OVER ENDING【スピンオフ】眠らぬ女神が求めた答え 中

 デジャブかこれは。
 違う、完全に前と同じ状況だ。ベットに俺が寝ていて、変色した天井が視界に映って、薬の独特の匂いが嗅覚を刺激するこの状況、確か前にも経験したことがある。
 が、一つだけ違うとすれば、隣に座る女性の表情だった。

「――私のいいたい事分かるか?」
「あぁ、もう何も言わなくていい」

 この前は普通に心配そうな表情でこちらを見下ろしていたエリスが、今では立派なジト目で「バカじゃねぇの?」と言いたそうにこちらを見ている。仲間に加えますか?
 じゃなくて、何で俺またここにいるんだよ……あぁ良い香り。

「はぁ、なんであんな無茶したんだ? 一歩間違っていたら死んでたかも知れないんだぞ?」
「い、いや、でも普通に生きてるから。な?」
「でも脳の数か所がダメージを受けて、帰ってきたら結構大騒ぎになってたぞ」
「――え、脳が? じゃぁ、え? 俺死んだの?」
「死んでないよ、馬鹿。確かに大騒ぎだったけど、ちゃんと処理してるから大丈夫だ。ほら、少し前に開発された自立型ナノマシーンがあるだろ? あれに治療プログラムを書き込んでお前の体に入れたんだ。入れてから結構日は経つが、治療にも時間がかかるらしい。だから現場復帰は難しいそうだ」
「ナノマシーンって、大丈夫なのかそれ? 間違えて脳を壊しちゃったりしないか?」
「最近の技術は凄いんだ。そう簡単には人は死ななくなったよ。まぁ……、それでも死ぬ人は大勢いるけどね」

 俺から視線を逸らすエリスを見て、俺もエリスから目をそらして地面を睨みつける。
 今回の戦いで幾つもの命が奪われたのだろうか、と考えてしまう。リマインだからって、現実の体を使わないからって死なないわけじゃない。偽物だろうと本物だろうと、いつも戦場には死が待ち構えているんだ。一歩進めば死ぬかもしれないし、一歩下がっても死ぬかもしれない。そんな逃げ場のない処刑台から生還できる方が、ある意味凄いのかもしれない。そして、俺は運よく戦場から逃げ出せたんだ。他の隊員を戦場に残して、俺はその場から退場したんだ。
 もしかしたら、その所為で誰かが死んだかもしれない。俺が受け持つ小隊の中から一人死んだのかもしれない。直接的な関与がないとしても、砂漠の蝶バタフライ・エフェクトの様に他の兵士を死に至らしめたのかもしれない。
 でも、そんな死んでいく兵士に対して、俺は何が出来るのだろうか。

「なぁトオル。お前はさ、自分の人生に意味があると思うか?」
「――また唐突な質問だな。どうだろうな、自分の人生か」
「あっ……ごめん、変な質問をしたな」
「いいんだ、気にしないでくれ」

 答えは知っている。俺の人生に価値なんてない。意味もなければ、理由もない。何もないんだ、俺の人生には。
 でも、俺はそれを口には出来ない。というか、今では少し迷うところがある。自分では知っているんだ、俺の人生の無価値さに。はっきりと認識していて、はっきりと認知している。それを知っていてなお、それを知っているからこそ、俺は分からない。
 なぜ俺みたいなクズを助けたんだろうか。何も成せない、何も出来ないこんな戦場のゴミを助ける理由があったのだろうか。だからこそ、俺の答えは――

「分からない、俺の人生の意味なんて。俺にはちょっと難しい内容だ」
「そうか。まぁ、分からないのが普通なんだと思う」

 ため息を吐きながらエリスは勢い任せに背中からベットに倒れ込む。そこに俺の両足がある事なんて気にせず倒れ込むせいで、泣き所に鈍痛が響く。
 ――痛ぁっ! あぁもう、少しは気を付けろっ……て
 その倒れ込む無防備な体制に、俺の理性はラグなしで瞬時に反応する。
 あぁくそ、これだから男の体は! 沈まれ、我がイドよ。起動せよ、我が超エゴよ。まだ暴れる時じゃないぞ。

「――私も、分からないんだ」

 ゆっくりと吐く白い息に、俺は囚われる。同じ波長のようなものを感じ取れるそのエリスの言葉に俺は釘付けにされた。その次に吐く言葉が気になって、その先に続く心が知りたくて。

「少し、私の話をしよう。あまり楽しい話じゃないから、期待はしないでくれ」
「あ、ああ、聴かせてくれよ。エリスの話を」

 いつの間にか理性は抑えられていて、ただ一つ俺の意識を奪うのはエリスの表情と音程と仕草で語る彼女の物語のみ。
 これから、俺は俺じゃない他人の人生を覗き込むことになる。

 私は一般家庭に生まれた一人の娘だった。弁護士の父親と学校の教師だった母親の元に生まれた、ごく普通の一人娘。幼稚園に通い、小学生で基礎知識を植え付け、中学生で人間関係を知り、高校生で将来に向かって走り、大学で夢を掴むところまで行った。
 それなりに裕福だったため何不自由なく暮らすことが出来たんだ。家族の誰もが笑顔で、全員が楽しく十数年を一緒に生きていけたんだ。

 でもあの日に、全てが崩れた。

 現実世界と電子世界で同時に開始した戦争。それの兵士として駆り出されるために、国は成人済みの老若男女を強制的に戦争に参加させた。十八以上、六十五以下の市民は適合試験を元に現実世界か電子世界の戦場に送られ、強制的に武器を持たされた。誰かがやらなきゃいけないことだとは理解はできても、納得はしていなかったんだろう。
 そこで私は両親に提案した。二人ともまだ五十代だったので戦場送りにされる可能性があったから、何らかの理由をつけて戦場から離脱しようと。もともとお父さんは肺が悪かったから簡単だったけど、問題はお母さんだった。
 健康で、何不自由ない体を持っていたんだ。戦争に参加しない理由が見当たらなかった。成す術無くして、私とお母さんは適合試験を受けた。健康診断からMRIスキャン、神経伝達物質の状況、生理の時期や症状、その他諸々の事まで調べ上げられた。

 そこで分かった事実が一つある。

 私の脳は電子世界で戦うのに最適な脳を持っていると。頭の良さには昔から自信があったけれど、まさかここまでの物とは思いもしなかった。科学者たちは私を絶賛して、直ぐにでも部隊に編制して戦場に出したいと言い出した。
 だから言ってやったのさ。

「私を戦場に出したかったら、お母さんの戦場行きを免除して」と。じゃなかったら私は何が何でも戦場には出ないと。

 彼らもそれなりに頭がいいのか、私のお母さんを戦場に送るより私を送った方が断然良いと判断し、私だけを軍に送り付けた。お母さんは当然その場で反対して私を家に取り戻そうとしたけれど、その要求は無視された。私は私を助けようと必死に手を伸ばす母親に背を向け、命が飛び散るデータの戦場へと乗り出した。

 そこで私はもう一度自分の能力を理解した。自画自賛する気はないが、私の能力は他の魔術師より優れていて、私はその能力のお陰で早々に大尉になった。たったの数年で、私はそこまでの地位を手に入れたんだ。
 でも、ここで一つの疑問が生まれる。

 私の人生とは、何なのかと。

 私には夢があった。私には大学を出たらやりたいことがあった。自分の人生で、自分という存在を残したいと思っていた。
でも今はどうだ。夢などなく、只々命令された事を実行するだけ。自分の意志が介在する余地はなく、決められたレールを武器を持って走る事しか出来ない。
 問題はそれだけではない。まるで私の存在自体がこの戦争で勝利を得るためだけに作られたかのように、私はここで本領を発揮していた。脳の処理速度を活用して武器を自由自在に変換し操り、思い通りの魔術を放った。
 これだと、最初から私の人生は決まっていたかのようだった。神の気まぐれで選ばれ、普通の人生すら奪われて、やがて望まぬ生き方にて自分の存在理由を知る。

 なんと滑稽な姿なんだ、と思ってしまう。自らが選んだ世界よりも、決められた世界で生きる方が自分を知る事が出来るとは、何と滑稽な人生だろうか。
 何もかもが分からなくなる。私というのは、私の人生というのは何なのだろうかと。本当の私の存在理由の答えが徐々に遠ざかっていく。
 だから、私は――

「答えを求めない」
「――求めない?」
「あぁ、正確には答えを求めるのをやめたんだ」

 目を閉じて己の過去を語るエリスの答えに、俺は驚きを見せる。エリスの導き出した回答に、俺は疑問を抱くしかなかった。今まで俺の中にはなかった選択肢を選んだエリスに俺は問い詰めたかった。どうしてそのような選択肢を回答欄に埋め尽くしたのかを。

