【ホラー/怖い話】隠し家の三悪人(上)

九世紀から十世紀にかけての日本国にあっては、天変地異が頻々とうち続いていた。こと九世紀は天災の類が際立って多く、今日にその時代の文字史料が多く伝わっているからたまたま多く見えるのだ、という歴史家の理性ある解釈だけではどこか割り切れぬものがある。京の都のみに限っても、百年間のうち実に大風洪水が四十五回、疫病の流行十二回、地震(なゐふり)が六回も起きているという。加えて災害は食物の供給を断ち切り、飢餓の原因ともなる。そのような状況においても人類というのは生き延びることができてしまうものである。それが例え死ぬよりも辛いことであったとしても。富める人々の生活様式というのは一様に同じ種類のものであるが、貧しい人間の生活というのは多種多様になるものである。この中世日本において、それは如実に現実みを帯びていた。

 

普段我々は死というものから目をそむけて生きている。しかし食いぶちがないというわかりやすくも明らかな死の恐怖に目を見張らなければいけないとき、人々の行動は様々といえる。中世日本においてもっとも知恵のないものたちのすることが祈祷であった。近所の神社および寺社になけなしの食料と最後の生命線であるわずかばかりの金と銀。それと、人柱としての労働力、自分らの息子たちをこぞって奉った。これは悲痛なものであったかというとそういうわけではなかった。口減らしの一環でありこの時代珍しくもなんとも無かったから、一様に親らの目に映るのは離別の悲しみというよりも安堵の色であった。恐怖と飢えは簡単にひとから道徳を失わせ獣へと姿を変えさせる。叩き売られたあわれな少年少女たちは一様に澄んだ瞳でぼぅと遠くの空をみていた。瞳がすんでいるのは身体に栄養が行き渡っていないため血の巡りが悪くなり、網膜が極限まで薄くなってしまっているからであり、現世にいるにも関わらず夢の中を闊歩しているようにみえるのはどこか頭の中で生を拒む気持ちがあるからである。彼らの耳に怒号は届いたであろうか?間違いなくとどいたに違いない。その大音響は天蓋を裂き大地を震わせるような鋭利な一裂きであったから。

「ごぉぉぉしんたいぃぃぃぃのおなりぃぃぃぃ」

大仰な宣言と共にはいってきたのは神輿にのった奇妙な像であった。

その神輿を取り囲むように大人ーこの場合身体が第一次性徴まで終えた人物のことを指すは一目みようとかけよった。瞬く間に一種のばけものが出来上がった。それは黒々とした巨体をもつオオサンショウウオのようだった。それはその巨体を一度だけぶるりと震わせるとのそりのそりと移動を開始した。寺社の方向へと向かってすべてのものを喰らい犯し潰した。あとに残るのは破壊のあとと、喧騒が立ち上らせる奇妙な陶酔感をもった芥そのものでしかなかった。多数の黒々とした頭たちが揺れ口々にご慈悲やご利益をなどと好き勝手を口に罵る。それらが御神体に触れようと手を伸ばし、神輿を守備している代官たちの棍棒の餌食となって地に伏せる。それを下敷きにしてまた人びとが殺到する、さっと赤い敷物が敷かれ、わらじをあっという間に血染めへと変えていく。

神輿の像はあらゆる矛盾を孕んだ仏陀像であった。彼の説いた無私の心とは裏腹に金でその姿は彩られており、無欲の教えとは違いその像をつくる資金を信徒から絞り出した汚れた財宝に頼っていた。すべてを誤っていたその像はまるでありがたみなど感じさせず、どこか滑稽さを感じさせるほどにできの悪いただの木偶であった。しかしその像を巡って行われている目の前の光景は間違いなく、ブッダの教えの中にある地獄そのものであった。歯茎をむき出し、やせ衰えた身体を懸命に揺すりながら叫び続ける肉の塊は餓鬼そのものであったし、それを酸欠寸前の赤ら顔で棒を振るう法衣に身を包んだ男たちはどう見ても鬼神であった。そして足元にはすでに赤黒いものが地面にこびりついて火炎のごとき赤茶けた水たまりを日光にきらめかせていた。

