【ホラー/怖い話】伝染【小宮】

「……お前の話はどうも面白みがない」
街中の喫茶店で、俺は友人である彼にそう言った。
「そこまで言うなら、何か面白い話でもしてみろよ」
それならば、と。
この手の話ではありきたりな言葉から始めることにした。
「……じゃあ、俺が去年体験した奇妙な現象の話でもしようか」

※※※

その日は朝から雨だった。
バイトで帰りが遅くなり、夜道を傘をさしながら歩いていた。
夜道といっても、街灯もあるし、それほど暗いわけでもなかった。かといって人通りがあるわけでもなく、不気味なほどに静まり返っていた。雨音の他には自分の息遣いと足音ぐらいだろうか。いや、雨音すら聞こえていなかったかもしれない。それぐらいにあの夜は異常だったように思う。
思えばこの時、気付いてさえいれば、俺はあんな目に遭わなかったのかもしれない。
お前も知ってるだろうが、俺の住んでいるアパートはかなり奥まった所にある。つまり必然的に歩く距離も長くなる。
ちょっとベタな展開になるが、その道の途中、ある街灯の下に人形が落ちていた。
ところで、お前は人形と聞いて何を思い浮かべる? ……フランス人形か。まあベタな感じだよな。
でも俺の時は違ったんだ。普通、道端に落ちている人形といえばフランス人形を想像したくなる。でも俺が見たのは日本人形だった。わかるか? あの『髪が伸び続ける人形』みたいな……。
まあ、フランス人形にしても日本人形にしても不気味なのに変わりはない。俺もなるべくその方向を見ないように歩調を早めた。不気味なんだよ。いやマジで。目を合わせたら祟られるか魂を抜かれるか、まさしくそんな感じの雰囲気。
結果から言うと、その日はなんともなかった。……そう、その日は。
インフルエンザでもなんでも、病気というのは潜伏期間というものがある。
霊に憑かれるのにも潜伏期間があると、俺はその時になって初めて知った。
まずは次の日。朝からどうも体がだるかった。ちょうど寒くなる時期だったし、ただの風邪だろうと思っていた。幸いその日は祝日だったから、一日寝ていた。その日は他には何も起きなかったな。
その次の日。体のだるさは取れていなかった。だるさ、というか脱力感だろうか。本当に体に力が入らない。その日は病院に行った。でも異常はなかった。念のためと薬を出された。結局その薬は効かなかった訳だけれども。
数えて3日目になるだろうか。病院に行った次の日から、視線を感じるようになった。後ろからじっと見つめられているような気がするんだよ。お前も一度そうなればわかる。本当に気味が悪かった。
それからしばらくすると、体のだるさは完全に抜けていた。しかし視線は依然として残っていた。でも実害もなかったし、俺は特に気にしなかった。
だが、それから一ヶ月経った頃、決定的な現象に見舞われた。
通り魔に遭った。……という事になっている。ここまで話を聞けば察しがつくだろうが、通り魔にあたる人物なんて存在しなかった。勿論、今日まで通り魔は見つかっていない。
これはいよいよまずいと思った俺は、知り合いの霊媒師に話を聞きにいった。お前も知ってるだろ? 公園から三番目の筋に住んでた……覚えてないか。
とにかく、その霊媒師の話によると、やはり俺はその人形に取り憑かれているらしかった。モノが見つからないので対症療法になるとのことだったが、一応祓い方を教えてもらった。
しかしそれを実行するための条件が整っていたなかったせいで、なかなか祓うことができずにいた。
祓い方そのものは簡単だった。これについては後で話そうと思うが、とにかく続きを聞いてくれ。
しばらくはそれまでと同じように過ごしていた。最初の通り魔のような事件が起きたきり、変化といえるものはなかった。
だがある時、その忌まわしい憑き物を落とすチャンスがやってきた。
……あとで祓い方を話すといったが、もう話すまでもないようだ。
話はここまでだ。そう不満そうな顔をするな。俺の怪談話は誰のどんな話よりも恐ろしい。

※※※

夜、電話がかかってきた。
「何をしたのか、だって? もう気づいてるんだろ? ……そうそう、後ろを振り向かないほうがいいぞ。……遅かったか」
恐怖は感染する。体験した恐怖を、物語にすることで他人に体験させる。

……背後に視線を感じても、決して振り向くな。

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