「どうして、やめたんだよ」
「理由は簡単だよ、トオル。少し考えれば分かる事だ」

 お前の少しと俺の少しとじゃ桁が違うんだよ。お前が理解出来ても、俺が理解出来ない事なんてこの世の中に有り余るほどあるんだ。
 どんなに考えても見当たらない。蜘蛛の巣に絡まれたかのように、必死に足掻いても糸が俺の行く先を邪魔する。手探りで探しても、見えないものは探せないんだ。
 だから、教えてくれ。どの様にしてその答えに辿り着けたのかを。

「答えは目の前にあった。もう少し考えれば知る事が出来たんだ。でも、私は知ることをやめた。知ること自体に、私の人生の意味を知る事ができるのを恐れたんだ。真実を確認することに私は恐怖すら感じたんだ。
もし、私が望んでいた人生の意味と、本来あるべき姿の意味が違ったらどうだ? 自分の知らない自分が本物だったらどうだ? 私はそれが嫌なんだよ、トオル。私は、自分の本当の姿を、今の自分とは異なった姿を知ることが怖いんだ」

 怖い、彼女はそう答える。本物の自分を知ることが、本当の自分の存在意義を知ることが、今の自分とあるべき姿の自分との相違を知ることが。
 でも、やはり俺には分からない答えだった。理解できない回答だった。
 エリスの答えに混乱し少しうずくまる俺の姿を見て、エリスが口を開く。

「悪い、この話は忘れてくれ。気を悪くさせたな」
「いや、いいんだ。気にしないで――」

「「「エリスさん! アダチ軍曹が起きたって本当ですか!?」」」

 俺の言葉を阻み、エリスの部屋のドアを大きな音を立てて入ってきたのは一人の女性だった。短い黒髪を揺らし、ドアに片手を付けて呼吸を整えるその女性の声になぜか聞き覚えを感じた。
「安心してくれ、セシル。この通りばっちりだよ」と、エリスが俺を指して俺の現状を説明してくれるもの、先ほど起きたばかりだからばっちりって訳じゃないんだけどな。

「えぇ、知り合いなのかエリス?」
「知らないのか、アダチ? お前の部隊のオペレータでしょ?」
「あわわ、大丈夫ですよエリスさん。オペレーターと部隊の人はあまり絡みがないので。初めてではないですが、初めまして。第一魔術大隊のオペレーターの一人であり、第五魔術中隊のオペレーターのセシル・ガレットです。よろしくお願いします」
「え、あ、どうも」

 律儀にお辞儀までしてくれたセシルの自己紹介を聞いて、やっと思い出す。最近だと前線との距離を測ってくれたり、ログアウト申請をしてくれたり、俺たちの戦闘の主なサポートをしてくれていた声だなと気づく。

「大丈夫ですか、アダチ軍曹」
「あぁ、大丈夫だ。心配してくれてありがとう、セシルさん」
「セシルでいいですよ、アダチ軍曹」

 そういって綺麗な笑みを浮かべるセシルに少し見惚れてしまった。こう顔を左30度に傾けて目をつむりニコリと笑うその顔に。
 ――あぁ、生きててよかった。ありがと、エリス。

「俺はもう自分の部屋に戻るよ。別に起きられないわけじゃないし」
「そうか? それなら無理はするなよ。まだ安静にしてなきゃだめだからな」
「分かってるよエリス。あ、あと……セシルさ……セシルもありがとう」
「いえいえ、大丈夫ですよ。アダチ軍曹が無事でなによりです」

 ベットから立ち上がって、エリスとセシルのいる部屋から出ていく。それと同時に襲い掛かってくる鉄の錆びついた匂いと汗で充満した空気が俺を夢から現実へと引き戻してくれる。あんな女性率の高い空間にこれ以上いたら正直辛いからな。
 夢の国から出て、俺は自分の部屋へと向かっていく。
 歩いていると確かに頭部への支障があることがはっきりと分かる。少し足元が不安だったり、鋭い頭痛にやられたりして、部屋につくまでそれなりに苦労した。
 やっとの思いで部屋のドアを開いて中に入ると、そこには先客がいた。

「あぁ、アダチ君。外にいたのか。こっちにいると思ってお見舞いに来たんだよ」
「ウォ、ウォーカー中佐! いらしたのですか!」
「まぁまぁ、あまり畏まらなくてもいいよ。ほら、病人は早くベットに寝なさい」
「はっ。了解です」

 敬礼して、部屋に入りベットに入り込む。そんな俺の姿をマジマジと笑いながら見ているウォーカー中佐が俺の部屋にいるこの状況、もの凄い違和感を感じる。緊張するというか、怖いというか。

「あ、これ。妻から送られてきた美味しい和菓子だ。日本人は3時には必ず和菓子を食べるという習慣があると聴いたが、まぁ脳を怪我したときはブドウ糖が一番だよ。多分だけどね」
「い、いただきます! 和菓子、好きなんですよ」
「それなら良かった。遠慮なく食べてくれ」

 綺麗な箱から幾つもある和菓子の一つを選んで、皿に乗せる。こちらをずっと見てくるウォーカー中佐の視線に気を取られながらも俺は和菓子にフォークを立てて口に移す。
 甘い香りが口の中で漂い、舌を和らげる穏やかな糖分が心を落ち着かせる。軍では最近口にすることの出来ない甘味に心躍りながら、俺は緊張の糸を解いていた。

「ウォーカー中佐は、なぜ私を軍曹として選んでくれたのでしょうか」

 無意識の領域での出来事、俺は知らぬ間に抱いていた疑問を口にする。咄嗟に口を塞いで零れた言葉を拾おうとするが、一度漏れた音は器に戻ることなく周囲を漂い目的の場所へと流れ込んでゆく。
 だったら後悔はしない。元から聞く予定だったんだ。だったらこの際に答えを聞いてみようじゃないか。もしかしたら、俺の存在の理由を知ることが出来るかもしれないのだから。

「君を、軍曹に選んだ理由かい?」
「そうです、ウォーカー中佐。当時には私よりも優秀な伍長はいました。というより、私が一番ダメな伍長だったと思ったのですが……」
「確かに、君は能力的には最下位だったよ。魔術出力も不安定だし、肉体的強度も無いし、状況判断もそこまで優れていない」

 まさかこんなにボロクソに言われるとは思わなかった。確かに、自分でもダメだとは思うけど、他人に言われるとなんか悲しくなるな。

「でも、君を軍曹に選んだのには他の理由が伴うんだ」
「その他の理由とは一体……?」
「――君の、自己探求から生まれる将来性だ」
「自己探求?」
「あぁ、まさにそれだよ。他の伍長には無くとも、君にはあったものが。そして、私はそれに将来性を感じたんだ」
「どうしてそれが、将来性に?」
「自分に何か出来るのだろうか、という疑問は色んなものを生むんだよ。こうすれば自分は輝けるのかな、もしかしたらこれかも、それでもなければあれかも、とこのように徐々に既に前に進むように行動しているんだ。自分を否定しながらも望む答えを求めることで、どんな状況にでも前に進む、何かをその先に見据える。それこそが、未来へとつながるんだ」

 考えたこともない捉え方に、俺は眼を大きく開いてその驚愕の回答に翻弄される。まさかこのような考え方があるとは思いもしなかった。俺の自分に対しての否定的価値に存在理由があり、その先に見える可能性があるだなんて……。

「驚いたかい、アダチ軍曹」
「は、はい。正直驚きました」
「うん。それでこそアダチ軍曹だ。よし、私はこれにて退場させてもらうよ。ゆっくり休んでくれたまえ、アダチ軍曹」
「はッ! ありがとうございます!」

 軽く頷いて笑みを浮かべたウォーカー中佐はゆっくりと錆び付いたドアを開けて外へと出ていく。俺はそんな、決して大きくないはずなのに大きく見えてしまう背中を見えなくなるまで視線で追っていた。
 中佐が語った価値観と俺の心中に収めてある価値観との相違を胸に収めながら、今日はもう目をつぶろうと思う。

 ナノマシーンが脳を徘徊するようになって数日が経った。当然脳の回復は完了していなく、俺はまだ戦場に身を投じれないまま部屋にこもって休みを堪能していた。
 休んでいる間に戦況はそこまで多く変わっておらず、未だにアンチデータとの膠着状態にいた。運がいいのか悪いのか、俺の小隊と中隊は任務がなかったらしく、ここの数日は俺の部屋に集まったりして暇を持て余していた。たまにエリスが話をしに来たり、セシルさんがお見舞いに来ては今の戦況を教えてくれたりしてくれた。
 確かに俺の脳は損傷した状態にはいるが、もう最近だと肉体的には何の不便もない。だからこそ暇なんだ。軍隊には娯楽という物は存在しなく、暇を持て余しているのであれば戦場に出されるという事なので自らがその怠惰な日々を埋めなければならない。
 そんな俺の最近の暇つぶしは、軍事基地本部の探検だった。未だ知らない、行ったことのない場所に行くという、子供心をそそらせるそんな遊び。探求心が俺を躍らせているぜ。

「あ、アダチ軍曹。こんなところ歩いてても良いんですか? お体の方は……」
「セシルさ……セシルか。大丈夫だよ、体は。ほら、見ての通り心配ご無用」
「まだ私の呼び捨て慣れないんですね。まぁいいですよ、ゆっくり慣らしていって下さい」
「いやね、俺女性に免疫無いからさ。何となく無意識のうちにこう“さん”を付けちゃうんだ」
「ふふ、大丈夫ですよ。それで、今日はどの様な用件でこちらに?」
「特に理由は無いんだけど、また何か情報ないかな~ってね」
「それでしたら面白い話が一つ。この二日前の作戦でエリスさんが装備しているバスターソードってあるじゃないですか。あれを振り回している途中で間違えて手放してしまったんですけどね、これが運悪くジャック一等兵に刺さってしまって……」
「それ、大丈夫だったのか?」
「一応大丈夫でした。まぁ……問題はジャック一等兵が刺されて、喜んでたことですかね……?」

 ジト目で左斜め下を向きながら呆れた表情を浮かべるセシルだが、その表情が浮かぶのも頷ける。
 ジャック一等兵にそういう性癖があることを知ったエリスはどんな表情を浮かべただろうな。申し訳なさを表しながら手を差し伸べるも、あまり触りたくないように、差し伸べては引いてを繰り返してるだろうな。戦場でジャック一等兵の喜ぶ声を聴きながら苦笑いを浮かべるエリスの顔が良く見える。
 やめよう。あまり考えない方がいいかもしれない。うん、話を戻そう。まるで、ジャックの話には触れなかったかの如く。

「あ、相変わらず乱暴な戦い方だな、エリスは……」
「それがエリスさんのいいところじゃないですか。乱暴で大雑把な所がまた」
「俺には理解できないかな。まぁいいや、俺はこれから本部の探検に出かけるけど……、ぁの、えと、い、一緒に来ます?」
「もう……、私は今仕事中ですよ。あとで時間あるときにまた誘ってください」

 この生涯に一度くらいしか出来ないと思っていたナンパがあっさりと拒否られて少し精神不安定になるも、俺はその場から離れて本部の探検へと足を運ばせる。
 もうこの本部に配属されて二年になるけれど、やはり戦場と部屋とリマインルームと食堂だけを行き来しているから、改めて徘徊していると今まで目に映らなかった施設が幾つも見当たる。
 でも、やはりこの本部に漂う雰囲気はどこに行っても同じなんだな。相変わらず渋いというか、明るさが足りないというか。こんな軍に居なければ感じることの出来ない雰囲気を肌で感じながら、その見えざる独特性に包まれている廊下を只々歩く。
 ――あれ、ここってどこだ?
 さっきトイレを通り越したから、医務室の近くかな。確かに部屋から出た時から覚悟はしていたけど、本当に迷いそうだな。目印とかは当然無いし、マップなんて今もっていない。だから迷子になってもおかしくは無いんだよな。
 ため息を吐きながら、半分諦め気分で歩いていた道をそのまま進む。多分歩いてたら部屋に戻れるでしょう。それか人が居たらその人にでも聞いてみるか。

「ねぇ、聞いた? あのエリスって人いるでしょ」
「うん、聞いた聞いた。でもあれって本当なの?」
「私もよく分からないんだけどね。グランツ中将の命令らしいから」
「でも、まさかここまでやるとはね」

 エリスの名前が聞こえたので、その声のなる方へと耳を傾ける。ついでに道も聴いてみるか。本当に迷子になるかも知れないからな。

 だけれども、俺は次の一歩を踏み出すことが出来なかった。真相を知ってしまった俺は手足を震わせ現実を拒絶するも、零れた言葉に偽りはなく、俺はただその場に立ち止まってしまった。
 誰かも分からない人が口走った次のセリフを聴いて。

「まさか、エリス大尉をデータ世界に閉じ込めるだなんてね、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、

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タイトル時系列作者
魔女の子供Re:bit瀬尾標生
なぜコウヤはモテないのかRe:bit瀬尾標生
眠らぬ女神が求めた答え プロローグ第3次世界大戦瀬尾標生
眠らぬ女神が求めた答え 上第3次世界大戦瀬尾標生
眠らぬ女神が求めた答え 中第3次世界大戦瀬尾標生
眠らぬ女神が求めた答え 下第3次世界大戦瀬尾標生
眠らぬ女神が求めた答え エピローグ第3次世界大戦瀬尾標生

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