む物理情報は電子情報に再構成され、VRC内では『体』を現実程のロスト無しで動かすことが可能となるんだ。
コウヤの動きを見る限りだとは踏込から発生まで5、6フレームも無いんじゃないかと思う。

「「うおおッ!! 絶対防壁インペリアル・プロテクションッ!」」

「……コウヤの奴、あれなんとかなんないのか?」
「あ、ははっ……、無理だろうねぇ……はは」

あの意味の無い技名を叫ばなければ、もう2、3フレームは短縮できそうなものなんだが……。

大きく振り下ろされた攻撃を<ガード>で受け止めると軸足を中心に地面に亀裂が広がった。
それは、衝撃を地面に逃がす等という芸当がコウヤにできるはずもなく、ただ単純に地面よりも高い硬度で受け止めた事を証明していた。

「「そこだッ! 必瞬聖斬テッサメント・ホーリー・ブレイドォオッッ!」」

地面を砕くほどの衝撃を物ともせず反撃に出たコウヤは完全に名前負けしている斬撃を放つ。
肉を断ち斬ろうとする刃先が敵に触れた瞬間だった。金属の擦れるような耳障りな叫び声と共にノーモーションから放たれた敵の一撃がコウヤの頬を掠める、<条件発動型の特殊攻撃アクティブ・カウンター>――『初見殺し』だ。

「――ッチ!」

亀裂による不安定な足場が狙いを狂わせ紙一重で反れたその一撃は命を刈り取るには十分過ぎる程の鋭さだったが、その重さ故に硬直が長くコウヤに仕切り直す一瞬を与えた。

「デカブツの割に大した速度じゃねぇか……これはオレも本気を出さざるを得ないなッ、覚悟しやがれ!! うりゃあーーッッ!」

カウンターを回避したコウヤは脚を止めず、間髪入れずに攻撃に戻る。

とまあ見てる側からするとハラハラドキドキの迫力ある≪プレイ≫だが、本人からしてみれば『殴り合っているだけ』の強者を決める力比べ。そこにはテクニックも何も無く、単なる『ゴリ押し』なんだよな。

とは言え、攻撃を正面から受け止めて硬直中の隙を突くという<立ち回りスタイル>は凄く参考になる。
俗にいう<前衛職タンク>の立ち回りというのは『間合い』『速度』『威力』の三大条件を把握しやすく、情報収集には持って来いだったりする。
今回みたいに短時間で攻略法を探る必要がある場合は特に助かる。
まあアイツがそこまで見越して人柱プランBを選択したとは思えないが。

ふとモニターの隣に表示されるランキングボードに目をやると、コウヤが病症中二病悪化させている間に早くも戦闘を終えた生徒がいるようで、そこにはに第一陣の順位とスコアが並び始めていた。

「これで、……終わりにするぜッ! 全てを無に還す一撃……」

一段と気迫のこもった声に中継モニターに目を戻すと『デカブツ』は再び大きく腕を振り上げて次の攻撃モーションに入っていた。
しかし、コウヤはそれを気にも留めずに息を整えている。
腰を落し姿勢を低く保ち、剣を捻り相手に先を向ける。コウヤが大きく息を吸い込むと、会場の騒めきは消え去り時が止まったかと錯覚する。一瞬の静寂。

敵の攻撃がゆっくりと、しかし確実に上方から迫っていく。反応速度の限界ギリギリまで攻撃を引きつけ――次の瞬間。

「「「――無心境地チェストォオオッッッ!!」」」

叫び声と同時に、溜めていた四肢に一気に信号が送られる。
その太刀筋は敵を消去するには十分すぎる程滑らかなものだった。
まるでそれは居合の如く。踏み込みと同時に、顔の高さに構えられた刃が最短距離を真っ直ぐに斬り込み『デカブツ』の体を二つに分けた。

≪――討伐対象の消滅を確認しました。十秒後にリマインを終了します≫

「うぉおっしゃああッーー!! どーだぁああ!!」

……でも惜しかったなコウヤ。おまえは馬鹿な事叫ぶから初動が遅れるんだ。
勝ち誇った面をしてコウヤは中継カメラに手を振っているが、その額からは勢いよく<被弾エフェクト鮮血>が噴出していた。

モニターの中継映像は切り替わり、スコアボードにスコアと暫定順位が表示される。

「コウヤ凄かったねっ!」
「そうだな。凄い独り芝居だったな」
「私っ、絶っ対にあんな動き出来ないよ。うわわ…ッ…き、緊張してきたあぁあ」
「大丈夫だろユナなら。まぁ気持ちはわかるが……」

ゴリ押しだった割にスコアは高く、コウヤの暫定順位は二位。
もしかすると『被弾回数』ではなく『残りライフ』的なボーナス換算がされているのかも……。

……しっかし、流石は人気者だ。ゲーム終了早々、コウヤは『黄色い声援達』に囲まれて足止めを食らっている。
悪いが待ってる訳にもいかない。順々に第二陣の参加者も始めているみたいだし、俺達もさっさと終わらせるとしよう。

「あ、ナユ。私もういくね!気をつけてね!」
「了解。ユナも気をつけてな。なるべく敵の攻撃をかわし続けてから倒せ……たぶんそれがいい」
「ん? えっと……? よくわかんないけどありがと! やってみるよ!」

そういってユナは戦闘に向かった。まぁ、コウヤもユナも特に心配はないか。

VRC端末に着き初期設定を済ませていると、遠くから応援とも皮肉とも受け取れる声援が飛んでくる。

「「おーい! ナユーッ! 精々オレ様に負けないように頑張れよっ!」」

俺にしか言わない所を見るときっと皮肉の方か……。

VRC端末に腰を下ろし、背もたれに身体を預ける。
ライフスーツとの同期が始まると背もたれがゆっくりと倒れていきVRC端末のパーソナライゼーションが行われる。

≪――端末の最適化が完了しました。十秒後にリマインを開始します≫

頭の中でコウヤのプレイを思い出す。敵の『リーチ』『スピード』『パワー』そして『カウンター』だ。
あの攻撃が死線だな、油断せずに集中して攻略しよう。

瞬きをするようにごく自然に瞼を閉じると精神は肉体を離れ、電子情報体プログラムに魂が転写される。
無事にリマインが完了すると仮想空間作り物の世界の光色が塞いでいた目蓋を叩く。
そして目を開けると、広がる景色はフィールドへと変わり時計の針が時を刻み……戦いが始まった事を告げていた。

「……ったくコウヤのやつ。誰が負けるかよ。――<優勝する勝つ>に決まってんだろ」

◇第10話

各話サブタイトル作者
登場人物紹介こちらNORA×絵師様
プロローグ/第0話主人公補正KAITO×NORA
第1話偽りの始まりKAITO×NORA
第2話A.シャンプーKAITO×NORA
第3話ミス・パーフェクトKAITO×NORA
第4話馬と鹿KAITO×NORA
第5話忍者だってッKAITO×NORA
第6話トレードオフKAITO×NORA
第7話正義と欠陥KAITO×NORA
第8話死に急ぐ者KAITO×NORA
第9話友の追悼KAITO×NORA
第10話四番モニターKAITO×NORA
第11話ボーナススコアKAITO×NORA
第12話試験範囲KAITO×NORA
第13話アルファリーダーKAITO×NORA
第14話トレジャーハントKAITO×NORA
第15話チェックシートKAITO×NORA
第16話レバガチャKAITO×NORA
第17話記念写真KAITO×NORA
第18話手応えKAITO×NORA
第19話仲裁KAITO×NORA
第20話気遣いKAITO×NORA
第21話不貞寝KAITO×NORA
第22話ナカヨシKAITO×NORA
第23話ハーフタイムKAITO×NORA
第24話ルート分岐KAITO×NORA
第25話リアシートKAITO×NORA
第26話レストランKAITO×NORA
第27話夜の景色KAITO×NORA
第28話アクビKAITO×NORA
第29話ネクタイKAITO×NORA
第30話ドラゴンブレスKAITO×NORA
第31話尻尾KAITO×NORA
第32話反省会KAITO×NORA
第33話ノーデリカシーKAITO×NORA
第34話待ち時間KAITO×NORA
第35話キョウイKAITO×NORA
第36話リプレイデータKAITO×NORA
第37話初見明人KAITO×NORA
第38話ラクガキKAITO×NORA
第39話模範解答KAITO×NORA
第40話レシピKAITO×NORA
第41話実技本戦KAITO×NORA
第42話ファーストブラッドKAITO×NORA
第43話絶望と記憶KAITO×NORA
第44話試験開始KAITO×NORA
第45話醍醐味KAITO×NORA
第46話作戦開始KAITO×NORA
第47話必殺の一撃KAITO×NORA
第48話全力の結果KAITO×NORA
第49話ルールの思惑KAITO×NORA
第50話閉会式KAITO×NORA
第51話/第一部完結優勝チームKAITO×NORA

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