OVER ENDING【Re:bit】 第37話 初見明人

◆◆

――ピピピッピピピッ!

携帯端末の電子音アラームが月曜日の朝を迎えた事を告げて目が覚める。

ここ数日遅くまで学校に残り練習を繰り返してきたせいか寝起きが悪い。
VRCでいくら激しい運動をしたところで現実世界の肉体がそこまで疲労する事は無く筋肉痛にはなるのは珍しい。
実際に傷付かなくてもリマイン中に受けた何十、何百回の殴られた痛みはフィードバックを通じて幻肢痛のように体を蝕んでいたってわけで、つまり精神的に疲弊しているってことだ。

「ぐぉお……畜生、遂にドラゴンBOSS倒せないまま試験当日になっちまったか……いいとこまでいってるのになぁ」

繰り返し行った練習の成果はあったし、俺達は前よりも確実に実力をつけた。
それでも強敵のドラゴンには歯が立たず、未だに攻略できていなかった。
俺らより多少レベルの低い参加者でも俺らよりいい線いっているチームあるのに……はあっ。

眠気を覚ます為に顔を洗い、ミント味の歯磨き粉をたっぷりつけた歯ブラシを口に突っ込む。
朝飯のこだわりは特になく今日は手早くトーストで済ませようと、いつ買ってきたかもう忘れてしまった食パンをトースターに入れて加熱消毒をする。
その間に辛口の歯ブラシをシャカシャカと左右に動かして歯を磨く。

たまに思うんだが寝起きの口の中ってのはなんかネバネバしててほんと嫌だ。だから俺は食前朝一に歯を磨く。
しかし、よくよく考えてみると、せっかく綺麗にした後に食事を摂るってのは本末転倒というかなんというか……。といっても、食後にもう一度磨く気にもなれず最終的には軽く口をゆすぐ程度で済ませちゃうんだよな。
一般的に、みんなどうしてるのだろうかと疑問に思ってしまう。

そうこうしているとキツネ色になったパンが金属音と共にトースターから跳ね上がる。

「ふあぁっ……はぁ、フレンチが恋しい。今夜はポトフにすっかな。売ってるかな?」

あくびをかみ殺しながら、この前食べた高級フランス料理を思い出し、熱々の食パンに山盛りのジャムを乗せて栄養バランスが偏った庶民の朝食を頬張る。食事を終えると口をゆすぎ、部屋着を脱ぎ捨て壁に掛けてある制服に袖を通して早々に支度を済ませる。
そして一応寝癖が無いかを鏡で確認してから足早に家を出て学校に向かう。

学校までは歩いて数分の距離であっという間についてしまう道のりなのだが、今日は試験当日という事もあり足取りは重く、いつもよりも時間がかかった気がした。校門に着く頃には額にうっすら汗もかいていた。
服の袖で汗をぬぐいながら、ため息交じりに下駄箱で靴を履きかえて教室への廊下を進む。
そして扉の前で息を整えてから教室に入ると先に登校していたユナが出迎えてくれる。

「いつも眠そうだねー? 不良くん!」

朝っぱらから相槌に本音ぐちを溢すほど野暮じゃない。
適当に見繕った言い訳を返す。

「そーいうアンタもですよお姫さん。おはようございやす。ふぁ……昨日は遅くまで考え事してたから……さぁ」
「おはよ! そーなんだ、体に気をつけないとダメだよぉー……てか、姫ってなんだッ?!」

彼女こそが真の白雪姫と呼ぶにふさわしい。だから『お姫さん』だ。
適当な返事であったがその指摘は強ち間違いじゃないんだなこれ。実際にユナは元気ハツラツそうに見えるが眠そうな目をしている。
まあ彼女の場合は特に朝が弱いということではなく授業が近くなると眠くなる……白雪姫もビックリの居眠り癖の持ち主だからな。

そんな会話をしていると、担任の教師が教室に入り気怠そうに号令をかける。ホームルームが始まり、もう少し遅れていたら遅刻の回数がプラスされるところだったと肝を冷やす。
自覚は無かったがどうやら足取りの重さは現実だったようだ。

普段は口頭で時間割と補足事項を告げるだけで終わる朝のホームルームなのだが、珍しく今日はプリントが配布されて前の席から順に回ってくる。
すると最前列に座るクラスメイトが手にしたプリントに目を通して何やら騒ぎ始めた。
一番後ろの席に座る俺の元に少し遅れてプリントが届き、一番上に書かれた表題を口に出しながら読み上げる。

「あーっと、なんだって? 進路……調査、票……。え? 進路調査票!? まじで? ……もうかよッ」

配られたプリントは下らない行事の通知などでは無く、卒業後の進路希望を調査する目的の進路調査票だった。
一年生だってのにもう進路を決めなきゃいけないのか……まだ入学してから数カ月しかたってないのに。

「いいかお前らー、適当な事書いたら呼び出しするからなー! ふざけないで真面目に考えるんだぞー!」

念を押してくる担任の話しに耳を傾けつつ中学の時にも似たようなものを書かされたのを思い出した。その経験からこの調査には段階があり、定期的に希望進路を書かせ段々と明確な将来像を構築していくのが目的のモノだと判断できた。
そのため今ここで何を書いたところでそれが絶対の進路になる訳ではなく現段階での大雑把な目標として書かせている、俗に言う意識向上目的ってことだな。
一年生の内から目的意識を持って学業に励みなさいとプレッシャーをかけてきているわけだ。姑息なやり方で嫌気がさしますぜ。

まあ、俺は書かないけど。
魂胆が分かっていれば態々それに乗っかる必要もなく、こんなものあってもなくても俺の生活態度は変わらないし、そもそも変えるつもりもない。
というか……将来何になるかなんてないし、協調性のないこの俺がなれるものなんてあるんだかさえも怪しい。
周りの人間に合わせて就活で「あなたはどんな人間ですか?」という質問に「潤滑油です」と答えれば俺でも受かるというなら話は別だけど、世の中そんな甘くないよな。

にしても、進学校でもないのにこんな早くから将来の事考えさせるのはどうかと思うな……選抜試験終わったら説教されない程度に『適当な事』を考えるとしますか。

配られた進路調査票に名前だけ書き、白紙のまま鞄に滑り込ませた。

将来のことについて考えるのが憂鬱なのは生徒だけではなく教師も同じようで、進路調査票についての説明を一通り済ませた担任は最後まで面倒そうなオーラをまき散らしながら教室を出て行った。

始業時間までの少しの間にこの前、先輩パイセンに貰った動画データを見直そうと携帯端末を取出し亥人明人ペア・プラスワンの動画を探す。

あの後、帰ってから三人の事についてもっと知りたいと思った俺はネットで大会の事を検索していた。
三人は別々のゲーミングスクールに通う普通のゲーマーだったらしいが、個人エントリーデータの類どころか特集記事ブログさえ一切見つからなかった。“見切れ女子”三人目に関しては名前も分からず終い。
唯一見つかったのはキャプチャー転載された明人さんが独り写った大会優勝後のインタビュー映像だけだった。
そのなかで彼は記者の『優勝の秘策』についての質問にこう返していた。

『――つまんねえ質問だな……ただゲームを楽しく遊んだだけ。それだけだ。別に大したことじゃねえだろ? あー、そーだな……。強いて言うならば当たり前のことを当たり前のようにやった。っ的な? 誰でもできんだよ。だっけどよー、そのことにだいたいの奴が気付いてねえ、当たり前の事をな。強くなりたいなら一度チームメイトと話して……あー、一度チームメイトのことを、仲間の事考えてみろ』

大会を優勝するような人間からすればあのレベルのプレイは当たり前でこれと言った秘密もないと明人さんは言っていたが、俺にとってはあの動きは物凄い才能であり、喉から手が出るほどに羨ましい力だ。
天才にはどう足掻いても追いつけないってことなんだろうか? 終始ヘラついていた明人さんの余裕っぷりを見ていると神でも見ているような感覚に苛まれ、彼のことが別次元の存在に思えてしまった。

整理されていない携帯端末のデータフォルダから大会のダイジェスト映像を見つけると音量に注意しながら再生ボタンを押しす。
スライダーをずらして品の無いキャプションを飛ばし対ドラゴン戦まで動画を進め選抜戦攻略のヒントを探っていると、勘のいいユナが席を立ち小走りでこちらに駆け寄ってくる。

「なに見てるのっ? あっこのまえの動画じゃん! ダウンロードしたんだナユ、一緒に見てもいい?」
「ああ。コウヤがレアレアって言ってたしな、一応。だけど取って正解だった。やっぱりすげーよッこのチーム」

映像の中で戦う明人さんの動きは何度見ても先読みしているとしか思えない、いや先読みどころか二手三手先まで見据えた動きはまるで未来でも見えているようだ。
特にランダムに放たれるドラゴンの攻撃を完璧に見切って左右に捌くステップは格の違いが明白に出ていた。
もし運の要素に身を任せているとしたら凄まじい幸運リアルラックだ、どれだけゲームに愛されていてもここまではそうそう不可能のはず。

家で何十回も見直した映像に新たな発見が無いかと、画面をズームしスロー再生で明人さんの視線の方向を確かめる。

「あーっ! ちょっ、ちょっと! 私もみてるんだからいきなり止めないでよー」
「わりいわりい、うーん。コマ送りで見るとドラゴンの後ろ足を気に掛けてるように見えるな……」

あの連撃に後ろ足の予備モーションなんてあったかな? 前足の攻撃を避けるのに精いっぱいだったからそこまで覚えてないや……。
別のアングルで写ってるのないかな?

一緒に見ているユナには悪いがスライダーを弄りドラゴンの後ろ足が映っている場面がないか探していると残念な事に始業の鐘が鳴り休み時間が終わってしまった事を知らせる。

「あぁ゛!! 今からがぁッ、良い所だったのに……」

これからって時に阻まれる。先輩もあの時こんなふうに感じていたのか?
とはいえ授業中にこっそり動画を見るほど不良ではないため、携帯端末をポケットにしまうと代わりに例の如く未使用のノートとテキストを机の上に出す。
授業中の動画はアウト、でもメールはセーフ。そんな訳の分からない自分ルールに従いながら今日も授業を聞き流すだけのツマラナイ時間が始まった。

◇第37話

各話サブタイトル作者
登場人物紹介こちらNORA×絵師様
プロローグ/第0話主人公補正KAITO×NORA
第1話偽りの始まりKAITO×NORA
第2話A.シャンプーKAITO×NORA
第3話ミス・パーフェクトKAITO×NORA
第4話馬と鹿KAITO×NORA
第5話忍者だってッKAITO×NORA
第6話トレードオフKAITO×NORA
第7話正義と欠陥KAITO×NORA
第8話死に急ぐ者KAITO×NORA
第9話友の追悼KAITO×NORA
第10話四番モニターKAITO×NORA
第11話ボーナススコアKAITO×NORA
第12話試験範囲KAITO×NORA
第13話アルファリーダーKAITO×NORA
第14話トレジャーハントKAITO×NORA
第15話チェックシートKAITO×NORA
第16話レバガチャKAITO×NORA
第17話記念写真KAITO×NORA
第18話手応えKAITO×NORA
第19話仲裁KAITO×NORA
第20話気遣いKAITO×NORA
第21話不貞寝KAITO×NORA
第22話ナカヨシKAITO×NORA
第23話ハーフタイムKAITO×NORA
第24話ルート分岐KAITO×NORA
第25話リアシートKAITO×NORA
第26話レストランKAITO×NORA
第27話夜の景色KAITO×NORA
第28話アクビKAITO×NORA
第29話ネクタイKAITO×NORA
第30話ドラゴンブレスKAITO×NORA
第31話尻尾KAITO×NORA
第32話反省会KAITO×NORA
第33話ノーデリカシーKAITO×NORA
第34話待ち時間KAITO×NORA
第35話キョウイKAITO×NORA
第36話リプレイデータKAITO×NORA
第37話初見明人KAITO×NORA
第38話ラクガキKAITO×NORA
第39話模範解答KAITO×NORA
第40話レシピKAITO×NORA
第41話実技本戦KAITO×NORA
第42話ファーストブラッドKAITO×NORA
第43話絶望と記憶KAITO×NORA
第44話試験開始KAITO×NORA
第45話醍醐味KAITO×NORA
第46話作戦開始KAITO×NORA
第47話必殺の一撃KAITO×NORA
第48話全力の結果KAITO×NORA
第49話ルールの思惑KAITO×NORA
第50話閉会式KAITO×NORA
第51話/第一部完結優勝チームKAITO×NORA

シェアして貰えると創作の活力に!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA