【ホラー/怖い話】産まれて来るキミへ

産まれて来るキミへ

これから説明する映像は僕が見つけたものだ。お父さんから物置の掃除を頼まれて、その時に見つけた、古いDVDR。タイトルも何も書いてないので空か、エロいやつかと思って確認してみた。


日付は、二千年の九月八日と表示されている。録画時間は午後三時から始まっており、まず日本の田舎の風景が映った。
収穫間際の稲穂の田園――薄暗く、あまり日差しは強くない。
風に揺れる稲穂。そして風音に紛れて人の声が聞こえる。
「オッケー。じゃあ産まれて来る子に自己紹介。背の順に」
次にカメラは人物を映した。
チェックのスカートに薄いコートを羽織った女。彼女は笑顔で手を振り名乗った。
「ネネでーす。キミのママと同い年。隣町で美容師やってます。来年、またまた結婚しまーす」
「おめでとう。でも、そろそろ落ち着こうな」と声を拾ってからカメラは別の女性へ。映し出されたのは、厚着をした大きなお腹の女性だった。
「キミのママ、リリサです。今、キミはこのお腹にいるんだよ。八か月になります」
「リリサの旦那、おまえのパパは俺だ。マッちんって呼ばれてる」とカメラは声だけを拾った。するとリサはお腹を撫でながらカメラに向かって言った。
「キミのパパは今、フリーのカメラマン。キミがこれを見てるときにはプロになってほしいか」な」
そしてカメラは角度を変え男性を映す。その男は無精ひげを蓄えたジャージ姿だった。顎を撫でながら男は口を開いた。
「キタローって言う。おまえのパパとよく遊んでた。この、ど田舎で建築関係をやってる」
「キタローに恋人っていないの?」とリリサの質問。
「いない。今年で、えっと……彼女いない歴、八年だな」
「八年?」と声が三つ重なる。
ため息をついてキタローは「文句あるか、ちくしょう」とぼやく。
しばらく笑い声が続く。ネネ、リリサ、マッちんの三名はキタローの態度や身成の悪さを指摘して笑いのネタにする。キタロー自身が「勝手にイジってろ」と言ってから場面が入れ変わった。


右からネネ、リリサ、キタローの順に並んで映っている。三名はその場で足踏みしており、カメラも合わせるよう上下に揺れる。そんな彼らのバックには白い壁が立ってあった。
「ぜんたーい、止まれ」とマッちんの声がして、三名は声をそろえて言った。
「いち、に!」
ぴたりと足踏みが止まり、カメラの動きも止まった。
「はい。ここが俺たちの母校です……おいキタロー、やる気あるのか?」とマッちん。
名指しされたキタローは煙草を咥えていたが、火は点いていなかった。彼は後頭部を掻きながら言った。
「あんまり。そういえば、地元のガキから変な噂を聞いた」
「ちょっと! 出産祝いだし、ウチらの母校だし――」
カメラは、そんな文句を拾いながら白い壁を見上げるように映していく。落書きや汚れもなく、ただただ閑散として人気の無い校舎だった。
三階建ての校舎、その右端の窓に人影が映ったところで。いったん撮影が停止する。
数秒間、カメラがその人影を映した後、映像の場面が変わった。

次に映し出されたのは、階段を踏む足だった。画面左上の表示時間は午後三時から午後四時へと変わっていた。
薄暗さはあるものの、シミや埃が見えるほどしっかり校舎内を観察できた。
階段を上がって、三階に着く。上がりきったすぐ横の壁が映る。防災シャッターがあり、そのスイッチを押している手を映した。
「今は押し放題だ。電気が通って無い」
そう呟くマッちんの声。手が引っ込みカメラは廊下を映した。
向かって右に窓が均等に並んでいる。いくつか割れたり、ひびが入っていたり。
左には教室らしき引き戸がある。その廊下の奥にキタローがいた。彼に向かって皆歩いて行く。カメラを持ったマッちんも。

まだライトを使うまでもない――そう呟いたのはリリサ。彼女の横顔を映し、声を拾い始める。
「廃校になったって聞いて、もっとボロボロだと想像した。私の記憶では、木造だったから。違った?」
足を止めてリリサがカメラに向かって、笑顔で言った。
カメラは上下にゆっくり動く。キタローの声が木霊した。
「間違いじゃ無い。でも正確には木造モルタル」
「何、それ?」とネネが尋ねながらカメラの前を通りぬけて行った。
カメラもリリサも彼女を追うように歩き始めた。
キタローの声が聞こえる。
「簡単に言うと、骨組みは木材、残りはコンクリートってこと。一般住宅と同じ。ぜんぜん風化してないのは、定期的に手入れしてるから」

そこで咳払いが聞こえた。カメラマンのマッちんだった。彼の声がナレーションのように入って来る。
「出産報告のため都会から帰郷した我々夫婦は、たった二名の長馴染みと再会し、母校の小学校に来た……これは懐かしき故郷、変わらない友人たちを映像に残し、産まれて来る子供へプレゼントする……はずだった。だが母校は廃校と化していた。キタローによると、奇妙な噂があると言う。予定を変更し、これからその検証を――」
「パパ。ふざけないで」
再び振り返ったリリサは厳しい面持ちで、声も強かった。
「ごめんなさい」とマッちんの声も静かだった。
だがそんな二人にやりとりが、夫婦らしいとネネとキタローは大声で笑った。廊下中に声が響きわたりマッちんは、カメラをきちんと用意するべきだったと呟く。
カメラは廊下を歩きながら床、壁、教室のドア、天井を映して行った。ときどきリリサのむくれ面も。
キタローとネネに追いつき、笑顔のキタローがカメラいっぱいに映る。
そこでまた映像が停止した。
満面笑顔のキタロー。その首――画面の枠にかろうじて見える部分――白い指が四つほど映り込んでいた。


産まれて来るキミへ――そう黒板に書かれている画面に変わる。しばらく無音のまま過ぎていく。表示時間は午後四時十五分を過ぎていた。
机を並べていくネネとキタローが映った。すると表示時間はいつの間にか午後四時三十分になっていた。
ここは教室でした――とリリサの声がする。
「私たちが最後の卒業生だったんだよ。でも卒業後、しばらくは使われてたの……でも、ネネちゃん、何のためだった?」
「わかんない」と机に腰を降ろしたネネは首を横に振った。
「いくら田舎でも人は住んでる。壊す理由なんて無い」とキタロー「グラウンドは地元の消防団が訓練に使ったり、爺さん連中がゲートボールしたり……この校舎は、批難用。地震とか台風とか災害があったとき、やっぱり爺さん連中が使うわけ」
「俺、さっき、防災シャッターのボタン押したけど、反応無かったぞ?」とマッちんの声。
「あーっ、またマッちんがやった! 先生に言ってやろ!」とネネ。
その言葉をかわきりに、どっと笑いが起こった。
それから数分間、各々、小学生の頃の逸話を持ち出して談笑する場面が続いた。

表示時間は午後四時四十分。

だぁん――何かが打ち付けられるような音だった。

ネネもキタローも一瞬体を震わせ、左を見る。カメラも左へ。
リリサの後頭部と、教室のドアがいっぺんにカメラに収まった。

「いまの……何の音?」とリリサの怯える声。
「ちょい、ヤバい。そろそろ出ようぜ」
カメラはその声の主、キタローに向く。彼は煙草に火を点けないまま咥えていた。
「マッちん、産まれて来るガキにきついもん、見せたくないだろ」
上下にカメラが動く。
「じゃ、帰って酒でも飲もうぜ」とキタローが先陣を切るように教室のドアに歩いて行く。だが……
それの姿をカメラが映していたことに気付いた僕は 、動画をぴたりと止め、確認の為に逆再生を始めた。

一時停止された場面は、ネネが机を運んでいる姿だった。
カメラに映っていない場所から机を運び、座る――彼女が登場する瞬間で停止した。
画面の左から出て来るネネ。彼女のスカートを白い手が掴んでいた。


表示時間午後五時。懐中電灯に照らされた、白いシャッターが映り、すぐさまそれを手で叩く様子が映る。がしゃんがしゃんと揺れるシャッター。足で蹴り飛ばしたあと、カメラは廊下の方を向き、懐中電灯の光がリリサを照らした。
リリサは携帯電話で会話していた。聞き取れる音声は「閉じ込められた」とか「助けて」というものばかり。彼女が電話をきったあと、マッっちんの声が入った。
「焦るなよ。別に、命に係わる事態では無い……誰だよ、こんな悪戯しやがって」
再びカメラはシャッターに向く。そして足で斬りつける音が響く。

そして「おーい」とキタローの声がして、カメラ、懐中電灯が廊下へ向けられる。かろうじて彼の姿を捉えた。
「あっちの階段も無理だ。あーあ。閉じ込められたな」
そう言いながらキタローはカメラに向かって歩いて来た。
リリサ、キタロー、そしてカメラを持つマッちんの三名はその場で話し合いを始めた。
「力ずくでも開かない。灯りもダメ」とキタロー「発電機が動いたのは間違いないだろうけど」
「どうして? 閉じ込められる理由なんて」
リリサに続いてマッちんも言う。「発電機の試運転か?」と。
二人の質問に対しキタローは、落ち着けよ、と言ってから腕を組んで喋った。
「発電機の点検なら、月一で消防団がやってる。面子は俺も知ってる……でもさっき、窓から見えた人は知らないヤツだった。あっちも俺に気づかなかったみたいだった」
「おい、助けを求めなかったのか?」とマッちん。
後頭部を掻きながらキタローは、ああ、と返事してすぐ「そんな目で見るなよ。用心したんだ……最近な、事件って言うほどのモンじゃ無いけど、空き家に勝手に住み着いてる浮浪者がいるんだ。転々と渡り歩てるみたいで……声を掛けなかった理由は、もしその犯人だったらって思ったから……わかるな?」
上下にカメラが動く。キタローは続けた。
「幽霊もだけど、やっぱ、生きてる人間が一番怖い。こんな、ど田舎では浮浪者ほど怪しくて怖い人間はいない……幸いケータイが繋がった。警察に連絡したら、同じような事を言われた。みんな一か所に集まって……そういや、ネネは?」
そこで動画は一時停止されたままになった。

しばらくして、画面が変わる。その映像は、ほぼ真っ暗闇で、かろうじて廊下の床が見えるぐらいだった。
ただ音声はしっかり記録されていた。
「いたぞ!」とマッちんの大声「こっちの教室! 椅子に縛られてる! ドアが開かない!」
「どけ!」とキタローの声。そしてガラスを割る音、足音が聞こえる。
「誰かペンとか持ってないか! ネネの顔にビニールが!」とキタローの声「マッちん! ロープは後だ! 暴れたら」そしてどたどた動き回る音がして映像も止まった。


カメラは横たわるネネ、そして拝むように座り込むリリサを映した。
「舌、嚙み切ってた……」とキタローの声だけが聞こえた「パニくったんだ。じっとしていたら、助けられたのに」
そこでカメラは床に落ちて、マッちんの大声が轟き、映像は暗い天井のみを映し出していた。
しばらくの間、キタローとマッちんが、喧々囂々と文句をぶつけ合っていた。
「ネネはおまえと一緒だったろ! なんか怪しいぞ!」
「そりゃこっちのセリフだ!」とキタローの大声「ネネはおまえらを心配して、俺から離れた! 合流したらこれだ! こっちからしたら、おまえらこそ怪しいって!」
そして、ガラスの割れる音がしてすぐキタローの声がする。
「警察が調べりゃわかることだ! 俺は飛び降りて外で待つ! 夫婦仲良く、言い訳でも考えるんだな!」
「逃げる気か? この人殺し!」とマッちんの声。
そして映像が止まった。
暗闇の天井にうっすらと女性の顔が映っている。カメラはそれをしばらく映していた。


画面は明るい教室に変わる。カメラはガラスの割れた窓に向かって行く。そして窓から下、暗い外界を映していた。ピントがぼやけたりはっきり見えたりと、ころころ変わった。
どんどん地面が拡大されていき、やがて地面に横たわる男が映るけれど、誰なのかわからない。ただし彼はぴくりとも動かなった。
次にカメラは教室のドアに向かった。リリサの姿があるものの、彼女の頭から血か倣え、ドアにもたれるように座り、動かない。

映像は音も無いまま数分間、青一色になった。
数分後、カメラは黒板を写した。
やがて黒板消しとチョークが宙に浮いて、白い文字を書き直した。

〝産まれて来たキミへ。キミの、本当のパパとママは、こんな死に方でした。お友達も同じような死に方でした〟
〝では、あなたはどうやって産まれたのでしょう?〟
〝ヒント、この動画の大部分は当時の技術で編集したフィクションです。が、真実もいくつか映っています〟

ここで終了。最後の日付は二千十六年、九月九日、午前四時ちょうどになっていた。

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