【声劇台本】竹合【源ミナト】

人物

かぐら      (8)   縹の娘

縹(はなだ)    (30)(38) 朝廷帳簿記述職

かぐらの親

茨浜(いばらはま) (40) 朝廷の使い

 

現川(うつつのかわ)(12)家門の次期当主

宵(よい)     (29)現川の家来

照沢(てらしのさわ)(11)家門の次期当主

洛(らく)     (30)照沢の家来

誉空(ほまれのそら)(15)家門の次期当主

紀(とし)     (27)誉空の家来

勇城(いさみのしろ)(14)家門の次期当主

晴(はる)     (32)勇城の家来

 

新宮皇子(にいのみやのみこ)(34)朝廷直属の家臣

弟坂       (26)新宮皇子の家来

侍女A         かぐらの侍女

侍女B         “”

楠ノ一(くすのいち)(9) かぐらの友達

坂ヶ島(さかがしま)(8) “”

帝(みかど)       天皇

門番          京の門番

翁(おきな)       かぐや姫の育て親

嫗(おうな)       かぐや姫の育て親

かぐや姫

野次馬A

野次馬B

野次馬C

 

―キャスト紹介―

時代はかぐや姫が月に帰った後の話です。フィクションではありますが、一作目の人物とは違い、人間なので年齢も書いております。最初に構成した設定とは大きく話を収縮しました(一作目、二作目双方)。

 

「かぐら」縹の娘。かぐや姫と同じように生れ落ちた女の子。やんちゃで世間知らず。礼儀も教養も目を反らせぬ行儀ぶり。活発な女の子。虫、生き物、泥、なんだって平気な性格です

「縹」翁、嫗、かぐや姫と共に過ごしていた翁の家来。

頭が良く、心が広い性格であり、かぐらと出会い、前向きに取り組む性格になり、かぐらを育てるために日々努力する

「茨浜」縹を煙たがらずに接する縹の唯一の友達。縹の上司であるものの、縹の才を認めており上下関係なく縹に接する。

「家門」

上位役職の家門の息子。家門は「~家」という意味を含め、表記された名前は名字ではなく、家門に生まれた長男につけられた名前です。

「現川」次期当主として生まれた長男、性格は自意識過剰で偉そうな性格

「宵」現川の家来。従事しているものの、現川の我侭に着きまわされている

「照沢」次期当主として生まれた長男、性格は明るく能天気で馬鹿な性格

「洛」照沢の家来。照沢の奔放的な考えをなんとかしようとするも、手を焼いている

「誉空」次期当主として生まれた長男、性格は美意識優先で人心を見ない性格。

「紀」誉空の家来。誉空の美意識に付き合わされ、いつも化粧道具を持ち歩かされる。

「勇城」次期当主として生まれた長男、性格は純心で真に受けやすい性格

「晴」勇城の家来。勇城の育て親で、陰陽道を心得ている

「願筒」三男に生まれた次期当主。長男次男は病死。

心が弱く、とても臆病。

「蛍」願筒の家門のためにひた走る家来。家門のために幼い願筒など省みず、様々なことやる

「新宮皇子」朝廷左大臣の役職を担うエリート。帝の未練を断ち切るために翁と嫗に処刑を命じた本人。

性格は冷淡、冷ややかながらプライドが高く、物事の先行きを己中心で回そうとする野心家。

「弟坂」新宮皇子の家来。様々な情勢を得て、噂や耳寄りな話をかき集める優秀な家来。

「かぐらの侍女」京へ移り、立派な役職と住居をもらったが故にかぐらに召し仕える侍女。かぐらより年上だが、まだ未成人。

「かぐらの友達」離れの田んぼや畑で住んでいた頃のかぐらの友達、楠ノ一と坂ヶ島。どちらもかぐらと同じくらいわんぱくで、元気な子供

「帝」かぐや姫を失い、日々を追々と悲しんでいる。

「門番」帝の京の門を守る門番。大柄で大槍と大鎌を

両手に持って立っている

「野次馬」噂をききつけ見にやってくる。さらには噂を広め、あることないこと語ったり、大げさに騒ぎ立てる

 

―あらすじ―

かぐや姫が月へ帰り、大変ひどく悲しみに暮れた帝。かぐや姫の未練を断ち切るためにかぐや姫の育て親である翁と嫗を処刑し、かぐや姫が生まれたとされる竹林も伐採、焼却された。翁の家来であった縹は責任を負われ、離れの住居へ移されるも、才を買われて帳簿の役職を担う。しかし、そんな縹の元へ、かつて翁から聞かされていた時と同じようなことに遭遇してしまう。竹取物語の後生として生き抜く「かぐら」と「縹」のお話

 

 

 

 

 

 

 

暗闇の路地を歩く翁と嫗。両手を後ろに縛られ

歩かされている。篝火とぼんぼりに照らされ、

ゆっくりと歩く。走りこんでやってくる縹(30)

縹「待ってください!お願いでございます!」

翁と嫗に近づこうとする縹を門番が取り押さえ

門番「下がれい!無礼者が!」

翁、立ち止まって振り返らず

翁「縹。かぐやから毎夜、満月の日に帝へ答を届ける

と言っていました。もう我らはそれを受け取ること

もかなわん。後の事、お頼みします」

嫗「しかと、お頼みましたよ、縹」

翁、嫗、歩き始め縹から遠ざかる。

縹「(もがきながら)何を言いますか!翁様!嫗様!」

門番、縹を地面に押し伏せる。門が閉まる音が

辺り一面に鳴り響く。

 

暗い竹林に、蛍の光が飛び交い、中でも一際輝

く竹に近づく縹。縹、鬼の形相で刀を抜き、頭

上で大きく構える。

縹「こんなもの…!」

すり足で近づき、斬りかかろうとして翁と嫗の

言葉を思い出す。

翁N『かぐやから答えが届きます』

嫗N『お頼みしましたよ、縹』

縹、刀を振り上げたまま涙を流す

縹「私に…私にどうせよと言うのですか!」

暗い竹林に縹の回想として現れるかぐや姫。

袖を口元に当て、縹に微笑んでいる。

かぐや姫「縹。いつも世話を焼かせてしまいますね」

縹、はっと顔を上げて辺りを見回すもかぐや姫

の姿はなく、呆気に取られる。縹、刀を握りな

おし、光る竹の上を一刀両断する。光を放ち、

産声をあげる赤子。竹から赤子を抱き上げ、そ

の場で膝をつく縹。赤子の巻衣からぶら下がる

赤布のお守りを手に取り、赤子を抱いたまま泣

き出す縹。飛び交う蛍が、縹を取り囲む

 

昼空の田んぼ道。公家姿の茨浜(40)が息を荒

げてヨタヨタと歩いている。茨浜を心配して、

巻物を背負った縹(38)がやってくる

縹「大丈夫ですか、茨浜様!」

茨浜「(息をついて)いや。いつもながらこの道中は

しんどいぞ、縹。よくお前、こんな所を行ったり

来たりと」

縹「無理して同行せずともよいのに」

茨浜「いや。私の独断であるから。あの屋敷に使い

を並べてお前を待っていても暇な一刻を長々と待つ

だけだ。いや、それにしてもしんどい」

縹「もうすぐです。さあ」

二人の間を猛スピードで駆け抜ける泥で汚れた

楠ノ一(9)と坂ヶ島(8)

茨浜「な、なんだ!」

縹「こ、こら!」

泥玉を持って二人の後を追いかけるかぐら(8)

かぐら「やー!待てー!」

縹を無視して後を追いかけようとするかぐらを

縹が呼び止める

縹「こらあ!かぐら!」

かぐら「えっ!?」

かぐら、驚いたように立ち止まり振り替える

かぐら「あ!お父ちゃん!おかえり!」

縹「(かぐらの姿を見て)おかえりじゃない!なんだそ

の格好は!また泥にまみれおってからに!洗うの

大変なのだぞ!」

かぐら「もう自分で洗っとるもん!」

縹「服じゃない!家の周りの話だ!」

かぐら「それもちゃんと掃除するから!じゃあ、ま

た後でねお父ちゃん!」

走り去っていくかぐら。

縹「あ。こら!…(ため息)はぁ…」

茨浜「はっはっは。相変わらずな泥娘(どろんこ)だ

な、縹」

縹「申し訳ありません。不恰好な姿をお見せしてしま

って」

茨浜「何を言う。子供らしくて良いではないか。

ま、もっとも女子らしさではいささか不安が募る

所であるがな。まぁ、ゆっくりと見届けよ、縹」

縹「寛容にし難い所ですよ、かぐらの成長は」

茨浜「子とはそういうものだ。それがたとえ、拾い子

と言えどな。さあ、息も整った。行くとしよう」

茨浜が縹の前を歩く。茨浜の背中にべったりと

泥の手形がついているのを見つける縹

縹「あぁっ!」

茨浜「(驚いて)な、なんじゃ?」

 

茅葺の屋根の下、夕刻の陽が壁板の隙間から

漏れているのを粘土で埋める縹。泥の団子を

練っているかぐら。顔中泥だらけである

縹「全く。茨浜様の衣まで汚して。笑ってくれてはい

たが、いくらなんでもやりすぎだぞ、かぐら」

かぐら「もう。分かってるってば。もうせんよ」

縹「(かぐらを見て)ほら。顔を拭きなさい」

かぐら「ええ?」

縹「ええ、じゃない。これから大事な話があるんだ」

かぐら、しぶしぶ顔を拭く。縹、かぐらの対面

に腰を下ろし

縹「ええか、かぐら。これから大事な話をする。

ちゃんと聞いておくんだ」

かぐら「何さ。改まって」

縹「ええから聞け。いいか。京の朝廷様より、許し

を貰い、都へ居を移すことになった」

かぐら「みやこ?」

縹「そう、都だ」

かぐら「(立ち上がって)そんなん絶対嫌じゃ!わし

は反対だ!なんで移らなきゃいけないんだ!わしは

ここがええ!」

縹「都へ移るのは、お父ちゃんの技術が必要になっ

て、求められてるからだ。と言っても、一人で京

に住むわけにも行かん。だから住まいごと」

かぐら「お父ちゃんが一人で住めばええじゃろ!」

縹「そうもいかんだろう!一人の我侭娘置いて、職

に手をつけることなんかできんわ!」

かぐら「わしは一人で平気じゃ!」

縹「生言うな!泥だけじゃ食っていけんぞ!」

かぐら「都じゃ狭苦しくて生きていけんわ!断かまし

てくればええ!」

縹「立派なお屋敷も授かったんじゃ!今更断る事も

できん!」

かぐら「なんでそう勝手に決めちまうんじゃ!」

縹「(立ち上がり)朝廷の命だからだ!仕方なかろう」

かぐら「知りとうないわ!そんなもん!」

縹「分かってくれ、かぐら!」

かぐら「分かりゃせんわ!」

かぐら、粘土を縹に投げつける。

 

縹の家に荷車が並び、せっせと荷物を運ぶ運搬

業者の使役。嬉しそうに見る茨浜、その隣に

並ぶ縹とかぐら。

茨浜「ほれほれ。急いでくれ。京に欠かせぬ者がやっ

と戻ってくるのだ」

縹「申し訳ありません茨浜様。京へ移すのに、こん

な方たちまで手配していただきまして」

茨浜「遠慮を申すな縹。わしと、お前の仲ではない

か。大いに期待しておるが故に、わしだって何かし

てやらねばなるまいか!…嘘じゃ!そんなの建前

だ!本音はお前ほど才ある者を放って置けるか!」

縹「ありがたいお言葉です」

茨浜「それはそうと、縹。かぐらのその格好だが」

かぐら「(茨浜を見て)なに?」

茨浜「他に無いのか。お前は良いとして、いくら泥

娘といえど、その格好で京には入れぬぞ」

縹「恥ずかしい話、かぐらの衣はこれしか良いもの

がなくて」

かぐら「綺麗な衣はみんなわしが泥で汚したんじゃ」

茨浜「はっはっは!さすがは泥娘じゃ。だが、安心

せい。そう言うと思うてな。晴れ着を持ってきてや

ったんだ」

縹&かぐら「(声を合わせて)晴れ着?」

茨浜「(手を叩き)おうい!持って参れ!」

羽衣と黒漆の化粧箱を持った侍女Aと侍女Bが

やってくる。

縹「この方々は?」

茨浜「ん?かぐらの侍女じゃ」

縹「侍女!?」

茨浜「これで縹も安心して京で職に手をつけられると

思うてな。かぐらの身の世話は案ずるでないぞ!」

侍女A「ではさっそく」

侍女Bに手を連れられるかぐら

かぐら「え?え!え?」

侍女B「ささ。かぐら様。こちらへ」

侍女に連れ去られるかぐら。

縹「茨浜様!なにもここまで」

茨浜「何を言うか縹。愛しい娘が京へ出向き、移り

住むのだぞ。あんな泥衣装ではかぐらも恥ずかしく

ていけん。お前もそうは思わないか、縹。さぁ、総

仕上げじゃ。京へいざ行くぞ!」

 

立派な屋敷の前で止まる荷車と人力車。縹が門

をくぐり、屋敷を眺める

縹「はぁ。なんとも壮観だ。(人力車に)ほれ、かぐ

ら!なにをしておるか!見てみろ。ここが新しい

我が家だぞ!」

人力車から姿を現す、優雅な羽衣を纏い、顔に

化粧を施されたかぐらが姿を現す。不機嫌な顔

立ちで屋敷を見る

縹「なんだ。まだぐずっておるのか」

かぐら「ぐずってなどおらんわ。怒ってるんじゃ」

縹「まだ気に入らぬだろうが、京は豊かだぞ」

かぐら「泥の道一つ、野原の平原も無い地の、一体ど

こが豊かなんじゃ。殺風景じゃ」

縹「そう言うな。さぁ、屋敷の中も見て参れ。驚く

ぞ。前の畑より広い」

かぐら「ふん。お父ちゃんのホラ吹きには飽きたわ」

 

屋敷の中をはしゃぎ回るかぐら。荷物を運ぶ侍

女A、B、縹。

かぐら「広い!広いぞ!なんじゃここは!畑どころ

か林の中のようじゃ!ホラも吹けば、真になるの

だな!」

縹「言った通りだろう」

かぐら、柱を見つめて

かぐら「お父ちゃん。柱に虫食い穴が空いておらん」

縹「あぁ。必要ないんだよ。その柱は漆を塗られてい

るから」

かぐら「粘土は?空いたらどうするんじゃ?」

縹「この京では粘土はいらん。穴が空いたら、木屑

で埋めてもらうんだ」

かぐら「ほえー」

かぐら、柱を見つめたまま座り込む。縹の屋敷

の外から中の様子を伺い見る野次馬A,B,C。

 

野次馬A「誰じゃ?誰じゃ?一体どこの者がやってき

た?」

野次馬C「あぁ。縹じゃ。あの縹じゃ」

野次馬A「あの、と申すのは?」

野次馬C「あれじゃ。翁の元家来じゃ」

野次馬B「帝の悲しみの責を負わされ、離れの向こう

に住まわされたあの男か」

野次馬C「そうじゃ。あの男がこの京へ帰ってきた」

野次馬A「なんとな。そうか。あの男がそうなの

か。しかし、子を設けているとは」

野次馬B「やや。よう見てみろ。あの齢にして中々壮

麗であるぞ」

野次馬C「盛装しておるだけではないか?」

野次馬B「いや。そうであったとしても、あの御子

が育てば、いずれは端麗に成るだろう」

野次馬の噂を聞きつけて宵(29),洛(30),紀(27),

晴(32),蛍(49)の家来達がやってくる。

野次馬A「あの御子を今の内に嫁に迎えれば、それ

はまあ見事なものになるだろう。誰もが疎ましく

思うぞ」

野次馬の話、かぐらの姿を見て確信を得た家来

達は一斉に散っていく。

 

晴れ空の縹の屋敷に、やってくる現川(12)と宵

宵「縹様。縹様はおられるか」

屋敷から姿を現す縹とかぐら。

縹「はい、わたくしにございます」

宵「こちらは未来の事末を担うであろう御方、現川

様にてございます。縹様のかぐらとの婚姻を申し入

れたく参りました」

現川「(かぐらを見て)ほう。真に美しいではないか

宵、お前の言う通りだ。おい、お前。我の嫁にして

やるぞ」

かぐら「何を生言ってるんじゃ!お断りじゃ!」

現川「お前!今なんと言った!我を誰と心得るか!」

かぐら「お前など知らぬわ!」

現川「ぐぬう!こちらこそ願い下げじゃ!帰るぞ宵」

不機嫌そうに帰る現川と困り果てた顔の宵。

現川が去ると、照沢(11)と洛がやってくる。

洛「縹殿。縹殿。先刻より御一報を入れました洛で

ございます。こちらにあわすは我が次期当主であら

れる照沢様でござります」

照沢「(かぐらを見て)おう!噂を聞いておるぞ。現

川の求婚をあしらった馬鹿はそちの方か!」

かぐら「誰が馬鹿じゃ!」

縹「こら!かぐら!」

照沢「そちの方。余の物になるがええ」

かぐら「わしはっ!」

縹、咳払いをする。かぐら、口をもごもごさせ

かぐら「わ、わらわは…お、お断り、い、致します

でございます」

しばらくの沈黙の後、

照沢「そうか!分かった!帰るぞよ、洛!」

洛「(追いかけながら)ちょ!よろしいのですか!?」

笑いながら去っていく照沢、と慌てる洛。

縹「(小声で)言葉遣いがなってきたじゃないか」

かぐら「あれだけうるさく言われれば嫌でも…」

照沢が去った後、化粧箱を持つ紀と、顔を油で

塗った誉空(15)。

紀「こちらにあわすは、京で一の美しさを持つ男(お

のこ)と言われる誉空様にてございます」

誉空「やあ。美しいと言われるかぐらとはその方

か?まぁ、確かに美しいが、我には劣るものだな

まぁ、それでも美しさの欠片もない俗を嫁にするよ

りかは幾分マシだろう。さて、我の妻になれ」

かぐら「あなた様とわらわでは比べものになりませぬ

わ。みすぼらしいわらわをどうかお忘れくださいま

せ」

誉空「なんと。自らみすぼらしいと申すか。ならばよ

そう。我の美が失せてしまわぬうちにな」

紀「左様ですか…」

去っていく誉空と紀が見えなくなり、

かぐら「田んぼへ帰れ、泥鰌」

縹「こら」

勇城(14)と晴が自信ありげにやってきて、屋敷

の門手前で立ち止まる。

勇城「のう、晴。私の思いは無事に届いたかのう」

晴「勇城様、御安心なされ。この晴めが術を使い、文

を蝶にして、かぐら様に直接お届けいたしました。

きっと思いが届いていることでしょう」

勇城「(嬉しそうに)そうか!それなら安心だ!」

二人を待つ縹とかぐらに顔を向けて、歩く勇城

と晴。

勇城「御機嫌よろしゅうございますかな、縹様、かぐ

ら様」

縹「これはこれは。勇城様。お気遣い感謝致します」

晴「かぐら様に文が届いておられるはずです。かぐ

ら様、御読みになりましたでしょうか?」

かぐら「文?」

晴「こちらの屋敷にひらひらと蝶が舞い、あなた様

の元に届いたと思われます」

縹から笑顔が消える。かぐら、思いついたよう

に袖からぐしゃぐしゃになった文を出す。

かぐら「父上が大の虫嫌いなので、叩き落としたので

すが、ひょっとしてこちらがその文にございます

か?」

勇城泣き顔でその場から走り去り、後を追う晴

勇城「うわーん!」

晴「(後を追いかけ)い、勇城様ー!」

かぐら「(文を袖にしまい)わし、なにか言った?」

縹「いや。知らんほうがええ。家に入ろう」

縹とかぐらが屋敷に入ると、野次馬が集まり

噂を立てる。その中に弟坂(26)も混じりいる

野次馬A「変じゃ」

野次馬B「実におかしい」

野次馬C「あれだけ求婚を迫られても、顔一つ変え

ず全員断ってしまうとは」

野次馬A「怪しい。まるで美しさを持て余す、あの

女のようだ」

野次馬B「かぐやの娘か?ああそうだ」

野次馬C「そうに違いない」

噂を立てながら、歩き去る野次馬。弟坂、しば

らく考えた後足早にその場を去る。

 

行列を率いた牛車が縹の屋敷で止まり、姿を

現す新宮皇子(34)と弟坂。屋敷へ入り、縹と対

面する

弟坂「縹殿。こちらにおわすは…」

新宮皇子「よい、弟坂。余が直々に申す。縹殿、余

は新宮皇子と申す。話があって参った」

縹「こ、これはよくぞ、粗だらけの我が家へ。どう

ぞ、おあがりになってください」

中へ招き入れる縹。屋敷中央に座す新宮皇子

縹、かぐらを呼び、縹の隣に座らせる

新宮皇子「改めて、御紹介を。朝廷、左大臣の任を

預かる、新宮皇子と申します。お初に、かぐら様

此度は、噂に聞くその麗しきお姿を拝見に参り、

縹殿も交えてお聞きしたいことがございます」

かぐら「父上にも、ですか?」

新宮皇子「大変お心苦しい話ですが、かぐら様にも知

って頂きたい話でもあります。余の右腕として働

くこの弟坂が、妙な噂を聞きましてな」

かぐら「噂?」

新宮皇子「その端麗、美貌の噂などではなく。なんと

もおかしな噂にございまして。あなた様が、あの

かぐやの娘であると、噂を立てていると」

かぐら「かぐや?」

新宮皇子「ほう。御存知ないとはないとは。かぐやと

は、あなた様に負けぬ程の美貌と容姿を持ち、幾

手数多の男供の申し入れを断り、帝のお側に招かれ

た者で御座います。しかし、そのかぐやは月の者

と名乗る軍勢により、帝の身となったその身を捨て

て、月へと帰り、帝を大変悲しませた大罪人として

京の者には記憶に新しい、おとぎ話でございます」

かぐら「そんな噂の矛先が、なぜわらわに?」

新宮皇子「その方の、縹殿が本当はよくご存知であら

れるはずなのですが」

かぐら「お父…、ち、父上が?」

新宮皇子「縹殿はそのかぐやの育て親、翁と嫗の元家

来に御座います。なぜ、かぐら様に言わず隠してい

たので?」

縹「隠してなど。ただかぐらには関係のない話に御座

います」

新宮皇子「このような噂にかぐら様が興味を持たぬよ

うにでございましょう。自らが独り占めにしよう

とするために」

縹「それは言いがかりです!」

新宮皇子「なら、かぐら様の前でお話になられたらい

い。なぜ縹様があのような場所へ移され、責任を

負わされている身である事を!」

縹「それはかぐらには関係のないことだ!」

新宮皇子「大いにある!縹殿、あなたはこの御子を使

い、朝廷に謀反を企てているのではあるまいか?か

ぐらを使い、帝の機嫌を取ろうと腹の底で笑ってい

るのではあるまいか!」

縹「誰がそのようなことを考えるか!」

新宮皇子「ならば!…ならば、かぐら様を帝のお側

へ嫁がせていただきたい。帝は今も、大変悲しまれ

ております。その責を負わされた縹様にもよい話

でございます。あのかぐや姫の生まれ変わりが、帝

の元へ帰ってきたと知れば、縹様に課せられた責は

解かれ、さらに上の位を授かること、間違いないで

しょう」

縹「何を申している、そんな事許さぬぞ!」

新宮皇子「分からない御仁だ。はっきりと申しましょ

う。これは申し入れではなく、命令だ。たとえ、あ

のかぐやの娘でなくとも、帝がそう思えばそれでよ

い。そのために、寄越せと命令を申しているのだ」

新宮皇子、立ち上がり

新宮皇子「では、色よい返事をお待ちしております」

弟坂を連れて、屋敷を出る新宮皇子。項垂れる

縹。

 

部屋に引きこもるかぐら。戸の向こうで縹が声

をかけている

縹「かぐら」

かぐら「開けないで!なんで、言ってくれなかったん

じゃ!わしの、わしを生んだもんのせいで、お父ち

ゃんが酷い目に会っていたなんて」

縹「かぐら、それは違う。お前はかぐやの娘では断じ

てない。嘘ではない、本当だ」

かぐら「では何故噂が立つのじゃ!何故わしの回り

の男(おのこ)はみんな疎ましそうにわしを見るのじ

ゃ!かぐやもそうであったから!わしもそうである

から!」

縹「あれは噂じゃ!鵜呑みにしてはならん!」

かぐら「じゃあ何故今まで、それを話してくれんかっ

たんじゃ!なんでわしにだけ隠していたんじゃ!」

縹「隠してなどおらぬ!私の責を負う身とお前の身に

は何の関係もない事だ!」

かぐら「もう嫌じゃ!お父ちゃんの話は聞きたくな

い!」

縹「かぐら!聞いてくれ!」

かぐら、返事をせず蹲る。縹、戸から離れて神

妙な顔で胸元から赤布のお守りを出し、手にと

って見つめる。屋敷の門を叩く音が聞こえ、門

へ向かう縹。

 

門を開けると牛車を率いて待つ新宮皇子と弟坂

の姿。

新宮皇子「心は決まったであろう。かぐらの迎えに

参った」

屋敷の戸の影から縹の後姿を見つめるかぐら

新宮皇子「そうだ。口約束もなんだ。朝廷直々の約束

の褒美が記してある。安心せい。余の名前で約束を

こうじたのだ」

弟坂が縹に書状を手渡す。

新宮皇子「して。御心を和らげる為の、帝のお側に仕

える身はどちらに?」

縹、新宮皇子の言葉を聞き、その場で書状を捨

てて踏みつける

新宮皇子「な、なにをしておる貴様ぁ!」

弟坂「無礼であるぞ縹殿!」

縹「破談じゃ。こんな紙切れで、かぐらを渡すんは無

理じゃ!改めて出直せ!お前らに帝の真の気持ち

が分かるか!お前ら阿呆者に!翁様と嫗様から託さ

れたものは渡せぬわ!かぐや様の御子を渡すもの

か!」

弟坂、刀を抜き

弟坂「この無礼千万な大馬鹿者めが!」

弟坂が刀を抜くのを見たかぐらが縹を呼ぶ

かぐら「お父ちゃん!」

縹、身をかわして腰の小刀を抜き、弟坂の腕を

斬りつける。刀を落として倒れる弟坂。縹、新

宮皇子に刃先を向けて、

縹「お帰り願おう!新宮皇子殿!」

新宮皇子「ただで済むと思うな、この大罪人が!」

怒りの表情を露にその場から立ち去る新宮皇子

と弟坂。縹、小刀を納めてかぐらに顔を向ける

かぐら「お父ちゃん…」

縹「すまん。かぐら。お父ちゃんは大馬鹿者じゃ。嘘

をついて悪かった」

縹に駆け寄るかぐら。

かぐら「そんなのもうええ!わしこそごめん。わし

のほうこそ!」

縹「お前は謝らんでええ。お前はええんじゃ。お前

は翁様と嫗様に育てられ、帝に愛されたあのかぐ

や様の娘じゃ。何も悪くはない。お父ちゃんは嬉し

かったぞ。あのかぐや様とは、性格は似ても似つか

んが、お前を翁様と嫗様、そしてかぐや様から授か

って本当に嬉しかった」

かぐら「なんでそんな事言うんじゃ!わしはかぐや

の娘なんかどうでもええ!わしはお父ちゃんの娘

じゃ!縹の娘、かぐらじゃ!」

縹「まだそう言うてくれるか。嬉しく思うぞ」

遠方より聞こえる軍靴(足音)。新宮皇子の軍勢

が近づいてくる音。

縹「早いなあ。もう少し、居たかったが」

かぐら「お父ちゃん?」

縹、胸元からお守りを取り出し、かぐらの首に

かける。

縹「かぐら。これを持って行け。これを持って京の都

の一番大きな門を叩け。自分をかぐや姫の娘と名乗

れ。かぐや姫より、言伝を授かったと言え」

かぐら「なにこれ?なんなのじゃお父ちゃん!」

縹「わたしにも分からん。だがそれはな、かぐや様が

帝へ向けてのものだと思う。大切なものじゃ」

かぐら「お父ちゃんが届けたらええ!」

縹「わしが行っても、あの門番は信じぬ。お前が行く

のだ」

かぐら「お父ちゃんどうするんじゃ!ここにいたら死

んでしまう!」

縹「こら!誰が死ぬものか。お前がこれを帝に届けさ

えすれば、あんな兵は帝様が追っ払ってくれる」

かぐら「ほんとじゃな!本当に死なぬか?」

縹「死なん。先に家に帰っとるだけじゃ。かぐらが帰

るのを待っておる。さあ行け!帝に届けに行くのだ

かぐら!答はそこで待っている!」

かぐら、裾をまくって折り、門を抜けて駆け抜

ける。

縹「かぐら。お父ちゃんのホラ吹きも、もう聞き飽き

たろう。だが、それが最後。これが最後じゃ」

門を抜けてなだれ込む兵士の足音。

 

満月の夜の道の元、何度も転び、下駄を脱ぎ捨

て、泥や砂で汚れた衣を来て駆けるかぐらの姿

 

大きな門の前に立つ大柄の門番。篝火に照らさ

れ、腕を組んで立っている。そこへ息を切らし

てやってくるかぐら。

門番「何奴じゃ」

かぐら「帝様に、御伝えしたいことがあってやって参

りました」

門番「何じゃと?ここで申せ!」

かぐら「帝様に伝えるんじゃ!お前なんかではな

い!」

門番「何を!」

門番がかぐらを叩こうとした時、門が開く音で

手を止める。開いた門の先で牛車に乗っている

顔を布地で隠した帝の姿。門番、顔を伏せて端

に寄る。

帝「話とはなんぞ。申してみたまえ」

かぐら、お守りを握り締めて

かぐら「かぐやが娘、かぐらに御座います。我が

母より言伝を授かって参りました。

我が父より、命を授かって参りました」

 

桜の木の下で満月を見上げるかぐや姫の姿。そ

こへやってくる縹。

縹「かぐや様、これを」

かぐや姫「まあ。これは?」

縹、かぐや姫に赤布のお守りを手渡す。

縹「お手製の御守りにございます」

かぐや姫「まあ。可愛らしい御守りですね」

縹「かぐや様、近頃元気がなさらないようなので」

かぐや姫「縹。いつも世話を焼かせてしまいますね」

縹「いえいえ。これぐらい…」

 

満月の夜の下、屋敷の門手前で血を流し、膝を

つく縹の姿。掠れた声で

縹「なんとも…御座いませぬ故…」

項垂れたまま動かぬ縹。

 

シェアして貰えると創作の活力に!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA