【ホラー/怖い話】訳あり物件

※訳あり物件の見分け方
私が居酒屋で、友人から聞いた話。
その友人は不動産屋で働いている。かなりの老舗だ。
現在、私の住むマンションもその友人から紹介してもらった。友人だから、いろいろオーダーして……セキュリティは万全かどうか、南向きの角部屋で五階以上のところがいいとか、近所の評判、治安の良いとこ……もちろん家賃が安いところを。

「女一人で住むなら、それぐらい考えるわね」と友人は快く私の注文を全て満たすところを探し、紹介してくれた。
そして今もそこに住んでいる。


入居祝いという事で その日、友人と二人、居酒屋で乾杯した。

私は酒に強く、あまり酔わない体質。ビールなんて水と同じ。酒に飲まれるなんてことは滅多に無い。
でも友人は違う。下戸では無いけれど、喋り上戸というやつだった。

「聞いてよ。会社の上司が、もう、うざくってさあ――」
たまに会って飲むぐらいだからいいけど、毎日だときついかもしれない。
友人の行きつけだという居酒屋だった。サラリーマンが多くてあちこちから怒声だったり笑い声だったり、とにかくうるさかった。

そんな大きな雑音に負けじと私も友人も声が大きくなった。
「あーあ。なんでこんな仕事してんだろ。もう」
友人はそう言って酎ハイを飲む。さすがにちょっと止めないといけない、そう思って私は言った。
「そろそろ出ようか。なんならウチで飲む?」
私はちょっとだけオブラートに包む言い方をした。もう帰ろうとか、お開き、なんてきっぱり言うのも白けてしまうから。
だが友人は「もうちょっと付き合って」と私にしがみついた。もう、へべれけだった。
まあ、仕方ない。お互い社会人だし、たまには愚痴を吐きたい。私もストレスを抱えているし、いいか、と生ビールを追加注文して話を聞いた。
店員がジョッキを持って来て私の前に置く。友人はぐちぐちと喋りつづけていた。
「でさ、そこの人が首吊ったって。そんなの言われてもさあ」
「え、マジ? 自殺?」
それまで、ほぼスルーしていた私だったけど、その一言で大体の流れを把握できた。友人は頷き「うん。マジで」と言った。
「あ、もちろん、あんたのマンションじゃないから。それは大丈夫」と友人はピースサインをして見せた。

