【ホラー/怖い話】ミソカヨー

イラスト作者様
リンクイラストは日向よよさんに描いていただきました!
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これは私が大学一年生のときに体験したことです。

当時の私は華の19歳!
学期末試験も無事にパスして大学の夏休みに突入した私にはある野望がありました。

それは年上の彼氏を作りたいってこと。
もっというなら社会人で独立してて、包容力のある人がいいなぁとおもっていました。
もちろんそんな男の人なんて都市伝説なみにしかいませんし、仮にいたとしてもまぁまず間違いなく彼女もしくは嫁さんがいらっしゃいます。

だけれども、そんなことで諦めきれないのが私でした。
あらゆる社会人サークル、もしくはSNSを駆使して男漁りをしまくったのです。

そして、必死の努力から二ヶ月後。ようやくお目当ての相手と巡り会うことができました。
ヤマグチ テツオ
それが彼の名前です。
彼との出会いは社会人サークル。
人狼というゲームを主催しているところでたまたま知り合ったお相手でした。

彼は中肉中背でもし町中なんかですれちがったとしてもまず振り向かないそういう容姿の殿方でしたが、人と違うというかなんというか。不思議な魅力をその内側に宿した人でした。

彼は27歳。
まさに働き盛りといった年頃で銀行に努めている堅実家でもありました。
銀行に努めているというと堅苦しい印象を受けるかもしれませんが、彼、ヤマグチさんはそんなことはありませんでした。

彼はとてもおちゃめな人でした。
時々ふざけすぎるときもありましたが、多くの場合ではその明るさに心惹かれたものでした。彼といるとほんとうに時間が立つのが早かった。

ただもちろん彼も人間ですから欠点はありました。
それは少々スケベだったこと。
男の人ですから多少は仕方ないですが、彼の場合はすこし強すぎる感じもしました。

だから彼から山登りに誘われたとき、はじめは非常に戸惑ったのです。
私と彼には共通の趣味がありました。それは登山です。
ガチガチの登山というわけではなく、初心者に毛が生えた程度のものでしたがお互いの共通の趣味ということで何度か盛り上がったことのある話題でした。

男の人と二人で山登り。
人生で一度もない経験でしたが、当時の私はまだ若くて危険を省みない年頃の子でしたし、また恋は盲目というものなんでしょうね、彼のことを危なくおもうよりも信じたいという気持ちのほうが私の中では優っていたのです。

だから私は「はい」と2つ返事で返してしまいました。
それがどんな結果をもたらすかなんて知らずに。

△△△   ▲▼   ▽▽▽

私達の山登りは夜中に行います。
理由は単純で、日差しが強いとバテバテになってしまうから。
それに、夏場の山って面白いんです。
いろんな生き物が山のなかで動き回っている気配を感じながら木々をかき分けながら歩きまわるのはわくわくして好奇心が掻き立てられます。

その日は快晴でしたから、夜空がとても美しかったのを覚えています。
都会ではまず見ることのできない満点の星空のもとで照らされた彼の横顔は普段見ることのできないような影の照り映え方をしていてどこか艶かしさすら感じさせました。

山道は一寸先も闇で、かろうじて前をいくヤマグチさんの背中が見えるくらいです。

当然夜の山に光源となるようなものはありません。
頼りになるのは頭に結わえ付けたライト、もしくはスマホの中に内蔵されている赤外線カメラ。その2つだけです。

私たちは山の中腹まで車で移動したあとそこからは徒歩での移動に切り替えました。
標高は並だったので、登り始めたときは二時間ぐらいで帰ってこれるだろうと目安をつけていました。

星の光こそありましたがその日はたまたま新月に近い日でしたので月明かりが得られずに山道を見つけるのが非常に難しかったです。
思えばその時からいやな予感がしていました。

ライトの調子がやたらに悪かったり、買っておいたお守りがブチリとちぎれて地面に落ちたり。
そんな怯える私の様子をヤマグチさんは敏感に感じ取ったのでしょう、不安がるわたしに一言、三言ジョークを飛ばして笑わしてくれました。
「それに、もうここまできちゃったら登っちゃうしかないよ」
「でも……」
「いいからいいから」
そういうと彼に手首を掴まれました。
力強くて頼もしい大きな掌でした。
彼に引かれるまま山道にはいっていきます。山道とはいいましたがほとんど整備されていないような自然むき出しの獣道です。

そのころには私も諦めて自分の脚で歩いていました。
ライトのつまみをいじって下に向けます。
こうすることで下を照らしながら、前をむいて歩くことができるようになります。山道で下をむいて歩きまわるのは危険です。町中をヒールで歩いている時とちがって、山のなかでは目の前に何が出てくるかはわかりません。岩や、木の根っこで脚をくじいてしまった場合、その場でとれる方法は簡単な処置をしたあとその場で放置。救出作業は翌日というのがだいたいの場合です。
つまり一日間暗闇の中に放置されるってこと。
どう考えても私だったらまともな神経でいれるとは思いません。
足元に最大限の注意を払いながら一歩ずつ着実に歩みを進めていきます。

「ミソカヨー」
不意に声がしました。
あの言葉は何語でもありませんでした。うまく表すことができません。
それでも無理やり私の耳にこびりついたそれを文章にするとこうなりました。
文字に起こすと間抜けに聞こえるますが、真暗な闇の中で背筋をねぶるように聞こえたその声は心底気味の悪いものでした。

「なにか言った?ヤマグチさん?」
はじめはヤマグチさんが私いたずらをしかけているのだろうとおもっていました。
「え?何が?」
「さっきの声だよ」
「いや。なに一つとしてしゃべってないけども」
彼は何を当たり前のことをいってるんだと言わんばかりの顔をつくりました。
私は、あの声はなんだったのかと聞き詰めたい衝動に駆られました。
でもめんどくさい女だと思われたくなかったので、喉までせり上がってきた疑問の声を腹の中に落とし込んでただただ脚を動かすことに集中し続けました。

行程の3分の1に差し掛かったころでしょうか、急に開けた場所に出ました。
山のなかには、落雷などによって火災がおき、辺り一面が焼け野原になった結果開けた場所ができることがあります。
しかしそういったのとはまた違う場所でした。
明らかに人の手が加わっています。
切り株やが引っこ抜かれ、地面はある程度ならされています。
キャンプ場のようにも思えましたが、こんな人気のないところにこんなものを作る必要はないように考えられました。

「なんでしょうね。ここ」
彼はなにも答えませんでしたが、しばらくするといきなり動き出しました。
ヤマグチさんにはなにか思い当たるふしがあったようです。
「確かこっちに」
と一人で歩いていってしまいました。

私は慌てて彼の背中を追いかけました。
やがて私達の目の前には古びた神社が現れました。
神社だったもののほうが正しい形容表現かもしれません。
屋根は傾きかけ、自重をなんとか朽ちかけた木の端くれのようなものが支えている有様でした。

「廃神社だよ」
「廃神社?」
「そう。ほんとは本家だったんだけどさ」
ヤマグチさんは一切止まる気配はない。
そのまま廃神社の入り口にまで歩を進めました。
苔に覆われた鳥居の薄らいだ赤が見えるほどにまで近づきました。

「下の分社のほうがお参りには便利でしょ?だから分社を本家にしてこっちを廃棄したってわけ」
「そんな売れないテーマパークみたいな……」
「ことがありえるんだよ。日本だもん」
にっと彼は口の橋を持ち上げて笑いました。
「八百万もいるからね」
その説明で私はなんとなく納得してしまいました。
「どうせならちょっと入ってみようよ」
「えぇやだよ!」
私は絶対に入りたくありませんでした。
たださえ何かがでそうな気配以外しそうにないのに廃棄された建物のなかに入るなんて!
地雷原でタップダンスを躍るようなものでした。

「いや!絶対に!」
私は渋ったのですが、そんな風はどこへやら彼はたったひとりで神社の軒をくぐって中へと入っていってしまいました。
「お!中はけっこうまともだぞ」
「ちょっとちょっと!」
私の後ろの木々が急に意志を持ったように木枯らした風を舞い上げました。
ざわめきがさながら耳元で囁くように聞こえます。
悪いことに木の擦れの音が私の恐怖心と心細さを倍増させました。
「ヤマグチさん!帰ってきてよ!」

もう体面もへったくれもありませんでした。
半ばヒステリーをおこしたような声音でどなりあげました。
よーよーよーょー。
声が森の中で不気味に木霊するのが嫌でした。

「ははは」
彼は笑っていました。
カチンときました。
私のことをからかっているのです。
なんでこう男の人ってこうわけの分からないことを好むのでしょうか?
私にはとても理解できません。
冗談にしても少々度が過ぎていました。
一発ぶん殴ってやらないと気がすみません。
私は額に青筋を浮かべながら、際限なしに悪口をいいながら、神社の軒をくぐりました。

「ビビリ過ぎ」

へらへらと笑う彼を見てどうにも腹の底の栓が抜けたというかなんというか毒気がしぼんでいくのがわかりました。
彼は本当に子どものように素敵な笑いかたをするのです。
いたずらを叱るのも馬鹿らしくなってしまいました。

私は長い長い溜息をつくと周囲を見回しました。
淡い月明かりの中に浮かんだ神社の板張りは時代の劣化を残しつつも威厳を保っていました。
そもそも神社に入ったのはいつ以来でしょうか?
七五三でしょうか?
そんなことを考えながらもう一つの引き戸を開けました。
すっかり私は目新しさのなかに懐かしさもある不思議な感じを楽しんでいました。

「あれま」
向こうがわは森でした。
「ははぁなるほど」
なんども引き戸を開けたり閉めたりします。

どうやら吹き抜けになっているようです。

その時です。私が気づいたのは。ふと森の奥に目をやってしまいました。
木々のなかに何かが佇んでいました。
はじめは人かと思いましたが、その細く伸びる影が明らかに人間のそれではありませんでした。
胴体から伸びる影が六本もあるのです。
よく見ると首の部分でぼっきりと何かが折れて飛び出していました。

「ヤマグチさん」
名前を呼びました。
一度目は軽く。二度目はすがるように。

影は少しづつ膨れ上がっていました。
いや違います。少しづつこちらに近づいてきているのです。

「なに?」
「何かがいる」

私は影に向かって指を指しました。
もうすでに朧気ながら月明かりに照らされたシルエットが判別できるようにまでなっていました。

「なにも見えないよ?」
「そんなわけ無いじゃない!あんなにはっきりみえるのに!」
「ほんとになにも見えないんだよ」

全身の神経が警戒を発散していました。今すぐに振り返って走りだせと。
私はヤマグチさんの腕を取りました。
「帰ろう」
「え?なんで?」
「いいから!」
我慢の限界でした。
影が爆裂的にふくれあがりました。
私は大絶叫をあげて走り出しました。

森のなかへと、山道を駆けぬけました。後方へと景色がながれていきます。
風や、木の葉がびしりと頬を打ちました。気にしません。
ごうごうと音がなりました。それは風の音だったのかもしれないし、自分の血が巡りに巡った音だったのかもしれません。
とにもかくにも無我夢中でした。

そのまま振り返ることもなく走ること、一分。
全身に乳酸が回って視界の隅に赤黒いものがこびりついていました。
火照った体はもうこれ以上は動いてくれそうにありません。
もう逃げ切れたと、脚を止めました。

「ミソカヨー」
びくりと全身がふるえました。

声は間違いなく私のすぐ後ろの方から聞こえてきたからです。私は首を動かそうとしてやめました。筋肉が考えられないほどに強張ってしまっていたからです。
ー振り向いたら死ぬ。
直感でわかりました。

震える手でポケットの中を弄ります。目的のものはなかなか見つかりませんでした。
少しでも離れようと歩き始めました。
一歩ずつ歩くごとに後方でもみしりみしりと腐葉土を踏みしめる音が聞こえました。
そうです。ついてきているのです。

「早く早く早く落ち着いて落ち着いて落ち着いて」
口に出しながら少しでも落ち着こうと心がけます。
その甲斐あってかようやくポケットの中から鏡をとりだすことに成功しました。
パチリと開いてすぐ後ろを映します。

鏡の中は異世界でした。
こんなことがあっていいのでしょうか?
淡い光に照らされたその影は化け物でした。

黒くてうねうねしたものが蛇壺となって全身を覆っています。
それは循環していました。
渦をまいて中に吸い込まれていき、そのまま放出されていきます。
ときおり甲殻類の脚を思いださせるような数本の棘が人間で言う顔の辺りからでたり入ったりを繰り返しています。
おそらくはあれが口なのでしょう。
辺りには魚をさばいた時のような、すえた臭いが充満していました。
全身が膨れ上がり、しぼんで、膨らんで。

その時、壊れたリコーダーのような音がしたのです。
「ミソカヨー」

私は泣き笑いのような表情を浮かべるよりほかにありませんでした。
人間の恐怖という状況のなかでも最も恐ろしいのは自分の置かれてる状況が分からないことでしょう。

化物はその顔をくしゃりと歪ませつつ一定の距離を持って近づいて来ています。
さながらいつでもお前のことなど殺すことができるのだと言わんばかりに。
呼吸がはっはっと乱れます。
吐いた息が闇夜に溶け込んでいくのを重たい静寂が覆い隠しました。
頬を伝う汗がウェアを濡れそぼらせて最高に気持ちが悪い。

悲劇が起こりました。
鏡のなかの姿に気を取られすぎたせいで、足元を疎かにしてしていました。
視界がぐるりと回転したのです。
あ、と声が出る頃には激痛が足裏から脊髄を貫いていました。

「いっ」
声をこらえました。
化物に弱みを見せてはいけないと思ったのです。
しかしそれは意味がない抵抗でした。
脚はただの飾りと化していました。
そっと触れると、焼け火箸をあてられたような鋭い痛みが走りました。

「くそくそくそくそくそ」
呪詛の言葉を吐いてもどうしようもありません。
私はその時になって、手鏡を落としてしまったことを気付きました。

首根っこを恐る恐る後ろに向けました。
真後ろにそれはいました。

黒々と開いた穴が覗いていました。
その中には顔が覗いていました。
鹿でした。
ただ、その双眸は正面についていて、私のことを恐ろしい形相でにらみつけているのです。

そこでふっと目の前に黒い靄がかかりました。
あまりの恐怖で意識が飛んだのでした。

△△△   ▲▼   ▽▽▽

「大丈夫け?」
次に目を覚ました時一番最初に目にしたものは老婆の顔と、見知らぬ天井でした。

「ここは?」
「山の麓」

老婆の話によるとわたしはどうやら山の中で倒れているところで保護されたようでした。
寝ぼけた頭に活が入るに連れて少しづつ絡まった記憶の糸が手繰り寄せられて、鮮明な記憶が蘇ってくるのがわかりました。

「化物!」
私は思わず叫んでいました。
おばぁさんは優しそうな目を少し開くと、私の話を疑いもせず親身に聞いてくれました。

「それは山神さまでよ」
「ヤマガミ?」
「そう。この森の守り手さ。麓まで行けるか不安でついてきてくれたんだろなぁ」

私はその時まで信用することが出来ませんでした。

しかし、後日、ヤマグチさんがレイプ犯で指名手配されたときにはもうそんな考えは吹っ飛んでいました。

廃神社の裏からは三人の女の人の死体が見つかったそうです。

 

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