【ホラー/怖い話】神さまと呼ばれた少女の裏表紙

この大学には妙なサークルがある。
冬にはスノーボードに乗り、夏には野外でキャンプなどをし、それ以外ではオカルト系の噂などを収集したり謎解きしたりする、謎なサークルがある。スノボ部とキャンプ部とオカルト研究部の三つが一緒になった部であると話を聞いたけど、本当かどうかは定かではない。主な活動がオカルト研究部での活動な為、大学の人達からはオカルト研究部と呼ばれている。
そんな可笑しな部活に今年も冬がやってきた。
真っ白な雪が日光を反射し、ありとあらゆる物が色を白く染め上げる季節、僕たちは部活動の一環としてスキー場までやって来ていた。
月2回のスノボ部としての活動、そして今年最後となる活動には15人中6人が参加していた。参加自由なこのサークルの活動に15人全員が参加することは殆どなく、主に5人前後の人数が参加する。
今回は僕と永倉ながくらさん、余り絡みのない3名と、そして部長の南津みなみつ先輩の6名が参加していた。

「おーい真野まの、倉庫から全員分のスノボ持ってきてくれね? あ、やっぱ真野だけじゃ辛そうだから永倉も一緒に行って持ってきてくれ」
「分かりました。それじゃ行きますか、永倉さん」
「あぁ」

永倉さんの短い返事を聞いて、僕と永倉さんは部室から出て倉庫へと向かう。部室から徒歩五分、大学敷地内の奥にはオカルト研究部に代々受け継がれてきた錆びた鉄倉庫があった。どこもかしこも、昔から使われていると見ただけで分かる程に、濃い橙色に変色しているこの倉庫に僕たちは季節ごとに使わなくなった備品たちを仕舞っている。例えば先程取ってこいと言われたスノボやキャンピング用具、オカルト関連の資料などが保管されている。

「えーと……斎藤さいとうさんのと伊原いばらさんのと、あと誰でしたっけ?」
加藤かとうだ。もう直ぐ入部して一年経つんだから、名前ぐらい覚えてやっとけ」
「わ、分かってますって。でも特にあの三人とは交流ないんですよ。僕、主にオカルト関連の活動にしか参加してないんで」
「そういえばそうだな。それじゃ何で今日はスノボなんだ?」
「まぁ、特に理由はないんですよ。何となくです。って、あれ?こっちに加藤さんのスノボが無いんですけど、そっちにありますか?」
「加藤のスノボか?確か……あ、あったぞ真野」
「あ、よかったです。それじゃさっさと持って、よっこらせ、帰りま――ッ!」

確か、自分にドジっ子属性はなかったはずなのに、僕はカッコ悪くも無理して残りのスノボを一気に運ぼうとして、あっけなく転んでしまった。
転んでしまった、というより頭が地面と衝突したと表現した方がいいかもしれない。

「大丈夫か、真野?」
「えぇ、多分大丈夫かと。イタタ」

両ひざと両手を地面について立ち上がろうとする。が、左手に感じる冷たいコンテナの感触とは裏腹に、右手には別の何かが触れていた。右手の違和感に両目の焦点を当てると、僕の目に小さな神社が映っている写真が映し出された。

「写真?ねぇ永倉さん。確か写真って全部部室にあるアルバムに仕舞ってあるって部長言ってませんでしたっけ?」
「あぁ、確かに言ってたのを覚えてる。まぁ、忘れたんだろう。それも持って早く行こう」

先に倉庫から背を向ける永倉さんを追って、僕は指先に触れていた神社の写真を速やかにポケットにしまって倉庫をさった。

その写真に、“何か”が映っていることを見逃すことなく。

「それで、持ってきたわけだ」
「はい。やはり気になっちゃいまして」
「でも、君たちの部ってこういう幽霊が映ってる写真とかって信じないたちじゃなかったっけ?」

めいこさんが言う通り、今までの僕たちは幽霊写真なんてものはそこまで信じていなかった。写真はあくまで証拠品。僕たちは簡単に心霊写真を作れるこの時代に、写真を元にしてオカルトを研究することよりかは、経験談などを元に研究していたんだ。
でも、この一週間で大前提がひっくり返ることになった。

