【声劇台本】イ中門日タトレノ止少ミ(なかまはずれのあゆみ)【源ミナト】

 

人物

己(おのず) ユメ 人間/大干支クラス生徒

齧(かじり) ネネ 鼠/  “”

車(くるま) アド 牛/  “”

柄(えがら) ヨズ 虎/  “”

跳(はねり) ピロ 兎/  “”

天(あまの) デン 龍/  “”

渦(まわり) アオ 蛇/  “”

衣(ころも) マコ 馬/  “”

集(つどい) モコ 羊/  “”

始(はじめ) キチ 猿/  “”

翼(つばさ) サキ 鳥/  “”

薫(かおり) ポイ 犬/  “”

進(すすみ) ギン 猪/  “”

翔(かけり) タク 麒麟/ユメの里親

大干支(おおえと) クラス担任

雨止(あめやまず) クラス副担任

運(はこび) ウラ 亀/老師

返(かえし) ツウ 鶴/老師

・怪一家

怪(あやし) ゼン 鬼/父

ナン  狐/長女

ヌラ 猫/次女

ドロ  物憑き/三女

ウオ  河童/長男

・生一家

生(はやし) モブ 椚/母

アエ  タンポポ/長女

・流兄弟

流(ながれ) ビリ 雷神

ワオ 風神

デミ 地神

ボウ 火神

ポタ 水神

 

 

―キャスト紹介―

基本的に年齢性別、男女の制限はないです。人間の己は人間の姿をしていますが、それ以外は全て人型ではあるものの身に纏う衣服、牙や爪が大きく違います。

主人公の己は人間の肌、それ以外は鱗、毛皮、体色が違うといった人物。

「己ユメ」はクラスから除け者にされており、自分に自信をなくしています。臆病ながら誠実な性格です。

ユメの発音は『雨』と一緒です。

「齧ネネ」はお調子者。落ち着きなく行ったり来たりし、相手の感情には鈍感ながら、悪口には敏感です。

「車アド」は威張り屋。図体も態度も大きいくせに、行動を起こすのは遅い。偉そうで短気です。発音は『アドレス』のアドです。

「柄ヨズ」は怒りん坊だが、自分に素直。自信過剰気味で競争心が激しいです。発音は『百舌』と一緒です

「跳ピロ」は寂しがり屋。長い耳を折りたたんで逃げる癖を持つ。己ユメの次に除け者にされがちです。実は聴力が凄まじく、普通の会話でも煩く聞こえてしまい、その悩みを伝えられない為、耳を塞いで逃げます。

発音は『キログラム』のキロと一緒です。

「天デン」は物静かで口数が少ない。喧嘩や騒ぎにはいち早く止めに入る強い正義感も持つ性格です。発音は『電気』のデンと一緒です

「渦アオ」は人目を気にして目や首を止むことなく動かす。舌を出して馬鹿にするのが得意です。発音は『青』と一緒です。

「衣マコ」は天然。言われて間違いに気づいて一人で大笑いする。駆け回るのが好きです。

「集モコ」は能天気で明るいが、失敗を悔やんでいじける事が多い。励ましの言葉ですぐ機嫌を戻す性格。

「始キチ」はやんちゃで我侭。気に入らないと物を投げて反抗して、悪さをすると知らんぷりする性格です。

発音は『基地』と一緒です。

「翼サキ」は人任せで自分では動こうとせず、自分の意思は持たない性格です。

「薫ポイ」は他人の為にしかやる気を起こさず、いつも誰かの手助けをする。疑わない心を持つ性格です。

「進ギン」は前向きで明るい豊かな性格。押しに強く、一切退かない性格です。

「翔タク」は冷淡ながらも誰にでも接する。盲目であり、杖をついている。己の里親。

「大干支」は楽観的で後先を気にしない性格。楽しければいいという考えを持つ人物です。

「雨止」は冷静に物事を捉え、原因を探す性格です。雨笠を被っており、脱ぐと雨が降る。

「運ウラ」は学校とは離れた山の滝に住む亀。様々な知識を教えてくれる人物です。発音は『浦賀』の浦と一緒です。

「返ツウ」は学校とは離れた山の湖に住む鶴。様々な存在を教えてくれる人物です。

「怪一家」シングルファーザーの鬼のゼンと、気分全開の狐の長女ナン、怠け癖、寝坊ばかりの猫の次女ヌラ、恥かしがり屋で滅多に顔を見せない三女ドロ、いたずらばかりする河童のウオ。ゼンははっぴを着ている気さくな性格。ナンは常に格好を気にする