そこで私は、前々から気になっていたことを尋ねた……ちょっと後悔している。

私が尋ねた事は、訳あり物件について。

友人はうんうんと頷き「わかるよ」と酔っ払いの口調で言った。
「でも、こっちとしては営業妨害みたく思う。テレビでやってるじゃん? 値段が安いから怪しいとか、ネットで晒してるサイトがあるとか。そんなことぐらい、こっちも把握してる。ヤバかったら紹介しないって。そういう偏った知識で部屋を探されると、こっちも困るんだよね」
「誰にでも見分ける方法とか、ある?」
「うんにゃ?」と友人は首を横に振った。ろれつが回ってなかった。
咳払いをして、友人は言い直した。
「ちょっと話が変わってくるけど。大丈夫?」
「うん。けっこう興味ある」
「まず、何て言うかな、えっと……」
そこで友人は腕を組んでしまい、言葉を探している、と告げた。
しばらく経って「あっ」と友人は続きを言った。私の生ビールは半分ぐらいに減ってしまった。
「例えば事件の現場だったら、こっちはそれを伝える義務があるわけ。次の人に〝ここで事件がありました。それを理解してください〟とか言わないと〝幽霊が出るなんて聞いてない。金返せ〟ってトラブルになる。で、そうならないように前もって伝える。いわゆる事故物件は、法律で――」
「それは知ってる。で? 事故物件の見分け方は?」
そこで友人は、ハイボールと焼き鳥を注文して、運ばれてくるまで喋った。
「怪談になるぐらいきっついヤツなんて、そうそう無い。ただ幽霊が出るってのは、むちゃくちゃ多いよ。なんせクレームの王道だもん。こっちは、ああそうですか、としか言えない。わかる?」
「う、うん。霊感があれば別だけど、無かったら、わからないもんね」
「そうそう。幽霊とか呪いとかさ、私ら霊感が無いし、確かめようが無い。で、そういう事故物件が、もしあったらね、絶対に報告するよ。でも怪談に出てくるのは、はっきり言ってほとんど嘘だよ。もし万が一、入居した人みんな不幸になるなんて、そんなヤバい物件があったら、こっちだって扱いたくない。業者間で押し付け合って、小さな会社がしぶしぶ買い取る。だから家賃を基準にして判断するのはアリかも。酔っ払ってるけど、わかる?」
「うん。まあ、何となく……会社の信用にも繋がるから、扱いたくない。いろんな事情があるけれど、安い物件の全部が、いわくつきでは無いと」
「そういうこと。ブラックな会社は平気で紹介するけどね。普通の会社でもやるよ」
「え、ちょっとまって……まず、会社がブラックかどうかどうすれば分かるの?」
「それこそ就職して判断するしかないね。でも悪評を流したら、マジで裁判沙汰。だからネットでの事故物件の情報は嘘っぽい……でね、さっきみたいに、住民が自殺しました。じゃあ、次の契約者があんたとしよう。ここは前の入居者が自殺した部屋です、住みますか?」
「嫌。ぜったい、嫌」
「じゃあ、家賃を半額にするから住みませんか?」
「無理。他を紹介して」
「壁、床、バスルーム、トイレ、全てリフォーム済みです。家具は、リストを用意しました。こちらからお好きな物を選んでください。もちろんお祓いしました。なんならその霊媒師に連絡しましょうか? もしお客様に専属の霊媒師がいるなら、その方に見ていただいても大丈夫です。そちらの費用は全て私が負担しますので。もし不備があればそれも負担いたしますし、契約後の事故災害も当社が責任を持って保証します。さらに今なら家賃、三分の一にしてもいいですよ……これならどう?」
「う、ちょっといいかなって思ってきた」

そこで友人の頼んだハイボールと焼き鳥が運ばれて来た。
けらけらと笑って「ないない。あるわけ無い」と言った。
「あくまで極端な例え話。つまりさ、そこまでやらないと売れないの。自殺だろうが事件だろうが、事故物件のほとんどは完全リフォームしてる。もちろんこっちも大損。安値で売りに出せない。むしろ家賃を上げないと割に合わない。でも他の入居者に聞けばすぐバレてクレームじゃんか。やっぱり契約するとき、きちんと報告するよ」
「あんたが言いたいのは、つまり……普通の会社の、妥当な家賃の部屋でも、事故物件は混ざってる、と」
「うん。そういうこと。最近多いからね。部屋ならまだマシかな。飛び降りとかされるともう、アウト。入居者が全員出ていくとかあったもん」
「で、肝心の見分ける方法……もう契約する前に聞くしかない、と」
「うーん、事故物件を普通に紹介する時点で、その会社はアウトなの。だから業者に聞いても絶対、答えない。住んでしばらく経ってから、おかしいなって連絡しても、判断しかねます、クレームはお断りって言われる。むしろもっと面倒になる。だから――」
そこで友人はハイボールを一口飲んでから言った。
「まず下見するじゃん? そこが綺麗でも汚くても〝いつリフォームしたんですか〟って聞いてみなよ。その答えが〝三年です〟とか〝築十年ですが、してません〟って明確だったら大丈夫。でも〝つい最近〟とか〝わからない〟なんて曖昧な返答だったら、深くツッコんで色々聞く。で、挙動不審だったり、脅されたら断る……地味だけどね、紹介する物件の情報を把握して無い証拠になる。ま、これが一番」

あくまで酒の席で酔っ払った友人の言ったこと。
私自身、ちょっと怪しく思えたけれど、少し不安になった。
生ビールを飲み干して、私は質問をした。
「あのさ、ちなみに私の部屋はいつリフォームしたの?」

一人暮らしの人、あなたの部屋、いつリフォームしたのかわかりますか?
私の部屋は、まだ友人から連絡が無いのでわかりません。

シェアして貰えると創作の活力に!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA