【ホラー/怖い話】めいにち

イラスト作者様
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佐島海渡は帰路についていた。

仕事おわりに一杯ひっかけてきたためほろ酔いで心地よい気分だった。

足取りもおぼろに帰路につくと『いつもの』道に出る。

 

いつもの通り、その帰り道を通るのはちょっとした肝試しを毎日しているという感じだ。理由は単純で先が見通せないほどに暗いから。彼の家へともっとも近い直通のその道には一本たりとも街灯がないのである。当然、夜中の2時にもなれば星と月と一軒家からもれる生活の灯り以外は何一つ照らすもののない薄ぼんやりとした気味の悪い暗闇になる。

しかし佐島はお化けなど信じてなかったし、自分でもかなり度胸があるほうだと思っていたのでむしろこの恐怖を日々の刺激として楽しんでいる節さえあった。

しかしその日は違った。

 

(うわ)

思わず後ずさりそうになる。

目の前の闇のなかには一人の影がうずくまっていた。

それだけならまだいいのだが、その小さな影がぴちゃぴちゃと音を立てているのだ。その響きはクリームをかき混ぜているような、粘液をすすっているような、耳の毛をそばだだせる音色だった。

闇夜の中にいてもなお分かるあからさまな不審者だ。

迂回していこうとも考えたのだが、アルコールの作用で膀胱が破裂しそうなほどに膨れあがっていて一刻もはやく家に帰りたい。余裕はなかった。

そっと足音をしのばせて足早に通る。気付かれないように

人影に近づくにつれてその粘着質な音の中に途切れ途切れではあるが言葉が混じっているのが聞こえてきた。

「いやぁ。平和だよ。平和だからこそね。こういう選択の自由さがね。資本主義のカラクリで共産主義の恩寵を三度も僕は警告したんですよ」

なにをこいつは言ってるんだ。

そのとき佐島は元来の肝の太さもあって恐怖よりも好奇心の方が勝ってしまった。ちらりと流し目に影のほうをみてしまう。影は民家の灯りに照らされて不思議なほどにはっきりと見えた。

 

目を疑った。と同時に全力で目をそらす。

やばい。こいつはヤバすぎる。と心臓が早鐘を打ち始める。

影はうずくまっていたわけではなかった。

猫の死体に馬乗りになってその骸を拳で殴りつづけていたのである。

ぴちゃぴちゃという音はすすっている音ではなく、内臓がかき混ぜられて空気と練り合うそれだったのだ。

「綺麗だねぇ。ところでコーヒーに間違えてこしょうを入れる派?マドラーはボールペン派?入試で鉛筆わすれたら、割り箸で食べる派?」

ブラウン管の向こうでならドキュメンタリー、ドラマ等でこの類の人間をいくらでもみたことがある。しかしいざスクリーンが取り外されてしまい身を守る者がない状態におかれたらその怖さは虚構の比ではなかった。

「君もそう思うだろう!?」

いきなりの問いかけに全身を震わせた。この夜道には今たった一人しか存在していない。

「絶対」

目を合わせないように全身に力を込めた。合わせたら最後確実に殺される。

ザッザッザッと音が響く。

「聞いてる?」

流石にもう無視をきめこむことはできそうになかった。意を決して男に向かい合う。

「なんです、っか!!?」

拳が空をきって飛来した。とっさのことに反応しきれない。頬をしたたかに打たれその場にひれ伏す。

「何を!!?」

びりびりと痛む頬が紛れもない現実であるというのを伝えてくれる。怒りが恐怖を上回った。立ち上がると殴り返そうと力をためる。はじめて男の顔がはっきりと見えた。

無だった。感情がない。

どろりと白濁した両の目があらぬ方向を向いて薄ぼんやりと意識が飛んでいる。

得体のしれないものと対峙した恐怖が重くのしかかり身動きができない。

一瞬の敵意を彼は見逃してくれなかった。

「なに!?なに!?やろうってえの!?」

そういうとポケットのなかからカッターナイフを取り出した。

ヒッと声がまびろでた。

手から先が赤色灯を反射してやたらに赤黒く見える。

「嫌だぁ!戦争ダメ!ラブアンドピース!!」

そういうなり彼は自分自身の手に深々とナイフを突き立てた。

鮮血が吹き出る。

溢れ出してぽたりぽたりと地面に点を残した。

「痛い!?え!?痛いよ!?どうしちゃったの!?」

もう我慢の限界だった。

もてる力のすべてを使いその場から逃げ出した。

スピードがでない!!

全力疾走など学生以来だったし、なにより革靴とスーツが足かせになる。

「待てよ!」

声はすぐ近くで聞こえた。

後ろを振り向くとぴったりとついてきている。

手に握られたものが。黒く光る。

走るのをやめて、構える。

ちょうどそのとき男の足をひっかけることに成功した。

無様に一回転し、したたかに顔から着地する。

カッターが手を離れ地面を滑っていった。

「いたぁぁい。いひゃひゃはひゃ」

もう後ろを振り向く必要もなかった。カッターだけを拾い上げ、がむしゃらに走る。

声はすこしづつ遠のいていった。

 

▽▽▽

走り続けること数分。ようやく佐島は自宅へとたどり着いていた。

絶え間なく吹き出す汗を拭う。

とにもかくにも命の危機から脱することができて心底ほっとした。

顔なじみでもないし、あそこの道からここまでは相当離れているから尾行の心配もない。

もう二度とあうこともないだろう。

額を拭おうとしてふと手に握りしめているカッターが目に入る。

「クソが」

血垢のこびりついたそれを道端に放り投げようとしてやめた。

警察に届け出るときになにか重要な証拠になるかもしれない。

じっとみつめていると、手元の部分に小さな文字がかいてあった。

目を凝らす。

 

さじま かいと めいにち 3がつ23にち 27さい

 

それ以来、彼は夜中には出来る限りタクシーか車を使って帰るようにしている。

あとがき
解説

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