上品な性格。ヌラはとにかく動きたくない面倒くさがりだが好奇心のある性格。ドロは物に紛れて隠れる無口な性格。ウオはいたずらしては叱られるも反省の色は全くない。子供達には学校に行かせず、山や谷を行ったり来たりさせています。

「生一家」

山奥で暮らす家族。シングルマザーの椚のモブ、後ろをいつも着いていく不思議な子のタンポポのアエ。

モブは親しく接してくれる温和な性格です。アエは好奇心旺盛で様々なものを観察するのが好きな性格。

「流一家/一門」

世界を作った神様達。全員同じ兄弟(姉妹)。意気込みの強い雷神のビリ。勇気溢れる風神のワオ。熱中しすぎな地神デミ。血気盛んな火神ボウ。静かに音を聴く

のが好きな水神ポタ。

 

 

―あらすじ―

世界に山や谷が生まれ、様々な生き物が住むようになった世界で、季節の並びに順番をつけようと思いついた「大干支」は、動物を呼び集めて競争させ、「干支」を作った。競争で順位に入った十二匹を集め、大干支

学校を設立。そこに盲目の麒麟、「神獣」が「己ユメ」を特別に学校へ入れてもらえないかと頼み、許可を得て「己ユメ」を大干支学校へ入学。ところが、仲間として認めてもらえない「己ユメ」は、段々と自分を見失っていってしまい、とうとう学校へ行けなくなって、神獣の元を出て行ってしまう。そんな「己ユメ」の自分を見失った世界にたった一人の「人間」に巻き起こる不思議な物語。