「前回持って来た伊藤綾人いとうあやと長谷彰ながたにあきらの写真は覚えてますよね」
「あぁ、あれね。確か廃病院で行方不明になった大学生二人の写真だったね」
「そうです。あれ以降、僕たちオカルト研究部は経験談だけではなく写真も取り扱うことにしたんですよ」
「成程ねぇ。そして今日はこの写真の真相を知りたくて来たわけってこと」
「はい。まぁ、特に真相を知りたい理由は無いんですけどね」
「いいよいいよ、逆に私の方からこう言った話があったら教えてって言ったんだから。それじゃ行こうか、真野」

どこへ、と咄嗟に口に出た質問に対し、めいこさんは小さく笑いながら答える。

「どこって、この写真に写ってる神社に決まってるじゃないか」

めいこさんの事務室、というか部屋から電車やバスなどを乗り換えて僕たちはやっと目的の神社までやってきた。どうやってこの場所を特定出来たのかと聞くと、「企業的に秘密」とだけ答えて先に進んでいった。
てっきりこの神社は森の奥にでもあるのかと考えていたけれど、普通に車道が通ってある場所に長い階段の上に建てられているらしい。必死の思いで一歩一歩階段を上り、やがて赤い鳥居が見えるところでめいこさんは止まった。
留まったその場でポケットに仕舞ってあった写真を取り出す。目前の風景と写真の背景を見比べながら、写真に納まった違和感に集中する。

「真野にはさ、この写真に写っている女の子は何に見える?」

そう質問されながら写真を受けとって、神社を背景に映る少女の姿を見てみる。最初に見た時、そして今もなおこの少女から感じ取れるのは、認めたくないが為に閉ざした寒気そのものだ。足元から徐々に上昇しゆっくりと心臓を握るような、そんな寒気。
だけれど、それを口にしてしまっては

「よく分かりません。でも、確かに何かを感じます」

認めたくないものを、認めてしまわなければならない。

「――あぁ、成程ね。ちょっとここで突拍子もない質問なんだけど、いいかな?」

いいですよと答えると、めいこさんは本当に突拍子もない質問をしてきた。

「もう真野がうちに通い始めて結構経つけどさ、真野って幽霊とかって信じるかい?」
「幽霊ですか……」

昔から、確かにここには無いものが見えたりはしていた。はっきりとは見えず、だが脳がその場にある“何か”を認識する、そんな状況が続いている。僕はその“何か”を信じている部分もある。
でも、

「妄信はできません」

オカルトを研究している者が、こんなことを言うと矛盾なのではと思うがきっと本心だ。
もしかしたら、ただ信じたくないのかもしれない。他の人には見えず、だけれども自分にだけは微かに見える存在を認めたくないのかもしれない。強い拒絶感が、やがて存在の否定までなしてしまう。
こんな考え方は、間違っているのだろうか。その答えを、なぜか僕はめいこさんの口から聞いてみたかった。答えは分かっていようとも。

「君もつくづく天邪鬼だね、ハハッ」
「僕は基本的にはオカルト研究部で否定的なので」
「信じない派ってことだ。それじゃあ、真野にとっては神も悪魔も幽霊も同じってわけだ。所詮は存在しないもの、存在を確かめられないものって」

結局は同じなんだろう。だって

「神も悪魔も、ましてや幽霊も人が作り出した物ですから」
「成程、それが真野の答えね。その答えは、間違っちゃいないんだな」

小さい鳥居をくぐって神社に入るめいこさんを、僕はただその場に立って見つめている。めいこさんが小さな神社の苔や錆びなどを触ったり睨んだりしているのを、僕は鳥居の前で見ているしかなかった。

「――成程、ね」

何かが明確に解ったのか、めいこさんは神社を詮索するのをやめ僕の所まで戻って来ては、口を開いた。
さぁ、答え合わせだ、と言いながら。

「私はね、ちょっと昔にこの神社に来たことがあるんだよ。確か小学生低学年の頃だったかね? あの時もここの神社は荒れ果てていた。その日から十数年後の今でも神社は見ての通りぼろ神社のままなんだよ。理由は、分かるかな?」
「……利用者、もしくは管理者がいなくなった、とかですか?」

その疑心暗鬼な答えに、めいこさんはゆっくりと笑みを浮かべてまた解説を続ける。

「正解。たぶんここ十数年、いつからなのかは明確ではないが、確かに言えるのは、この神社がもう使われていない事なんだな。神社として機能しなくなったから、誰も利用しないし、誰も管理しない。理由は――」
「崇める神様がいなくなった……からですよね?」

咄嗟に出た無意識な答えを聞いて、めいこさんは今月最大の笑みを浮かべては僕の両肩をもって体を揺らし始めた。それも結構激しく。

「おぉ、凄いじゃないか真野! 私は感動した! そう、真野の言った通りさ!ここは神様の消えた神社なんだな。そんな神社にお参りに来る人が何処にいる? だからこんなにもボロボロなのさ。そこでだ、もう一回この写真を見てくれ」

めいこさんは手に持った写真を僕に渡して話を続けた。

「先に言って置くが、これから私がいう事は全て推測に過ぎない。決定的な証拠もなければ現実的な推理を用いたわけでもない。ただ話しておきたい可能性なんだ」

そんなめいこさんの言葉を聞き、僕はもう一度写真に視線を落とす。
年代物の写真、写っているのはボロボロの服装を着て血が滲んだ表情で僕を眺めてくる少女とその背景に映る古びた神社。劣化した所為なのか、はっきりと写っているものはなく、全てがあやふやな状態で写真に収められている。
だからこそ、知りたい。それが憶測だろうが何だろうが、僕はこの写真に写された物語が知りたい。
僕は言葉を吐く。

「はい」
「よし、いい返事だ」

一度心を落ち着かせたいのか、めいこさんは大きく深呼吸をして、自分の解説を始める。
結末を見ようじゃないか、と話を切り出しながら。

「この写真が撮られた頃には、今と同様に神様がいなかった。多分、何らかの形で神様が消え、代わりの神様を探していたのだろう。
でも代わりの神様を探すとしても、さっき真野が言った通り神様は人が作り上げた物なんだよ。ないものを探すことは事実上不可能なわけさ。
だから、それに気づいた人達は神様を探すのを止めたのさ」

次の言葉に移る前に、めいこさんは一度瞼を閉じて少し頭を下げた。まるで、誰かに謝っているかのように。

「探すのをやめ、代わりに彼らは、神様を創ったんだよ」
「――え?」
「いないものは創ればいい、そう考えた人達はこの写真に写っている少女を神様に見立てて祀ったのさ。神様を迎え、神社の機能を取り戻す為に」
「か、神様って、この子って……」
「幽霊と思っていただろ?でも、さっき君が言ったじゃないか。悪魔も神も幽霊も同じだって。所詮は、人がどう捉えるかによって変わってくるんだよ」

信じるには遠い事実だった。だって、どう見ても写真に写っているこの少女は神様って容姿じゃない。古びた服装、血が滲む顔、今にでも泣きそうな瞳、そんなか弱い少女が神様だという事を僕は理解出来なかった。

「推測するに、この少女は人としてではなく、神様として扱われていた。当然さ、神様なんだから。でも、人が神様と同じ扱いを受けて生きられるわけがない。こんな狭い神社の一角に閉じ込めては、食事も水分も取らずに過ごすしかない。そう、何も与えられずにただ願いを聞かされる神様の様に」

徐々に与えられる驚愕の事実に脳の処理が追えなくなる。これが嘘か真か、それは定かではないけれど、それは今は関係ない。ただ、今目の当たりにしている場所で行われた儀式を、僕は受け入れる事が出来ない。

「最初は恐怖とストレスで精神が不安定になる。壁などを殴ったり、必死に叫んだりするけど、何も解決しない」

受け入れる事が出来るのだろうか。そんな簡単に、受け入れられるのだろうか。

「次に栄養が足りなくなって身動きが取れなくなる。助けを呼ぼうにも喉は枯れ、脚は動かない」

だって、これではまるで

「そして最後には、当然のように神社の中で息を引き取ったってわけさ」

――僕ら人間が悪魔のようじゃないか。

「でも、私にも分からないものがある。もう一回ちゃんと見てみてくれ。写真に写っている神社は今と同じように荒れている。即ちこの写真は神様がいない状態で撮られた物だ。でも、この写真には確かに神社内で死んだはずの少女が神社の外で映っているんだよ」
「……ッ!」

写真の背景には、錆びた神社。その写真の右端、木が生えた場所に写っている少女。
この少女がいつから神様として崇められていたかは分からない。大昔かもしれないし、数十年前の出来事かもしれない。でもこの写真は、確かにここ最近で撮られた写真だ。
そうだと言うのに、自分が持っているこの写真には死んだはずの少女が、血を滲ませた少女が写っている。
だったら、

この写真に写っている少女は、一体何なんだ?
どうして死んだはずの少女が写真に写っているんだ?

「君には一つ言っておかなければならないことがある」
「――な、なんでしょうか?」
「真野、世の中には科学では証明出来るものがいくつもある。ただその逆もあるんだ。だから別に全ての現象を理解しようとしなくてもいいのさ。ただ、認めるだけ、知ってあげるだけでも十分なんだ」

認めるだけ、知るだけで良いとめいこさんは言う。まるで誰にでも出来るかのように。
でもめいこさん、僕みたいな普通の人はあなたの様に何もかもを認められる強さを持ち合わせていない。
自分と違うものを遠ざけ、理解出来ないものを拒絶し、知りえないものを嫌悪する。
だから、未だに僕は信じることが出来ない。幽霊などという曖昧なものを、信じ切ることが出来ない。
でも、そんな固定概念を捨てためいこさんは、いつも僕が理解できるその先を見ている。行ったり来たりを繰り返す僕に対し、この人は前方へスキップするかのように非科学を受け入れていく。

「さぁ、真野。答え合わせの時間だ。君には、これが何に見えるかい?」
めいこさんが指さす先に、確かに神社が映っている。写真にも、瞳にも。
映っているはず、見えているはずなのに、僕にはこの質問に対し答えを出せなかった。手を伸ばした写真には触れることが出来るのに、どんなに手を伸ばしても景色目の前にあるはずのその答えを見つけることが出来なかった。
確かに、めいこさんと見ている景色世界は同じだというのに。

「あ、もしもし?新しい話見つけたから、今からそっちに行くよ。大丈夫、七時には間に合う。ああ、後のことも頼むよ」
「本の仕事ですか?」
「そそ、真野のお陰で新しい話が見つかったからね。明日にでも夕食奢ろうかー? 今回のお詫びとして」
「いいえ、大丈夫です。というか、詫びることもないじゃないですし」
「帰るのかー、真野?」

先にめいこさんの前を進み、振り返る事をしない僕に対して、めいこさんは優しく声を掛けてくれる。
いつも通りのめいこさんが、そう言ってくれた。

「はい、今日は先に帰らせてもらいます。それでは、また今度。あ…、めいこさんひとついいですか?」
「んー?なんだい?」

「どうして、女の子が神さまだって思ったんですか?」
「ハハ、企業的に秘密だ」
「はあ、めいこさんもつくづく天邪鬼ですね」

にやりと笑うめいこさんに向けて僕は文句を吐くと、少し切なそうな顔をして一言だけつぶやいた。

「…いつものことさ」

言葉の意味とは相反し、いつもとは違う挨拶を交わした僕とめいこさんはこれで別れた。
何も変わらない、いつも通りのめいこさんを見て、通常ではいられない自分を見せるのが嫌だったのか、それともただ現実から遠ざかって一人になりたいのか。

真実は定かではない。
でも、重要なのはその『真実をどのような事実として捉えるか』なのだろう。

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