【ホラー/怖い話】嫌な家

コンドウさんがその家に引っ越してきたのは2007年の話である。
ちょうど朝青竜がサッカー事件をやらかし、出場停止処分をくらっていたころにこの物件の情報をみつけたのだそうだ。

値段は中古一戸建てで上三桁のお値段。
一千万円台の物件がごろごろしているこの辺りでは破格といっていいほどに安い物件だった。

「そのときから少し感づいてはいました……幽霊物件なんじゃないかって」

しかし当時、どうしても自分の持ち家が欲しかったコンドウさんは多少のことなら我慢する覚悟でその物件を購入したという。

「もちろん、いろいろなことは聞きましたよ。どんな家なのかって」

すると返ってきたのは前の家族が失踪。
だれも住まなくなり空き家になっていたところを市が抑えたのだそう。
家族が失踪した場合、浮浪者やよくない家業の方々が住み着いてしまうおそれがあるため、引取手がいないのであるならば市が管轄に置くのが一般的である。

「失踪?なんで?」
「さぁ……」
不動産業者の口ぶりは重たいものであった。
まるで何か言えないことが合って歯にものがはさまっているかのように。
そこで引き下がるコンドウさんでは無かった。
もともと持ち家がどうしても欲しかったのも自分自身の店がもちたかったからである。
その持ち前のコミュニケーション能力を活かし、なんとか業者を説き伏せ、なだめすかし、かろうじて情報を得ることに成功した。

「統合失調症?」
「えぇ……生前は商店を営むしっかりした男の方だったそうですが、その無理がたたって老後は不幸なものとなってしまったそうです」
「不幸というと?」
「なんでも見えないものが見えたり、どこからか自分の悪口が聞こえたりだとか」
「それは病気で?」
「はい」
「霊的なものではなく?」
「そんな!ありえません!」
不動産業者は大げさに否定した。
「あそこの場所は証明書をだしてもいいくらいに綺麗な土地ですよ!もともと農地でしたし、近隣でなにか起こったということもありません」
「……」

コンドウさんは一瞬迷ったものの結局購入することにした。
「やっぱり安いってのが大きかったですね、ショバ代にかける値段をおさえることができればその分ほかの設備金を回すことができますし」

彼はその脚で実際に現地に赴いた。
「かなりいい場所でした。駅に近いし、なによりも周りがしずかなところだった」

家をみると感じていた不安もどこへやら、ここでないと駄目だという気持ちになっていたのだという。
そこからはとんとん拍子に話は進んだ。

「頭金やら敷金やらは前もって用意しておきましたからね。楽でしたよ」

不動産会社のほうも不良債権化していた物件をさっさと売っぱらってしまいたかったのだろう、言われるがままに書類を書いてしまった。
かくして、この物件はコンドウさんの手に渡った。
当時を振り返って彼は浮き足立っていたと自分自身でも認めている。
「せめて、家の中をしっかり確認してからでも遅くなかったと思います」

この家の異変に気づいたのはなんと購入から一週間もたった後であったとか。

ーなんで異変に気づいたのですか?
「音ですよ」
ー音?
「えぇごそごそと何かが動きまわる音が四六時中」

溜まったもんじゃなかったですよーあんなもんみせられちゃ。

話は続く。

彼はその異変を解決するべく2階を念入りに調査を開始した。
「するとビンゴ」
二階の一室のクローゼットにそれはあったのだとか。
天井からたらされた蜘蛛の糸。
それがそのハシゴであった。無理矢理に天井を引剥したのであろう破片ああちらこちらに散乱していた。
そしてぽっかりと開いた穴の中には漆黒が黙念と身を横たえていた。

「怖かったですよ……でもほっとくほうがもっと怖いことでしたからね」

コンドウさんはなけなしの勇気を腹の中から絞りだすと、ハシゴに脚をかけた。
一つ深呼吸を入れると駆け上がった。

上には漆黒の闇が広がっていた。
しかしそれはたいした問題では無かった。
問題だったのはその恐ろしいほどの臭気だった。

動物の死骸の臭い。それを何らかの消臭剤で打ち消そうとしたのだろうか、花の薫りがかすかに混じっていて、うっかりすると吐瀉してしまうほどであった。
彼は湧き上がる嫌悪を意志の力でふうじこめ、ガラケーを取り出してライトをつけた。

次の瞬間彼の口から飛び出したのは吐瀉物ではなく絶叫であった。

暗闇の中で照らしだされたのは、肉塊であった。
しかしただの肉塊ではなく。

脚があり手があり、頭があった。
代わりに顔が無かった。
いや正確にはあまりの苦悶の表情に彩られたそれは幾重にも刻み込まれた皺と同化して判別のつけようがなかったのだ。

それからのことはよく覚えていないらしい。
家から転がり出た彼が警察に連絡したところで記憶は始まる。
「家の中に変質者がいるって通報しました。屋根裏に変な人がいるって」
そのあまりの取り乱し方は、思い出しても未だに恥ずかしいと苦笑する。

しかしその必死さのおかげかすぐに警察は来て対処してくれたそうだ。
「絶対幽霊だと思ってましたからね。まさか血の通った人間だとは思わなかったですよ」

あっさり屋根裏の変質者はとっつかまった。
その正体は齢80歳はこえるのではないかと思われる老婆であった。

「浮浪者だったら楽だったんですけどね。なんと身元を確認してみると前の持ち主の家族だったんですよ」

オチミチ カズヨ
前のオーナーの母親にあたる人物であった。

「厄介なことになりました。法律上だといくら市の管轄にあったとはいえ、このバァさんにも家の所有権がある。だから叩き出すことはできない」
彼はそのカズヨさんを家に置いとかなければいけない羽目になってしまったのである。

「いやぁ大変でしたね」

その気持の悪い得体のしれないばあさんと同棲しなければいけないのだから。

「なによりも参ったのが、夜中にぶつぶつ言い出すことでしたね。気味悪いったらない」
壁の中に何かいるだの
天井に這いまわってるだの

ーそれは大変でしたね。
「いえ。あながち間違ってもなかったんですよ」

なんでも改装中にも妙なことが起こったのだとか。
機会の電源が入らないのは当たり前、窓ガラスがやたらに曇る、工事責任者が熱病で倒れる。

「それに参ったのが地元の客が一人も入らない」
まるでなにか悪いものが取り憑いていることを知っているかのように。

そんなある日のことだった。

客がその日はたまたま一人だけ入ったのだという。

「変わったお客さんでした。店に入るなりメニューもなにも見ずにただ一言」

「オーナーはいるか?」

とだけ言ったんです。

「僕ですよ」

突然の闖入者は仁王立ちでコンドウさんをギロリと睨む。

「あんた悪いことはいわねぇからここから立ち退いたほうがいい」

「目が点になりましたね。なにが悲しくていきなり入ってきたやつにそんなことを言われなければいけないのか」

コンドウさんは言葉の意味を理解するよりも早く、頭に血が上るのが先だった。
誰だって、ようやく叶えた夢にツバを吐かれるようなことをされては冷静でいられないだろう。

「なんなんだ。あんたは」

「こっちが聞きたい。なんなんだあんたは。この家がどんななのか知らないのか」

「俺はこの店を買ったんだ。あんたにとやかく言われる筋合いはないね」

「買ったぁ!?」

そこで男は、厳しい顔をぎょっとした顔に変えたという。

「あんた、それは騙されてるんだよ」

そこでようやく僕は、この家が恐ろしい家であったことを知らされたのです。

この家に住んでいたのは、しっかりものの一家であったと紹介されていた。
しかしそれは商人としてしっかりしていたという意味で、人間的に清廉潔白であったかといわれるとそうとは到底いえなかった。

「もしこの世に金の亡者ってのがいるとしたら、まさにこの一家が当てはまるでしょうね」

とにかく金にうるさく、一円を惜しむためなら他人が犠牲になろうがなにしようがお構いなしであった。

「彼のおかげで一家離散になった家庭も1つや2つじゃなかったそうです」

そして、ぶよぶよと他人の血を吸い取り続けて建てられた家、それこそがこの家だった。

「でも、勿論この家を立てたのは前の一家ではありません。この町の大工です」

大工たちは話し合った。この金の亡者に天誅を下せないか。

「そして彼らは復讐を果たしたのです」

彼がやったように大工たちも一銭でも惜しむことにしたのだ。

「建築資材でただ同然に引き取れ最高級資材ってなんだと思います?」

ー正解は、墓石を砕いた石灰質です。

かれらは、それで土台を作り、家を立てた。
幾万の無縁仏たちを砕いた石の上に建てられた呪いの家を。

「その後?ご存知のとおりですよ。呪いは成就しました」
夫は発狂。妻は痴呆老人に。
そして、程なくして老婆は、浴室で首をつって死んだ。
かくしてこの話は終わりを告げる。

ー結局店は?

「店ですか?そりゃぁ閉めましたよ。そんなとこでとてもじゃないけど営業できません」

ー大損だったでしょう

コンドウさんはにやりと笑った。

「いいえ。実は今家に住んでるんです」

ー幽霊物件にですか!?

「えぇ、機械は幽霊なんか気にしませんからね」

この幽霊物件は現在では、携帯の中継基地として市街地にひっそりと佇んでいる。

しかし、コンドウさんの話によると事故物件の表示義務の切れる10年目には売りに出すのだという。

来年もし、格安で売りに出されている物件があったら気をつけてほしいものだ。

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