森や林に囲まれた野原。顔を俯かせて歩く己ユ

メは大きな葉っぱのリュックを背負っている。

ユメの後ろからはしゃぐ声が聞こえ、慌てて茂

みに隠れる。両手で耳を抑えて歩く跳ピロ。そ

の後ろに着いて回る車アド、齧ネネ、柄ヨズ。

つつき回すようにピロを馬鹿にしている

アド「おい!聞こえてんだろう!耳なんか抑えたって

本当は聞こえてんだろう!」

ネネ「そうだよ!絶対そうに決まってる!」

ピロ「(両耳を抑えて)聞こえない。何も聞こえない」

アド「じゃぁこれでどうだよ!」

アド、ピロの片腕を引っ張り、顕になった片耳

に向かって怒鳴り散らす

アド「なぁおい!これで聞こえるだろう!」

ピロ、必死に振りほどこうとする

ピロ「痛い!放してよ!放して!」

アド「いつもお前がそうやって耳塞いでいるのを見て

ると無性に腹が立つんだよ」

ネネ「そうそう!それに変だよピロ!どうしてって聞

いても答えないし!あのユメと一緒じゃん!」

ヨズ「なあ、ピロ。聞いてんだから答えろよ!なんで

そうやって耳ふさいで逃げるんだよ!」

ピロ「知らない!やめて!放してよ!」

ネネ「やっぱピロもユメと一緒だ!自分の事なのに知

らないんだ!答えられないんだ!」

ヨズ「なんでだよ!自分の事を言うのなんか簡単じゃ

んかよ!」

アド「お前みたいな奴がなんで同じ干支に入ってるん

だ」

騒ぎ声を聞いた始キチ、渦アオがやってくる

キチ「なに馬鹿騒ぎしてんの?オイラも混ぜてよ」

アド「うるせえ。お前には関係ない」

キチ「なんだってえ?」

キチ、石をアドの背に投げつける。アドに石が

当たり、ピロの手を放すアド。耳をふさごうと

したピロの手をヨズが掴んで放さない。

アド「痛えっ!なにすんだよ!」

キチ「(小馬鹿に)え?何?石が勝手に飛んで行っただ

けだよ。オイラじゃない」

アド「お前が投げたんだろうが!」

キチ「投げてねえよ!」

ヨズ「お前らうるせえ!今、ピロに聞いてんだから静

かにしてろよ!」

アド&キチ「(声を合わせて)お前こそうるせえ!」

ヨズ、ピロの手を放し、

ヨズ「なんだと!」

ピロ、耳をふさいで素早く逃げる

ネネ「あぁ!ねえ、ピロが逃げたよ!待て、ピロ!」

ピロの後を追うネネ。ヨズ、地団駄を踏み、

ヨズ「あぁ、もう!(キチを指差し)お前のせいだ!」

キチ「オイラ何もしちゃいねえよ!」

アド「俺に石を投げたじゃないか!」

キチ「オイラが投げたっていう証拠あるのかよう!」

ヨズ「おい、アオ!」

ヨズ「お前は見てたよな!キチの後ろにいたんだから」

ヨズ「誰が投げた?」

アオ、キチの睨みで目を反らす。アオ、顔を反

らしたまま茂みを指差す

アオ「そ。そこの茂みから飛んできたよ。き、キチは

投げてない。誰が投げたのかは、わ、分からない」

ヨズ&アド「(声を合わせて)茂み?」

ヨズ、アド、顔を見合わせる

キチ「ほ、ほら見ろ!オイラがじゃねえぞ!」

アド「おい、アオ。お前、嘘ついてねえよな?もし嘘

だったらお前もキチと共犯だからな!」

ヨズとアド、茂みに近づいて調べる。茂みに隠

れるユメを見つける

ヨズ「あぁ!お前!」

アド「おい!出てこい!」

ユメを茂みから引き摺りだすアドとヨズ

キチ「(ユメを見て)ユメじゃないか!」

アド「お前かあ!石を投げたのは!」

キチ「そうだ!ユメだ!アドに石を投げたのはユメ

だ!」

ユメ「(首を振り)ち、違う僕じゃない!僕、何も!」

キチ「嘘付け!アオがこの茂みから飛んでくるのを見

たって言ったんだぞう!」

ユメ「そんなの知らないよ!僕は何もやってない!

石を投げたのはキチじゃないか!僕の方こそ見てた

んだ!キチとアオが嘘ついてるんだ!」

アド「他人の所為にしようとしやがって!」

ヨズ「自分のした事を認めろ!」

ユメ「本当にやってない!僕じゃない!キチ!アオ!

本当の事を言ってよ!」

キチ「いい加減にしろよユメ!オイラもアオも嘘をつ

くワケないだろう!そうだろう、アオ!」

アオ「う、うん。そ、そう。キチも僕も、う、嘘はつ

かない」

ユメ「そんな…っ!」

アド「よくも石なんか!干支でもないくせに!」

ヨズ「仕舞いには嘘つきやがって!人間のくせに!」

ユメ「だから、僕じゃないんだ!」

アド「(拳を振り上げて)口答えするな!」

ユメ「ひっ!ご、ごめんなさい!」

キチ「あ!今謝った!やっぱりユメがやったんだ!」

ユメ「ち、違うよ!今のは!」

ヨズ「謝れば許されると思ってるのか!」

ユメ、ヨズに突き飛ばされ地面に倒れる。そこ

へ現れる天デン、衣マコ、集モコ、翼サキ、薫

ポイ、進ギン。

ギン「(ユメを見て)おい!なにやってるんだ!」

ポイ「弱い者いじめか!許さんぞ!」

ヨズ「違うよ!このユメが最初に俺に向かって石を投

げて来たんだ!」

ギン「なんだって!本当か、ユメ!」

キチ「本当さ!投げただけじゃない!オイラの所為に

もしようとしてたんだ!」

マコ「じゃぁ、それって。ユメは自画自賛じゃん!」

デン「自業自得な」

マコ「(大笑いしながら)そうだ!それだ」

ポイ「キチに聞いてるんじゃない!ユメに聞いてるん

だ!」

キチ「オイラの話より、口を開けば嘘をつくユメの話

を聞くのかよう!」

モコ「なんだっていいから早く帰ろうよ」

アド「よくねえよ!モコは黙ってろ!」

モコ、自分の体毛で蹲る

デン「ユメからも直接話を聞かなきゃ僕らにも分から

ない。ユメ、本当に君がやったのかい?」

ユメ「(体を起こして)僕はやってない!本当だよデン」

デン「じゃあキチが嘘をついているって事かい?」

ユメ「それは…その」

ヨズ「なんだよユメ!お前さっきキチとアオが嘘をつ

いているって言ったじゃないか!今さらその嘘すら

認めないつもりかよ!」

ユメ「違う!僕は嘘なんかつかない!…でも」

デン「ユメ。はっきり言ったらいいじゃないか。君が

濡れ衣着せられているなら、それは自信を持って否

定したらいい。ただ、それを言う事すらできないな

ら、君が濡れている事を、僕は疑ったりしないんだ」

ポイ「デンの言う通りだ」

ヨズ「なんだよデン!こんな奴の味方をするのか!」

アド「実際に石を投げられたんだ!」

ギン「それがユメだとも分からないだろう!さあ、ユ

メ!言ってくれよ!」

全員がユメに注目する。ユメ、下を向いて黙っ

てしまう

ヨズ「(舌打ち)もうお前訳分からない」

アド「結局、自分の事何も言えない奴だ」

石を放って去っていくヨズとアド。キチが石を

拾おうとする。デン、それを止める

デン「拾うな、キチ」

キチ「なんで?」

デン「こんな事になった原因の石を、君は持って帰り

たいのか?」

キチ「いや」

デン「みんな、帰ろう。サキ、モコを送ってあげて」

サキ「あ、うん。どこまで?」

デン「家まで」

サキ「いいよ、わかった。(モコに)ほら、帰ろうモコ」

足早に去っていく中で、その場にユメだけが残

る。ユメ、石を拾い、デン達とは逆方向へ走っ

ていく。

 

杖をついて家の中を歩き回る翔タク。家の戸を

勢い良く開けてやってくるユメ。荒い呼吸をた

てている

タク「おかえり、ユメ。学校はどうだった」

ユメ、返事もせずタクを見続ける

タク「ユメ。お前だろう。見えなくても分かる。返事

はどこへ行ったんだ?」

ユメ「(涙声で)ただいま、タクじい」

タク「なんだ、なぜ泣いている?」

ユメ「タクじい。僕って何?僕は一体なんなの?」

タク「ユメはユメだろう」

ユメ「僕だけだよ人間なのは。人間ってなに?僕は人

間なのに自分の事なんかこれっぽっちも分からな

い。僕はなんなのさ!」

タク「忘れてしまえ、そんな下らない事」

ユメ「僕は僕がなんなのか分からない!皆と全然違

う!姿形はみんなそれぞれ違うけれど、皆は自分が

他と違うところを自信を持って言える!皆自分が何

者かってはっきりしてる!」

ユメ、リュックを放り投げて

ユメ「僕は自分がなんなのか分からない!どうして毛

皮がないのか理由も言えない!」

タク「そんなことでいちいち悩んだりするな!」

ユメ「悩んでなんかいない!恨んでるんだ!どうして

僕みたいな奴を生んだのか!僕を生んだ奴なんか大

嫌いだ!」

タク「ユメ!」

ユメ「タクじいだって!僕を目で見てないから、僕が

いつも聞いたって何も教えられないんだ!僕がどん

な姿か知らないから!タクじいも大嫌いだ!なんで

僕をこんな所へ連れてきたりしたんだ!」

ユメ、家を出て走り去る。タク、追いかけよう

とするが家の戸を出た後、その場で膝をつく。

満月の光がタクを照らしている。

 

暗い林を力なく歩くユメ。時折空を見上げて三

日月形の月を見る。腹を抱え、木によたれ掛か

るユメ。

ユメ「お腹すいた…」

ユメ、一息つくと、糸が切れたように横に倒れ

る。

 

月明かりが陽光に変わり、倒れたユメの元に生

アエと生モブがやってくる

アエ「ほらお母さん!お母さん!そこに誰か倒れてる

のや!」

モブ「(ユメを見つけて)まぁ、大変!」

モブ、ユメに近づいて揺り起こす

モブ「ねっ。ねっ。大丈夫?」

ユメ、目を覚ましてモブとアエを見て飛び起き

る。

モブ「落ち着いて。心配せんでも何もしないよ。アエ、

水をくれる?」

アエ、頷いて竹の水筒をモブに渡す。モブ、水

筒をユメに手渡す。

モブ「飲みなさい。喉が渇いているんでしょう?」

ユメ、疑いもせず水をラッパ飲みする。懐から

葉で巻いた握り飯を取り出し、ユメに差し出す

モブ。

モブ「これも食べなさい。お腹すいてるでしょう?」

ユメ、差し出された握り飯を頬張る。口一杯に

なったまま涙を流すユメ。泣きながら握り飯を

口に入れていく。

 

陽の光がもれる林の中、籠を背負うユメとモブ、

モブの後ろでアエが隠れながらユメを見ている。

モブ「助かります、籠を持っていただいて」

ユメ「いえ。僕の方こそ助かりました。お腹がすいて、

飢え死にするところでした」

モブ「見つけてくれたのはアエよ、お礼ならアエに言

ってあげて」

ユメ「えっと。どうもありがとう。助かったよ」

アエ「ねえ、ユメだっけ?」

ユメ「うん。よろしく」

アエ「ユメは変わった姿してるのや」

ユメ「うん、よく言われる」

アエ「どうして?」

ユメ「(視線を落として)それは…」

モブ「アエ。困った事は聞かないの。さあ、ユメさん。

籠はもう結構です。後はこちらが持ちますので」

ユメ「え?でも」

モブ「ユメさんの悩み、それを聞いても私らにはなん

の解決もできません。けどね、導くことは誰にだっ

てできるものです」

モブ、ユメから籠を受け取り、林の向こうを指

差す

モブ「こちらを真っ直ぐお進み下さい。ユメさんが知

りたいこと、きっと見つかると思います」

中々進まないユメを、後ろから優しく押し出す

アエ。ユメ、言われるがまま林の奥へと進む。

 

水飛沫を起こす滝。辺りを見回すユメ。近くの

苔の岩にしゃがみこみ、肩を落とす。

ユメ「知りたいことなんか、見つからないじゃないか」

ユメが座る岩、運ウラが口を開く。

ウラ「そうとも限らんよ、お若いの」

ユメ、飛び跳ねながら立ち上がる。

ユメ「うわあ!え?…なに!?」

ウラ「(体を起こしながら)大きくとも、小さくとも目

には見えづらい物がある。何でもかんでも」

ユメ「あ、あなたは一体、誰?」

滝からカーテンを開けるように出てくる返ツウ

ツウ「本当に知りたいのは名前かい?」

ユメ「うわっ!」

ツウ「(雫を払いながら)随分と早く来たね、ユメ」

ユメ「え?僕を知ってる?」

ウラ「(甲羅の苔を剥がしながら)そりゃ知っておるよ。

誰だったかな?」

ツウ「ユメよ。タクが授かった、あの人間」

ウラ「あぁ、タクのあの子供かあ」

ユメ「あ、あなた達は一体?」

ツウ「知りたいのはそれだけかい?」

ユメ「え?だ、だって」

ツウ「あたしらの正体は目で見える謎。けど、ユメが

今胸に抱えてるのは、目に見えぬ謎」

ウラ「お前さんは目に見える物ばかりを目で追ってい

る。見えない物を見るには見なければいい」

ユメ「な、なに?どういうこと?」

ツウ「(ユメの目を隠し)目を閉じて聞けば、ユメに今

聞こえるのは声だけ。見えずとも確かに存在する物

もある」

ユメ「(振り払い)ちょっと待って!分からないよ!僕

はただ聞いただけじゃないか!あなたの名前だって

僕は知らない!見ず知らずの人に悩みを明かしたっ

て解決できるわけないだろ!なんなのさ、いきなり

意味分からない頓知なんか始めて!」

ツウ「頓知じゃあない、答えさ」

ウラ「わしらはもう、お前さんの悩みの答えを言って

いる」

ユメ「まだ話してもいないのに僕の悩みなんか分かる

もんか!あなた方が知ってるのは僕の名前だけじゃ

ないか!」

ツウ「名に恥じぬ行いをするには、真に背く事無かれ」

ウラ「聞いて流すな。受けて見る物と感じて聞く事を

覚えろ」

ウラ、ツウ、手を合わせてふらふらと踊る

ウラ&ツウ「(声を合わせて)やー、あそーれ。やー、

あそーれ。千も万も遠からず。行けど進まぬ一歩が

遠い。やー、あそーれ。やー、あそーれ」

ユメ「もういい!話も通じない!」

ユメが立ち去ろうとして、滝が唸りをあげて辺

り一面に大きな水飛沫を浴びせる。水飛沫に巻

き込まれ倒れるユメ。水飛沫の轟音が収まり、

ゆっくりと体を起こすユメ。

ユメ「(咳き込みながら)な、なにが起きたんだ?」

ユメ、辺りを見回すもウラとツウの姿はない。

代わりに滝つぼに洞窟が現れている。

ユメ「(洞窟を睨み)…誰が行くか。ばかばかしい」

ユメ、服を絞って立ち去ろうとし、不意に足

を止める。手の雫をしばらくの間見つめた後、

顔をゴシゴシと拭いて洞窟へ入っていく

 

洞窟を抜け、ぽっかりと明いた空洞に出るユメ。

天井が崩落しており、陽光が差し込んでいる。キラキラと輝く結晶を含んだ岩盤に照らされる

ユメ「綺麗なところだなあ…ん?」

突然、ユメの隣の地下水から飛び出てくる

怪ウオ。ユメは尻餅をついて呆然とする

ウオ「(ユメを見て)しっ!いいクァ?静かにしてろ?」

辺りを恐る恐る歩くウオ。怪ナンが鍋とすり棒

を持ち、打ち鳴らしてやってくる

ナン「こぉーらー!ウオ!あんたまた勝手にヌラのお

まんま食ったでしょ!」

ウオ「だ、だからなんだっつーんだよう!」

ナン「この前も言った!他所のもんに手を出すな!」

ウオ「ヌラが食わないからだろう!ヌラに言えばいい

じゃないクァ!」

ナン「勝手に食べるあんたが悪い!」

ウオ「飯を残してるあいつが悪い!」

地響きのような足音が近づき、丸太を持った怪

ゼンがやってくる

ゼン「おう。ナン。ウオは見つかったみてえだな」

ナン「お父ちゃんも言ってよ!ウオは聞きもしない!」

ゼン「いいじゃねえか。…(ユメを見つけ)ん?そこで

尻っぺたついてる子は誰だ?」

ナン「あれ?ほんとだ、気づかなかった。誰よ、ウオ」

ウオ「知らない(ユメを見て)お前誰だ?」

ナン「なんだい。ウオが連れてきたんじゃないのか」

ウオ「違うよ。水から出たら既にいたんだもん」

ゼン、のしのしとユメに近づき

ゼン「お前、どっから来た?」

ユメ「あ、あの。ぼ、僕は…その」

ゼン「(ユメの頭に掌を置き)よう、来たな。名前はな

んてんだ?」

ユメ「ゆ、ユメっていいます」

ゼン「ユメか。ナン、ウオ。とっとと帰って飯の支度

をするぞ。一人前多く頼む」

ナン「えー!そいつ連れてくの?嫌だ!」

ゼン「文句言うな。せっかく会えたんだ。家にもてな

そう」

ユメ「いや、あの、僕は!」

ゼン、ユメを連れて歩き出す。目で追うナン

ナン「御飯作るのいつも大変なんですけどー。手伝っ

てね、ウオ」

ウオの頭に鍋を被せてゼンの後を追うナン

ウオ「えー、もう。またコキ使うんだもんなあ」

ナンの後を追うウオ。

 

黒漆が剥がれかけた壁板の家の中でみかんを積

んで遊ぶ怪ドロ。布団にくるまって寝ている怪

ヌラ。家へ帰宅してきたゼンの声。

ゼン「ヌラ、ドロ。ただいまあ」

ゼンの声を聞いて立ち上がり、迎えに行こうと

してユメを見て驚き、近くの箪笥に変化して隠

れてしまう

ヌラ「(欠伸をし)おかえりなさあい」

ゼン「あれ?ドロはどこへ?」

ヌラ「(見回して)あれ?さっきまでそこで遊んでたけ

ど」

ゼン「まあ、そのうち出てくるだろう。ヌラ、この子

はユメだ」

ヌラ「あぁ。これはどうも。ヌラです、よろしく」

ユメ「え、えっと。ユメです。よ、よろしく」

ゼン「まあ、ドロの挨拶は後回しだ。(裏手に)おうい、

ナン、ウオ!飯の支度はできたかあ?」

ナン、ウオ。裏手より料理を持って登場。

ナン「うるさいなあ!とっくに出来てるよ!」

ウオ「なんでヌラは手伝わないのさ!」

ゼン「細かい事は気にするな!そら、食べよう。ユメ、

遠慮なんかするな。がっつけがっつけ」

ユメ「いや、でも。僕」

ナン「あんたの分も作ったんだから食べなさいよね!」

ウオ「そうだ!食べろよ、ユメ!」

ゼン「じゃあ、いただきます!」

ナン&ウオ&ヌラ「(声を合わせて)いただきまあす」

ユメ「い、いただきます」

箪笥に化けていたドロが恐る恐るゼンの隣に座

り、ユメをじっと見る

ゼン「おう。ドロ。この子はドロだ。ドロ、ユメだ。」

ドロ、何も言わず頷く

ゼン「悪いなユメ。ドロは滅多に喋らなくて」

ユメ「いえ」

ゼン「でもドロは喋ったり語ったりしなくても、いい

もんな。ドロにはドロの意志がある」

ユメ「意志?」

ゼン「そうだとも。ユメにはないのかい?」

ユメ「多分…無いと思います」

ウオ「無い事ないだろうユメ。皆生きてる限り、自分

を決める意志があるよ」

ナン「そうでなきゃ、私たちは例え命を貰ったとして

も、生きていく意志が無きゃ生きてないのと一緒」

ゼン「そう。ウオとナンの言う通りだ」

落ち込むユメをヌラが気づき、

ヌラ「ユメには、意志がないのかい?」

ユメ「分からない。僕は、命を貰って、意志があった

としても。僕自身、一体どういう存在か分からない。

僕は人間だけど…僕は人間なのに人間が分からない」

ゼン、ユメの頭に掌をのせて

ゼン「分からない事あるもんか。お前は自分の意志で

あの洞窟に踏み込んだんだろう?誰に命令されたわ

けでもない。ユメの意志が決めた事だ。今ユメは迷

ってるだけだ。自分の意志で生きていいのかってな」

ユメ、俯いた顔をあげ、笑顔のゼンを見る。

ドロ、南瓜飯の茶碗をユメに差し出す。

ユメ「僕に?」

頷くドロ。

ドロ「食べえ」

ユメ「ありがとう」

ゼン「珍しいな。ドロがまだ会ったばかりの他人に言

葉を話すなんて」

ナン「それに、いつもはウオと取り合いになる南瓜飯

をあげるなんて。なんだかズルイや」

 

夜更けの家屋。床に寝伏せる怪一家。鈴の音を

聞いて起きるユメ。誘われるように鈴の音の元

へ歩き出す。

 

新月の夜中にも関わらず、結晶の岩盤が道を照

らし、ユメは洞窟へ足を踏み入れる。水面を弾

く水滴の音が反響して全体に響く。洞窟にボヤ

っと現れる流ビリ、ポタ、ワオ、デミ、ボウ。

ビリ「よう来なさった。人間の子」

ユメ、驚きもせずに尋ねる

ユメ「誰?」

ポタ「亀や鶴と、同じ質問かい?ユメ」

ボウ「繰り返すだけだぞ、ユメ」

ユメ「(じっと考え)…僕は誰?何者なの」

デミ「それも違うぞ、ユメ。」

ワオ「ユメ。その答えは本当は気づいているんじゃな

いかい?」

ビリ「ユメ。我々はその答えを教えるために現れたの

ではないんだ。君がどういう存在か、人間とは何か。

聞きたくて知りたい事はあるだろう。だが、それは

我々からは教えられない。問われても答えようがな

い」

ポタ「ユメが何者なのか。問題はそこじゃない。ユメ

が持つ意志さ。今までずっと、その意志を疑って

いたんだろう?何を思っても、否定されてしまうと」

ボウ「その意志が間違っているのか、正しいのか。

本当に問いたいのはそれだろう?ユメ、今一度問い

かけてみろ」

ワオ「疑うな。その意志は何者でもない、君のものだ」

ユメ、目を瞑り、胸に手を当てて問いかける

ユメ「僕は…。僕が、思っている事は間違っています

か?助けようとする事は間違っていますか?正そう

とする僕の考えは、間違っていますか?」

ビリ「よくぞ問うた、ユメ」

ユメ「教えてください」

ボウ「ユメ、お前は間違っている。根本的にな」

ワオ「他人を正そうとする意志がじゃない。それを他

人から了解を得ようとすることがだ。それを人間だ

からと口を閉じてはいけない」

デミ「ユメが意志を伝えなければ、生きる事はできな

い。一生、自分の存在に疑念を抱く事になる」

ポタ「ユメ。お前が間違った意志を伝えても、それは

誰かが正してくれる。それが生きる者達が持つ志だ」

ビリ「ユメが何者であろうと。意志を自分で閉じ込め

てはいけない。ユメ、お前の意志が正しいか間違っ

ているか、我々は決められない。己を信じよ。人間

であろうと無かろうと、己の意志を信じ、生きよ。

恥じるな。自分の意志に嘘をつくな」

デミ「お前が間違っていると思う輩がいようとも。お

前が正しいと着いていく者達が必ずいる」

ポタ「さて。そろそろ行こう。ユメに伝えるべき事は

伝え、教えた。後は見守ろう」

ボウ「ユメ。他人の意志は、希望にもなる。忘れるな」

洞窟のぼやけた明かりが消え去り、岩盤の結晶

が辺りを照らす薄暗い空間に一人で立ち尽くす

ユメ。目をゆっくりと開け、膝と手を地につけ

て頭を下げる

 

朝陽が怪一家の家屋を眩く照らし、戸の前に集

まる怪一家とユメ

ユメ「お世話になりました」

ゼン「もういいのかい?」

ユメ「はい。ありがとうございます。おかげで目が覚

めました」

ゼン「そうか。また来な」

ユメ「はい。また来ます」

怪一家と別れを告げるユメ。風に背中を押され

足早に歩き、やがて大腕を振って走り出す。

 

息を切らしたユメが、自宅の戸を開けて帰宅

のかけ声をあげる

ユメ「タクじい!ただいま!」

驚いたタクじいは杖を忘れて、てんやわんやし

ながら立ち上がる。

タク「ゆ、ユメ!お、お前!どこへ行ってたんだ!心

配したんだぞ!」

ユメ「(言葉を遮り)ごめんなさい、タクじい!叱りは

学校から帰ったら受けるから!」

タク「な、なに?お、おい!無理して学校へ行かなく

ても!」

ユメ、葉のリュックを背負い、

ユメ「行かなきゃ!僕はやっと自分が言えるようにな

ったんだ!」

戸を開けて駆け出すユメ。見送ることもなく呆

然と立ち尽くすタク。

 

白木で造られた教室では、大干支クラスの生徒

全員がいる。ピロを囲んで怒鳴るヨズとアド、

キチ。止めようと割って入るギン、ポイ、デン。

ギン「やめい!ピロは嫌がっているだろう!」

デン「そうだ、いい加減にしろ!」

ヨズ「聞いても答えないこいつが悪い!俺は聞いてい

るだけだ!」

アド「突っかかってくるな!」

今にも取っ組み合いが始まりそうな中、ユメが

教室に入るや、ヨズとアドに向かって怒鳴る。

ユメ「おい!こら!ピロの気持ちを少しは考えろ!」

ヨズ「な、なんだよ」

アド「ゆ、ゆ、ユメだよな?」

ユメ「あぁ、僕だよ!ヨズ、ピロが何故耳を塞いでい

るのか、考えもなしに聞こうとするな!それを続け

て怒鳴って問い詰めたってピロの気持ちなんか分か

るもんか!怒鳴って大きく見せれば、誰もがお前の

質問に答えると思ったら大間違いだ!」

アド「おい、ユメ!お前何様だ!干支でもないくせに」

ユメ「人間様だ!自分の意志を明確に持ったお前と同

じ生き物だ!ヨズ!お前は間違ってる!なんでもか

んでも怒鳴ってりゃ良いと思ってるんじゃねえぞ!」

ユメの怒声で怯むヨズとアド。途端に教室に入

ってくる大干支と雨止。

大干支「ほらほら。何騒いでいるんだ。教えを始める

ぞ、自分の干支に着きなさい」

席へ座るクラス生徒。雨止が表を片手に名前を

呼び上げる(干支順)。アドとヨズは気落ちした

返事。最後にユメが呼ばれる

雨止「己(おのず)ユメ」

ユメ、気の入った返事をする

ユメ「はい!」

 

静かな中庭で一人座るピロ。ゆっくりと後ろか

らユメが近寄る。ピロ、耳を塞いで俯く。ユメ、

後ろに隠し持っていたお洒落な耳当てをピロに

見せる。ピロ、顔をあげユメと耳当てを交互に

見る。ユメ、ピロの手をそっと耳から離してピ

ロの耳に耳当てをつける。

ユメ「これでもう耳を塞がなくても皆の声を聞ける

でしょ?ピロ」

ピロ「(笑顔で)ありがとう、ユメ。」

ピロとユメの周りに集まるクラス生徒、先生。

昼空の下、木陰で鶴と亀がにっこり笑っている

 

 

 

終。

シェアして貰えると創作の活力に!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA