【ホラー/怖い話】悪魔(上)

イラスト作者様
リンクイラストは岩葉さんに描いていただきました!
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賑やかな街の中を私は二人の手を握って歩く。風船が空を舞い、美味しそうな料理の匂いが辺りを漂う。人々は大声で談笑し、広場の雰囲気を盛り上げてくれる。様々な形をした楽器達はその奏者によって声を発し、やがて街の一部として幸せを届ける。
今日この場所、ロンドンでは祭りが行われていた。多くの人がこの広場に集まって一緒に祝って、皆で神のご加護の元でまた一年平和に暮らせるようにと祈る。
今日この日を私が降誕祭と言う名で呼ばれていたことを知ったのはつい最近。私には難しいからと“イエスキリストさまの誕生日”と教えられたが、もう理解できる年だという事で教えてくれた。
雪の降る寒い季節だというのにも関わらず、街の人達はそんな寒さなどどうてこと無いかのように笑いあっていた。
「ねぇレイチェル。あそこのパン屋行ってみない?」
ママが指さす方向を目で追ってみると、そこには美味しそうなパンが並んだパン屋が美味しそうな匂いを漂わせてきていた。
あんな美味しそうな物を食べないわけがない。
「うん!行こう、パパ」
「まぁまぁ、急がなくてもパン屋は逃げないぞ~」
「私は早く食べたいの!」
そういって私は私の両手を握っている両親を引っ張って美味しいパン屋を目指した。
それから数分後のこと、パンをたらふく食べた私とママとパパは一緒に教会に行くことに成った。降誕祭なのだ。教会に行ってミサに参加するのがこの町、というかこの国での常識なんだ。他の国は知らないけど、この国ではそうであることは間違いない。
美味しそうな屋台が並ぶ道を歩きながら何度も匂いに惑わされたけれども、どうにかして私たちは教会にたどり着いた。
目前に広がる綺麗な礼拝堂はやはり何度見ても美しく人を寄せ付ける魅力があった。それの証拠に、もう既に礼拝堂には何百何千人もの人が集まっていた。確かに今日は降誕祭だから人は普段の倍以上が来ていた。
どうにかして私たち三人の席を見つけて座り、ミサが始まるまで大人しく待つことにした。
「ねぇ、ママ。今日はイエス様の誕生日なんだよね?プレゼントは何をあげたらいいかな?」
「そうね。やはり大事なものかしらね。いつも見守ってくれてるんだから今度は私たちが何か大切なものを送らないとね」
その答えを聞いた私はひらめいた。それならあれを渡せばいいか。イエス様も喜んでくれるかな?
「あ、ママ。私、ちょっとトイレに行ってくるね?」
「そうね、まだ時間はあるから行ってらっしゃい。迷わないようにね」
「はーい」
ニコリと笑って私は二人の元を離れた。それから数十分後に席に戻るとママが心配していた。パパは私を探しに行ったらしくママとは一緒に居なかった。
「ごめんなさい」
「何をしていたの?ママもパパも心配したんだよ?」
「エリカちゃんと他の皆とね話してたの。ごめんなさい」
「――もう大丈夫よ。レイチェルが無事ならいいのよ。ほら、パパを探しに行きましょ?」
「うん」
ママの手をぎゅっと掴んで私とママとでパパを探しに教会内を歩き回った。そして数分後、食堂の方に行ってみるとそこにはパパとパパの友達たちが一緒にコーヒーを飲みながら喋っていた。そんな姿をみたママはパパの後ろに回って「何か言う事は?」と怖い口調で言った。恐る恐る振り向いたパパを強引に連れ出したママは速足で元の場所に戻った。
パパを連れて来て席に座った直後に教会中にアナウンスが流れた。
「もう直にミサが始まりますので、皆さま席についてください」
「危なかったね、ママ」
「本当にね、レイチェル。パパがあんな所で遊んでなければもっと早くつけたのにね」
「……ごめんなさい」
誤るパパの台詞を最後に私たちは言葉を発しなかった。ただ静かに神父様が登場するのを待つ。
すると扉が開いて、そこから神父様が登場してきた。私は手をあげて神父様に向かって手を振った。直ぐにママがその手を下ろしたので気付かないかなと心配したが、神父様はニコッと私を見て笑ってくれた。私はそれに満足してそれ以降は大人しくしていた。立っては歌いを繰り返して、ミサが進行していく中、私はただひたすら嬉しかった。
気が付けばいつの間にか神父様がスピーチをしていた。
「みなさん、今日はどのようにお過ごしでしょうか?私は先程まで街で美味しいお芋を食べてまして、まぁその所為で少し遅れたんですがね。シスター曰く、私は後で物凄く怒られるらしいです」
と冗談交じりに遅れた真相を口にする神父に皆は大声で笑った。流石に怒って物を投げたりする人はいないか、と私は一安心すると周りと同じように笑った。
それから数分間くらい、神父様はこの降誕祭について面白おかしく話してくれた。全ての信者達に解ってもらえるように、知ってもらえるように、楽しんでもらえるように。
「まぁ、そういうわけですよ。だから、皆さんもね、今日という日を目いっぱい楽しんでく――っ!」
だが、神父様の手によって準備された楽しさは、一瞬にして砕けてしまった。

「ア゛ア゛ア゛ア゛アァァァァァァァ!」

一斉に礼拝堂は静かになった。誰一人として口を開く事無く内心さっきの声は何だったのかと疑問を抱くだけ。
響いたのは一人の少女の声。聴こえたのは少女の叫ぶ悲鳴。それ以外は何も聴こえず、何一つ感知できない。
「び、びっくりしました。赤ちゃんの泣き声でビックリしちゃいましたよ。は、はは、ははは」
ビックリしてビクともしない皆を元気づける為に神父様はまた冗談交じりに言葉を口にする。でも、そんな言葉では皆の恐怖は消え去りはしなかった。

「ドン!ドン!ドン!ドン!ドン! ドン!ドン!ドン!ドン!ドン! ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!」

誰かが何かを叩く音。誰かが助けを呼んでる音。誰かが恐怖に浸ってる音。
その音は止まることなく、ただひたすらに響き渡る。放たれては反響し、やがてその音は体に吸収される。何度も何度も繰り返して幾つものドアを叩く音が恐怖を乗せて教会中に広がっていく。
そして、やがて音たちは人々の中に深く刻まれた。
助けてというかのように叫ぶ声。ここから出してとでも言いたいかのように鳴る音。そして止まることを知らない心臓の音。
やがて、それらは器に納まらないくらい膨張し、やがて爆発して器から弾けた。
「あ、悪魔だ!悪魔が現れました!みなさん!避難してください!早く、ここから逃げてください!」
その神父様の一言によって、人々はため込んでいた恐怖心を全て吐き出した。欠片も残すことなく、叫び、走り、暴れ始めた。
ある人は自分の子供を抱いて出口へ走り、ある者は目前の人々を出し抜いて急ぎ出ていこうとする。そんな状況でママとパパは戸惑ってその場から動く事が出来なかった。何をすればいいのか、何処に行けばいいのかすら解らない二人に、私はこういった。
「ママ!パパ!逃げないと!あ、悪魔が出たんだよ!」
「あ、あぁ、そうだね。い、急ごう!俺達も早く出ないと!」
「そ、そうね。早く生きましょ!」
パパは私を抱き上げてママと手を握って出口へと向かった。
流石降誕祭と言うべきだろうか、人の数は尋常じゃない程多かった。普段なら直ぐに外に出られるというのに、今日に限ってはそれは不可能だ。前に進むことすらも難しい中、私たちはどうにかして教会の外へと出ることが出来た。
教会の外に逃げることの出来た私たちはその場で神父様が出てきて支持を与えてくれるのを待っていた。だけれど、神父様はいつになっても出ては来なかった。時が経つにつれて不安が積もっていく大衆をほっておいて神父は何度呼びかけても出てくることは無かった。
待ち草臥れた人々は徐々に足取りを帰路へと向け、教会の入り口付近のたまり場はやがて、寂しくなった。私たちも帰ろうとして教会に背を向けたけれど、教会から神父が焦りながら出てきたでの、私たちは足を止めざるを得なかった。
「み、皆さん!今日は安心して家に帰ってください。大丈夫です、何も心配することはありません」
そう神父様は言うけれど、やはり人々の中の不安は消えることは無かった。だけれど、その言葉が少しは役に立ったのか、まだ残っていた人たちは皆それぞれの家へと帰って行った。当然、私たちも。
夜になっても気になって寝ることができなかった私は、その晩家を飛び出して教会に訪れた。でも、そこにずっと居ても何の音もなることはなく、私はただその場から離れた。


叫ぶ悪魔。もしそれを名前と言うのであれば、その悪魔は叫ぶ悪魔と昔から呼ばれていた。悲鳴をあげ人々を不安にさせるという悪魔のことだ。
その叫ぶ悪魔が出たと報告されたのはあの騒動が起こった次の週の日曜日だった。
「あれは叫ぶ悪魔だったのです」
その事実を知った人々はまた不安に溺れ始めた。もしかしたらこれも叫ぶ悪魔の思惑通りなのかもしれないけれど、人々の不安は黒死病プレイグの如く広範囲に広がっていった。
だけれど
「でも、安心してください!もう既に私が悪魔祓いを済ませておりますので、大丈夫です!もう誰も、叫ぶ悪魔に震える必要は無いのです!これも全て、神のご加護のお陰というわけです!」
という神父様の言葉に人々は不安を振り払って立ち上がる。そこら中から歓声や拍手などの音声が聞こえ始める頃にはもう誰も叫ぶ悪魔を恐れてはいなかった。神父様が止めてくれたのだと、神父様が我々を救ってくれたのだと、神父様が悪魔を消し去ったのだと。
「ん?どうしたの、レイチェル?具合悪いの?」
「だ、大丈夫だよ、ママ。平気だよ」
「怖かったもんね。わかるわ、ママも。でも大丈夫よ。もう神父様が私たちを助けてくれたんだから」
未だに不安そうな表情を見せた私に対し、ママは心配してくれたのか私を抱きしめて耳元で優しく囁いてくれた。その声は甘く、心を落ち着かせてくれる。だから私も、その声に埋まりたくてママを抱きしめ耳をママの口元に近づける。
「悪魔なんてもういない。もう、何も怖がらなくていいんだよ、レイチェル」
「そうだね、ママ」
そう、怖がらなくていいはずだ。悪魔は神父様の手によって消えたんだから。もう何も不安に思う必要はないんだ。
叫ぶ悪魔のことは忘れて、私はミサに集中した。共に唄を歌い、祈りを捧げ、皆の幸福を願った。それで少し気が楽になったのか、夜になるまで私は悪魔に怯えることなく過ごせた。

そして、恐れている夜がやってきた。
誰もいない真っ暗な部屋、私は瞼で瞳を塞ぐことができないまま夜を過ごした。何も見えやしない、見えるとすれば光の射さない黒い天井だけのこの場所で、私はただ布団に抱き着いたまま時を過ごす。
震える体を押さえようとして、心を落ち着かせようとして、何度も私は昔にママからもらったお守りを握っているけれど、ちっとも良くはならなかった。
「だれか……助けてよ」
そんな小さな声は誰にも届くことなく部屋の中で佇む。隣に眠るのは大好きなママではなく、ただ私をひたすら苦しめる悪魔だけ。
「――もう、いやだ」
もう、我慢の限界だった。
パジャマを脱いで外出用の服を着て呪われた家から逃げ出し、私は教会へ向かった。道中、何度も転んではつまずいたけれど、何度も立ち止まろうとしたけれど、私は何度も走った。無我夢中で地面を蹴りながら、見慣れた街並みを通り越して、やがて私の視界には大きな教会が映っていた。
聞こえるのは心臓が鼓動を打つ音だけでそれ以外の音はもう耳には届かなかった。それに安心した私は教会の中に入った。
自分の足音だけが響き渡る教会の中で、私は怯えながら目的の場所へと向かった。
今でも鮮明に覚えている。
あの時の悪魔の悲鳴と激しくドアを叩く音。どちらも同じ場所から発せられたのを私は覚えている。
礼拝堂から少し離れたドアの前に立ち、私は深呼吸をする。このドアを開けた先の廊下にある一つの部屋から声は広がってミサに参加していた人々に不安や絶望をもたらしたんだ。
許せなかった。聖なるミサを妨害し人々に不安を与え恐怖する悪魔を私は許すことが出来なかった。だから、私は覚悟を決めてドアノブに手をあてて中に入ろうとした。
その時だった。
「そこに入っちゃいけないよ」
聞きなれた声。聞きほれた声。
知っている。私はこの声の主を知っているんだ。昔から優しくて親しくしてくれた、あの人の声だ。間違えるはずない。何年も同じ声を聞いてはその言葉を神の言葉だと信じながら生きてきたんだから。
「……神父様」
私の予想通り、そこに立っていたのは神父様だった。見間違えなどありえない。綺麗なその目も、大好きなその声も、抱き着きやすい体格も、全て神父様のものだ。
「レイチェル、ここで何をしてるんだい?」
「わ、私はただ……」
何かを口にしようとした。言い訳でもなんでも言ってこの場をしのごうと考えていたけれど、私の唇はまるで糸で縫われたかのように開くことはなかった。
何も言わない私に不安感を抱いたのか、神父様は首を曲げてもう一度私に聞いてきた。
「レイチェル、ここで何をしてるんだい?」
全く同じ質問。同じ声で、同じ表情で、同じ視線で私にそう聞いてくる。でもやはり、私はその問に答えることはできなかった。相変わらず口は開くことなく、ただ私は恐怖に震えていた。
徐々に神父様がこちらに近づいてくる。一歩ずつ、私と神父様の距離は縮んでいき、二人の距離が短くなっていくごとに恐怖が倍増されていく。
倒れそうになった体を支えるために、身近なものにしがみ付いた。立つことさえも困難な状態で、神父様は近づいてくるのに私は逃げることもできない。
我慢の限界だった。
体の奥から、この音を拒否した。何度も繰り返される音を、私は拒絶した。
「そこに入ってはいけな……ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァァァ!」
「レイチェル、ここで何をして……ドン!ドン!ドン!ドン!ドン! ドン!ドン!」
「聞いているのかい、レイチェ……ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァァァ!」
「答えなさい。ここで何をし……ドン!ドン!ドン!ドン!ドン! ドン!ドン!」
「――いやあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
何で私がこんな目に合わなければならないんだ。
私は何も悪いことはしてないのに、なんでなんで!
私はただ、神様に自分の全てを捧げたかっただけなのに。神様のために、大切なものを捧げただけなのに。
なんで神父様は私を追い詰めるんですか。私は何も悪いことしてないのに。私はただ、ただただ

叫ぶ悪魔の声を止めたかっただけなのに。

【単発物ホラー】悪魔(上)

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