それをみていた信者より、もうすこしだけ賢い民草たちがいた。彼らは賢かった。つまり災厄に対してはどうしようもないということを、年嵩の重んだものたちは経験でしっておりまたごくごく少数の若いものたちは感覚でしっていた。彼らは今えんやえんやと騒いでいるひとびとよりもほんの少しだけ長生きすることができた。といっても中指と小指の間だけの話であるが。目の前で繰り広げられる惨状を見まいと目を伏目がちにし耳を手で覆った。それでも臭いまでは遮断することは不可能であった。鉄さびの乾いた臭いに人の油の染み込んだ皮の臭い、そして刺すような酸味のある汗の臭い。耐え難いほどに絶望と恐怖の臭いがその場には満ち満ちていた。盲いでいるものですらそこに戦場が存在していることに気がつくことができるほどであった。悲しみは怒りに苦しみは叫びへと変換されていく。

神輿とオオサンショウウオは番のように身をぴったりと寄せ合って寺社へと入っていった。その途端に珍妙な事象が起こり始めた。信徒たちの騒ぎがにわかに凪いできた。あれほどに耳をついていた爆音はなりをひそめ代わりに寺社のなかから風変わりな人物がでてきた。

偉丈夫であった。体長はゆうに三尺を超えている。その巨体はのらりくらりと民衆の前に現れるとゆっくりと両の手を民衆の前に差し出した。途端に静寂の帳が降りてきた。その緩急さと静寂のもたらす奇妙な耳鳴りはその場にいるものすべての耳朶をねぶった。

金色の法衣とゆったりとした直衣に身を包んだその人は疑うまでもなくこの寺院における最高権力者、カネツグその人に違いなかった。

カネツグはこの寺社の正当な後継者となるやいなや一代にして屋台骨の傾いだこの寺社をこの地域最大にまでのしあげた天才的神主であった。それを可能にしたのはもちろんこの大恐慌の時代のせいでもあるが、ある彼自身の類まれなるある才能のおかげであった。それは他人の気持ちを考えずに自分自身の欲のためだけに行動できるというものである。通常の世の中であったなら疎まれ嫌われる気性であったがこの世紀末が具現化したような世の中においては満貫の金よりも価値のあるものであった。他人の気持ちが分からないということは神罰すら恐れないということである。そのため彼はおよそ僧侶にふさわしくないすべての行動を行ってきた。殺しだろうが裏切りだろうが目的のためになら何一つ眉すら動かさなかった。彼がそれだけ手を血の川につけてでも達成したかった夢とはこれまた神に仕える味としてはふさわしくないものであった。つまりは『神』になりたいということであった。

神とは、なんの形容詞的意味合いを含むものではなく文字通りそのままであった。生死与奪の権利をその手中におさめ自らの意向によって世の沙汰を決め、恐れと憧れをその背中にうけるまさにヒトガタを超えた存在そのものになりたいと考えていたのだった。事実の話をするのであればこの時点でかれのその目論見は半分ほど成功していたと言えるだろう。彼はこの場でもっとも賢いものであった。

つまりは神に祈るわけでなく、目をつむりじっと耐えしのぐわけでもなかった。彼が周りの人々と違ったのは単純に現実をみていたというその一点にすぎない。現実をみて自分になにが必要かをーそれがただ単に食事や排泄などといった人間の獣的な本能かた飛び出したものであったとしてもー間違いなく賢者のする行動だった。

カネツグはその視線をゆっくりとなめるように往復させていたがやがて一点を見つめ動かなくなった。その一点にあるのは像であった。彼はじっとその像に目を注ぐと口の端をもたげ笑った。

「美しい」

その笑顔は民草から見たとするならばこの上ない慈悲に満ち満ちた後光のさすものであったと見えたように違いないだろう。しかし実際のところは禍々しく欲望と灰にまみれ、その中に確かに童子の輝きにみちた嬉しさのある複雑怪奇な笑みであった。いわゆる悪鬼のごとき顔面が皮膚の面に張り付いていた。

「皆々よくぞこれまで寺のために尽くしてくれた。この寺社にも徳の高い御神体を呼ぶことができた」

そこまで言うと誰からでもなく一様に膝を付き、ありがたやと彼に向かって両の手赤がこすれおち血が滲むほどにこすり合わせ始めた。それをみてカネツグはなおさらその恐ろしい笑みを顔いっぱいに引きつらせ、誰がみようとも意図が見え透くものへと姿を変えたのだったがどの民草も祈祷に夢中であったのでそのことに気づく者はいなかったのであった。もちろん気づいた者もいたのだったがそれは遥か遠くにいたほんの少し知恵のあるものたちであったので誰に話すこともなく歴史の片隅へと骨を埋めるだけにおわった。

さてここで本題へともどろう。

貧しさは多種多様な人物を産むと書いた。がそれは一様に人物が貧しいときだけだ。この時代においても富める人物がしっかりといた。その一人がこのカネツグであったが彼は金銭感覚というものにまるで無頓着としかいいようがなかった。きらびやかに財宝で彩られた仏陀像も彼のなけなしの財宝をはたいて買ったものであった。そのような前後、身の程をわきまえぬ使い方をしていたので蓄えというものがまるで貯まることが無かった。つまり彼もまた貧民の一部でしかなくその乾いた喉と空いた腹を虚栄心をみたすことによって満たす餓鬼畜生の一人でしか無かったのだった。

それではこの時代における富めるものとはなんであったのか。

答えはきらめく刃だ。白銀が日光を照らしカネツグの目を焼くよりも速く奇妙な物体が胸から飛び出してくるのをみた。彼は二度三度目を瞬いた。彼は夢想家の気のある人物ではあったにせよ現実をしっかりと見据えるだけの胆力をしっかりと備えていた。だからこそ唐突に降って湧いた自らの死という現実から目をそらすことができなかったのだった。

獣の咆哮のような叫びが口から飛び出すと同時に刃が胸元からいきなり引き抜かれた。

短い音がして血の噴水が吹き出すとそのままカネツグは膝をおり祈りを捧げているような格好になった。胸元に添えられた手は真紅に染まりきっている。

「馬鹿な」

それが彼の最後の言葉となった。奇妙な像ができたようにも見える。彼の死体にはくるりと鼠径部に剣が差し込まれた。とともに賊は軽やかに舞でも躍るかのように舞台袖へと滑り落ちた。カネツグはそのままの姿を晒した。神を目指した愚か者は死に様すら無様なものであった。すべてが終わり沈黙がにわかに揺らぎ始めた。いまや知恵の足らない民草にも状況がわかったようだった。怒号とも悲鳴ともつかない、鉄砲水が弾けた。人の輪がそれぞれの意志をもって好き勝手に動き始める。あるものはカネツグを助けようと、またあるものはその場から逃げようと歩を空回りさせた。次第に統制のとれない信者たちは暴徒へと姿を変え始めた。誰かが誰かを突き飛ばす。殴る。蹴る。踏む。殺戮と狂気が人の嵐を呼び込んだ。逃げようとしようにも身動きが取れぬ。もはや人のうねりがすべてを破壊し尽くすのは必然といえた。そんな状況であったから民草の中でたったの一人も神輿の上に大仰に飾られていたはずの金の像が忽然と姿を消してしまっていることに気がつくことができなかった。そう。この時代においてもっとも賢いものとは、人が苦労してかき集めてきたものを根本から抜き削いでしまうもの。盗賊たちであった。

△△△   ▲▼   ▽▽▽

荒涼とした大地は、馬蹄に叩かれるたび夜闇に紛れて土埃を巻き上げる。しばし雨の少ないこの土地、この季節は、どこまで行っても地面が乾いているのだった。わずかな水分を求めて岩の真裏に集った小虫たちが、馬に踏まれて潰れていく。それには、誰とて気づきもしない。どこにでもある、冷え切った大気を除いては。

さて息せききって現れたるは身なりの貧しいいかにも品のない男であった。彼はこの雨季のこぬ不毛な痩せきった大地にてなにを恐れるか、執拗に辺りを見回していた。馬を何度もたぐりあちらへこちらへと歩かせる。そのうちに目的の場所が見えてくる。この荒れた土地にもかつてはちゃんとした集落があったのだが度重なる天災が彼らに退去を迫った。しかしこの村の住人たちは決して天に膝を折るなどということはしなかった。自分らの持てうる限りのすべての知恵と力を振り絞り天にむかって歯向かい続けたのである。努力の根は苦かったが遂に実った努力の実は命の味がした。かくして薄氷の1枚のような危うさをもって奇跡的に自活できるまでに回復させたのであった。かれらの必死のあがきによってかろうじて村は一命をとりとめたかに見えた。結局のところ彼らの命を絶ったのは神などではなく彼らと同じ人間だった。このあたり一体を仕切っていた悪党最大一派の盗賊団が籠絡したのであった。

まさしく口もとから空気がすり抜けて唇の上で弾けて言葉になるよりも疾く集落はただの塵と瓦礫の塊へと姿を変えた。かくしてこの集落は廃棄されあとに残ったのはかつての人々の生活の染み付いた遺跡と、傾いだ地蔵と、さんさんと輝く太陽、ただそれだけであった。焼き討ちされたときの黒ずんだ地面に馬が食む草を探して鼻面をこすりつける。それを手綱で制しながら門をくぐる。

一軒の家が見えてきた。焼け野原の中でその家だけはしっかりと地面に根を張っていた。そこは食料の貯蓄庫となっていたため焼き討ちを免れたのであった。そしてそれはかつての村長や村の重鎮たちに用意されていた邸宅でもあった。彼ら亡き今、ここを拠点にしているのは三悪人だけだった。軒をくぐるとほの暗い闇の中に薄ぼんやりとした建物の輪郭がつかめるほどに目がなれてくる。素朴な外観とは居裏腹に家の周囲には柵が立てつけられており一目みただけでこの場が重要な場所であることが分かる。事実ここは村長の家であった。この盗賊、タイヘイはこの場所に呼ばれたのは初めてのことであったのでなんとも居心地の悪い思いであたりを見回していた。この棟の妙に高すぎる家には相手を威圧するという意味合いもあったのではないかと思うほどにまとわりつくように重苦しい。もちろん今日も火の気が、快いあたたかみを漂わせているのだが、どうにもこびりついた焼き討ちのときの煤が天井にこもりきってその光を天井付近で吸い取りきってしまっていた。死の残粕はいたるところにこびりついていた。敷瓦にふれる薪の爆ぜる音にも、タイヘイのはおる薄い羽織のうえにも、至る所に伺えるのである。特に、黴臭い白壁にこの村の討ち取った各々の耳をつなぎ合わせた麻縄がしっかりと鋲で留めてあるのはのは滑稽であり陰惨でもあった。

「そいつが気になるのか」

暗闇のなかからふと凛とした声が響いた。もう一人の仲間だ。名をコテツといった。

「あぁ」

「なんで耳だと思う」

「さぁ検討もつかないな」

「正解を教えてやろう。昔はな死体で数えてたんだ。ところが死体を真っ二つにして戦果を二倍にする不届き者たちが現れた。だから身体に一つしかない右耳を戦火の確認ようにしようってズミがいいだしたのさ」

押し黙った。それは話の内容が陰鬱極まりないものだったからではなく散々聞いた話であったのでうんざりしただけに過ぎなかったからだ。コテツは火に当たっていた。その小さな後ろ姿が日々揺られて大きくなったり小さくなったりするように見えた。コテツは身体が小さい。しかしそれゆえに小回りが効くといいた利点もあった。今回このねずみのような小男を実働部隊に引き入れたのにもそのあたりに理由がある。盗みや暗殺といった気付かれずになおかつ素早く動く必要のある仕事にはもっとも適している人材でもあった。彼自身はそのことに気がついておらず単に信用されているだけだと思っている節があるが。なんともいえない陰鬱なムードが二人のあいだに立ち込めるそれはお互いに信用していないせいではないし、ましてや先程の悪行を悔いて反省し罪の意識が芽生えたわけでもない。この家のせいだ。夜の暗さを押し込めたような得体のしれぬ重苦しさがこの家に踏み込んだ人物から生気というものを根こそぎ奪い取っていく。まったくもって不可解だ。とタイヘイは心の中でひとりごちた。この家を作った人物は一体何を考えてたった一つしか明かり窓を設置しなかったのだろうか。そのせいであの爽快な蛍光する夜空を除いて、外に何一つ美観を覗かせるものはないのである。四畳半の畳といい、立て付けの悪いふすまといい、牢獄の監房ににた無機質さを覗かせていた。それよりなにより耐え難いのはその四本がいたずらっこのべたべたしたてあかでよごされたような、一日中鬱積していたそこに起居する人間の骨の髄まで染み付くかのような臭いだ。こればかりは耐え難いものであった。

「ズミはどうした」

「ズミは買い出しにいったさ。なんせこいつが手に入ったからな」

首をちょいと傾けた先には星々の光を反射して鈍い光を放つ一体の仏像が佇んでいた。

「そいつがあれば一生あそんで暮らせると思うぜ」

「それはまちがいないな」

「いいや違う」

火花の弾ける音が暗闇に弾けて消えていった。再び二人の間に沈黙が根を張る。

「……どういうことだ?」

「お前は大量の米が手に入ったとしてそれを最後まで計算してたべるか?」

「いいや。食べたいときにたべるだろうな」

「それだよ」

コテツは小馬鹿にしたような笑みをうかべた。

「人間ってのはな莫大なものが手に入っちまうと後先考えず使ってしまうものなのさ」

「何が言いたい?」

「人生っていうのは金だとは思わないか?」

「もちろん金があったほうがいいに違いないな」

「そうじゃない……俺が言いたいのはさ。金があればこの世のなかの悩み事のほとんどは解決できてしまうってことさ」

「それは確かにそうだが……」

「でもこの世の春を再現するには一体どれだけ金があればいい?息をするのだってただではないだろう」

「それに酒や女をかうのならそれこそ途方もない額が必要になるだろうさ」

「ここで米の話とつながるんだ。どれだけ俺らが金をてにいれたとしても結局のところは使い切ってしまう。なら。どうすればこの事態を解決することができる?」

「検討もつかない」

「簡単だよ。物理的につかいきれない量を手にいれればいい」

「そんなこと不可能だ」

「いいや。簡単にできるさ。馬鹿なのか?」

そういってコテツは顎をしゃくった。その線が結ぶ先には仏像があった。

「バカはお前だろう。あれは盗賊団全員のものだ」

「奪うんだよ」

一瞬言葉が脳内で意味を結ぶのが遅れた。あまりにも現実ばなれしすぎていたからだった。その言葉が囲炉裏のなかで燃やされた木々たちの煙がいぶされとともにたゆたう空気になるまでとっぷりと時間をかけた。

「冗談をいってるのか?」

コテツは首をふってはっきりと拒絶の意志をしめした。

「それなら、気が狂ったんだろう?そうにちがいない」

もう一度首をふった。一度目よりも振り幅はちいさいがはっきり落ち着いたしっかりとした動作であった。

「本気なのか?」

それは心の奥底本心から滲み出したことばそのものであった。この辺り一体に勢力を伸ばし続ける最大大手の盗賊団にむかって中指をつきたてるとは到底考えうることのできない愚挙ともいえないような行動に違いはなかった。とするのであるなら彼は気が狂いとうてい達成もできないような血迷いごとを吐いているとでも考えたほうがよっぽど理にかなっているというものではないか。

「どうせ奪ったところで殺されるだけだぞ?」

「いいや。俺らは殺されない」

「アホか?このあたり一帯には大量の兵士たちがうろついてやがる。ズミの腹心のな。仕事の分前を奪われたときちゃ、やつらが黙っているとは到底思えない」

「もちろんただ逃げたんじゃ十中八九捕まるに違いないだろうさ」

「なら」

「軍馬だよ」

「は?」

彼は笑った。薪の爆ぜる光の陰影に合わせてゆらゆらと表情が笑ってるようにも泣いているようにも変化した。

「今は未曾有の飢饉の最中だろう?そんな中で幕府だって資金繰りに困り果ててる。あらゆるもの、それこそあのクソ忌々しい委任状以外はな。それでこの前おれは城下町にいっていろいろと物色してみたのさ。そしたら面白いことに、蒙古からしいれたとかいう軍馬があるじゃねえか。その馬の速さをしってるか?普通の馬と蒙古馬をならべて走らせると大人とわらべが走るほどの差がある。おまけにやつらは疲れってもんをしらない。ちょいと水を飲ましてやるだけで千里だろうが万里だろうが駆け抜け続けるそうだ」

「そうだとしてもあの執念深いズミがおれらに追手をけしかけないとはとてもではないが思えないな」

「そう。そこが一番の大問題点だ」

「わかっているのなら、変な気は起こさないこったな」

「あーだめだだめだ。これだからお前は頭が硬いって言われるんだ。言われたことはないか?」

明らかな侮蔑の色を持った言葉に耳まで真っ赤に染まり上がるのを感じた。

「お前は、虫に食われたアケビの実よりも脳みそがないみたいだな。ズミからは逃げられない。やつは借りたものは必ずかえす。それがいいことであろうと悪いことであろうと。必ずな」

「だから、発想を変えるんだよ。ズミが追ってこられなくしてしまえばなんら問題はないだろう?」

「どうやって」

途端にコテツが壁に立てかけられていた剣をとって鞘から引き抜いた。一人の命を刈り取った刃はカネツグの血をすってぬらぬらと怪しげな光をたたえていた。

「殺すのさ」

小説タイトル作者タグ読了予測時間(分)
みっくちゅじゅーちゅ夜空人間系、グロ注意4
その瞳は何色か夜空ミリタリー、人間系5
ドライブKAITO人間系、パッと読み1
トモダチ瀬尾標生心霊系3
犬鳴峠夜空心霊系5
ピアノと妖精瀬尾標生心霊系6
藁人形夜空心霊系、怪奇系4
幻の原稿夜空怪奇系10
サツジンジケン瀬尾標生心霊系、怪奇系5
樹海の中で夜空心霊系20
違和感瀬尾標生心霊系、グロ注意8
ミソカヨー夜空心霊系、怪奇系10
嫌な家夜空心霊系、怪奇系7
悪魔(上)瀬尾標生心霊系、洋風12
悪魔(下)瀬尾標生心霊系、洋風7
鼻(前編)夜空人間系、意味怖10
鼻(中編)夜空人間系、意味怖10
鼻(後編)夜空人間系、意味怖10
(E)scapeGoat瀬尾標生人間系、サバイバル系7
Night Terror瀬尾標生人間系、パッと読み1
隠し家の三悪人(上)夜空人間系10
隠し家の三悪人(下)夜空人間系10
ホクロ夜空意味怖、閲覧注意5
緊急停止初矢粒人間系、グロ注意3
訳あり物件まるけす人間系、都市伝説、一部実話、パッと読み1
迷信不信初矢粒意味怖、心霊系4
産まれて来るキミへまるけす意味怖、心霊系5
魂売りませんか?夜空意味怖、心霊系5
大物youtuber夜空意味怖、心霊系5
後ろ夜空意味怖、心霊系5
鉄の雫初矢粒人間系、グロ注意5
催眠まるけす人間系3
人魚姫その後
夜空意味怖6
ゆうかいなう初矢粒意味怖5
めいにち夜空人間系、パッと読み3

シェアして貰えると創作の活力に!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA