【ホラー/怖い話】同窓会

高校2年生の頃のクラスは比較的仲の良い部類だったと思う。

これはすごく珍しいことだった。

というのも僕の高校は商業高校ということもありかなり治安が悪く、ともすれば授業に1人も参列していないなんてこともザラにあったからである。僕自身もそんなに頭の良い人間ではなかったから学校で授業をうけるなど拷問みたいなものだった。そんな退屈の日々に彩りを加えてくれたB組のみんなには感謝してもしきれないほどだった。

【同窓会のお知らせ】

社会人二年目、21歳のときそんな内容の手紙がポストに投函されていた。どうするかなと頭をかく。定職にも大学にも行ってない同輩が多いなか僕はたまたま簿記の資格をもっていたので中小会社の経理の仕事につくことができていた。しかしこの仕事がなかなかの曲者ですべての作業を1人でこなさなければならないという脅威のワンオペ職だったのである。持ち前の体力と精神力でなんとかさばくことができていたがミスすれば自分が責任をとらなければいけないというプレッシャーは無自覚のうちに精神を蝕んでいた。当然同窓会などに行く余裕もなく、去年は見るなりゴミ箱にぶち込んだ記憶がある。いまは大体の仕事を覚えてしまったので流れでこなすことができるようになり、精神への負担はガクリと減ったが、それでも休日なのだから寝ていたい気持ちも大きい。

……どうするか

裏側を見てみると、一次会料亭、二次会未定となっている。差出人は彼方 江利。

ーそんなやつ居たっけか

そのときふと学生時代の光景が脳裏に浮かんだ。安定した日々で当時は物足りないと感じていたが社会人となったいまとなってはその退屈こそが幸せの正体のだったと気が付かされる。仲の良かった友達、4ヶ月という短い期間であったが付き合っていた彼女。いったいどんな大人に成長したのだろうか。

ご欠席の「ご」を消そうとしていた手が止まる。気がつくとほぼ反射的に出席の方に○をつけて囲んでいた。

 

△△△

 

同窓会といっても所詮は学校の絡まない非公式なものだから金のかかることはできない。学生の使うような安い居酒屋こじんまりした場所でやるのだろうと決めつけていたが、いざ現場に来てみると雰囲気の良い料亭だったので腰が引けた。

「本当に3500円で食えるようなとこなのか……?」

一瞬場所を間違えたのかとも考えたが、ハガキに書かれた住所は紛れもなくここを指し示していた。恐る恐る敷石を踏み越える。するとすぐにガヤガヤと騒がしい集団が目の前に現れた。

(邪魔だなぁ)

肩と肩とがぶつかるのを避けて、慎重に歩みを進めるがふとした拍子につま先を踏んでしまった。反射的に「すいません」の言葉とともに頭を下げる。が相手方は狭量の少ないタチらしく怒りに満ち満ちた両の目を向けてきた。きゅっと胃が縮む。

「お前……」

言葉は必要無かった、その眼尻と顔の輪郭にひどく見覚えがあった。

彼の相好が一気に驚きと優しさと嬉しさの入り混じった顔に変わる。もし目の前に鏡があったとするならきっと僕も同じ表情をしていたに違いない、なにせ目の前にいる男は年を食っていたが間違いなく学生時代の大親友、ミチユキその人だったから。

「久しぶり!元気にしてたかよ」

「おー!久しぶり。そういうお前はどうなんだよ」

「学生時代とほとんど変わってねぇよ。お前はだいぶ変わったな」

普段学生気分が抜けてないと散々言われているから心持ちうれしくなる。

「そうか?」

「あぁ……なんつーか。おっさんになった」

「おっさんってなんだよ!まだ20代だぜ!?」

「いや、もうなんかスーツが身体に馴染んでるっつーか。とにかく所帯じみてる」

「いい意味だよな」

「加齢臭がするって意味」

「この野郎」

伸ばした手を学生時代と変わらない俊敏な動きでかわされた。このやり取りも学生時代どれだけ繰り返したことだろう、懐かしさで胸が一杯になった。

「お、ミツイじゃねーか。主役が来たぜ!」

にわかに場が活気づく。かつてのクラスメートと笑顔を交わす。それぞれ流れた年の分だけ変わってはいるが顔の輪郭や体つき、ちょっとした仕草や声のイントネーションにかつての面持ちを残していた。

ーいいもんだな

家庭環境のあまり良くなかった僕は学校こそが我が家であり僕の世界のすべてだった。帰る場所があるということがこんなにも安心できることだなんて知りもしなかった。と、随分所帯じみたことを考えるようになったもんだと頭を掻く。

「さ、いこうぜ。幹事様がお待ちだ」

促されるままみんなの後をついていく。料亭は外から見ただけでも立派なところだったが内装もかなり凝っていた。店内は一面木張りであり、スギ材のほのかな乾いた香りが床に踏み出した瞬間鼻をくすぐった。

 

「うわーっすっげぇ」

「こんなとこ本当にあんだな」

さすがのクラスメートもかしこまってしまい、きょろきょろと辺りを見渡すばかりだ。和服を着込なした中居につれられるまま歩をすすめる。

「こちらになります」

通された大広間にはすでに人影があった。ただでさえ暗い内装なのに奥まった場所に座っているものだから人相がわからなかった。

「おーっす」

気軽に挨拶をするが相手は会釈すら返さない。その時ふと彼女が顔をあげた。

「あぁ……よう」

口をついて出たのは曖昧なごまかしの言葉だった。その場の時間がまるで止まってしまったかのように完全な静寂が支配する。僕が一番言いたいことはその無言が雄弁に物語っていた。同窓会に来てほしくない、場をぶち壊しにするやつがその場にいれば誰だって同じ反応をするだろう。その女、田中理恵は元いじめられっ子の生徒だった。

 

△△△

人間という生き物が他人との共同生活に致命的に向いていないというのは聖書、アダムとイブの事例でとうに証明されている。そもそも人間とは群れなければ生きることのできない生物であるにも関わらず社会生活を送るのに適していないというところに原罪と呼ばれる悲劇たる所以があるのだ。特に僕の学校では個の強い生徒が多くとてもではないが社会的なまとまりを作るなど不可能に近かった。そのような状況で不思議と僕らのクラスの息があったのにはきちんとした理由がある。

人間が腹、本心を割って話すことができる条件はそう多くはないが、確実な方法なら一つ知っている。同じ方向を向くことだ。その目標というのはなんでもかまわない。部活で一丸となるというのでもいいし、共通の趣味にそれを見出すのでも構わない。とにかく全員で共有できる話題というのがあればそれでいい

僕らが、高校生当時の僕らが見出した共通の話題というのはいじめだった。

それは今から考えればとても、とても残酷なことだったと思うが、一度できてしまった流れというものは僕個人では到底覆すこと出来ないほどのものだった。

同窓会の決まりきった前口上が終わった段階で仲居がビールの瓶をもってきた。

「ビールがいいやつ?」

続々と手が挙がる。

「あれお前飲まねぇの?」

「あぁ、私はちょっと」

えぇーっと歓声があがる、その女性はかつてかなりの酒豪で名を馳せた筒井恵美その人に間違いは無かったからである。クラス全員との飲み一騎打ちに勝利したツワモノがアルコールを一滴も飲まないなど考えられない。

「なんだよ、飲めよ」

「じつは……」

そういうなりお腹をさすった。その動作で全員が事態を飲み込み、ヤジの声は威勢の良いお祝いの言葉へと姿を変えた。どっとその場が湧き宮本は小さく恥ずかしそうな、嬉しそうな笑顔をうかべ顔を伏せてしまった。

「何ヶ月だよ!?」

「三ヶ月」

「結婚は?」

「もうした。身内だけでやったんだ」

なんだよ呼べよぉ!の悲鳴にその場にいた全員が笑う。叫んだ男は高校3年間無駄な片思いをし続けたことを皆が理解していたからだった。

(ところで)

じっと客席の端を見る。田中はじっとその場で金縛りにあってしまったかのように一点を見つめたまま動かない。そんな様子を知ってか知らずか場の全員が彼女のことをいないものとして扱っていた。テーブルには飲み物も食べものも何一つ置かれていないがそれを気にかける人もいない。ただただそこだけ異次元がぽっかりと口を開けたかのように異質な空間として確かに存在していた。

「しかし、なんで来たんだろうな」

「え?なにが?」

どうやら独り言が出てしまっていたらしい、慌ててなんでもないよと曖昧な言い方をしてはぐらかした。

 

彼女。田中 理恵は別段普通の女の子だったと思う。ただ優しいからやり返さない、そのことがクラスのリーダー格にバレてしまったことが彼女の人生において最大の汚点となってしまった。初めは小さなことから。悪口程度にすんでいた嫌がらせが次第に坂を転がる石のように勢いをましていくのにそう時間はかからなかった。

僕もなにもしなかったという点ではやはり加害者なのだろうか。とにかく僕はごくごく普通の傍観者としてことの成り行きを見つづけていた。心苦しくは無かった。といえば嘘になる。それでも皆の前に立って不正ただすことができるようになるほどに強い人間ではなかった。

……結局、支えてくれる仲間もいなかった彼女はそのままズルズルと不登校へと陥っていき卒業まで一度たりとも学校に姿をあらわすさなかった。

ぬるくなりつつある小麦色の液体を喉の奥へと落とし込みながら横目でタナカのことを伺う。場はすでに盛り上がりの山を超えてしまい、酔いつぶれたものとそれを介抱するもの、思い思いに昔話に花を咲かせるものにはっきりと別れていた。

ーそろそろお開きの時間だろう。

結局彼女はこの同窓会で一滴の飲み物もひとかけらの食べ物も口にすることは無かった。ふと彼女がこの宴会で口を開かなかったことに気がつく。タナカは同窓会にまできてついぞ誰にも口すらきいてもらえなかったのである。それがどんなに悲しいことか想像もつかない。

「そろそろお開きにしたいと思います」

幹事が一本締めの姿勢をとった。意識のある人達は両手を頭の上で大きく広げた。

「よーぉっ1ありがとうございました!」

パンと一つ大きく掌を打つ。

こうして同窓会は終わった。

 

△△△

「二次会どうするよ」

の一言で現実に引き戻された。

「え?」

「いや、だから同窓会だよ。どうすんだ?行くのか?」

行く、といいかけた口を閉じた。先程からずっと田中のことを考えていた。かつていじめられていたクラスの同窓会に顔をだすなんて一体どれほどの勇気が必要だっただろう?「ちょっと待っててくれ」

「は?」

「いや、行くけどちょっと用事があんだよ」

そういったときに僕の心はがっちりと決まってしまっていた。絶対に田中を二次会につれてくる、そして謝る。そんなことをしたってなんの意味もないことぐらい知っているがこのままでは僕が僕自身を許すことができなかった。

辺りを見回すが田中の姿は見えない。

ーまいったな

田中はクラスのlineに参加していなし、メールアドレスも電話番号すらも知らない。そのときふと思い出した。そう言えば自分が学生時代に一回不登校になりたてのときにたまりにたまったプリント類をかき集めて田中の家に行ったことがあった。もしまったく同じ家に住んでいるとするなら行ってそして直接渡せばいい、ただそれだけの話である。

記憶の隅に垂らされた細い蜘蛛の糸を辿りながら田中の家へ、道を進む。途中何度か迷ったりもした。が幸いにして彼女の自宅が高校のときの通学路とかぶっていたこともあって田中と書かれた標識のある家まで辿り着くことができた。

一つ深呼吸。

インターホンを押すと、中から「はァイ」という声が聞こえた。続けてドアが開く。

「どちら様?」

中から現れたのは老婦人だった。目尻に深く刻まれた皺と細く尖った指、大きく曲がった背の骨からかなり年の功を積んでいるように見える。考えるまでもなく彼女の母親だろう。

「すいません。理恵さんの友人で牧田と申します。彼女はご在宅ですか?」

「え?」

そのとき驚くべきことが起きた。きょとんとした顔が一瞬で憤怒の色へと染まり、強い怒りの眼が僕を貫いたのである。まさかそこまであからさまな敵対の意志を突きつけられた僕は言い訳がましく

「いえ、今日、同窓会にきて頂いていたので、」

と一言、二言つぶやくので精一杯だった。

「行くわけ無いでしょう!」

「はい?」

「あの子はもう何年も前に死んでいるんですよ!?」

老婆の思わぬ攻めにうろたえるより先に呆然とした面持ちになった。間違いなく今日、あの同窓会の席に彼女はいたのだ、それは疑いようのない紛れもなく自分自身の眼で確認したことだった。

「なにを言ってるんですか。間違いなく居ましたよ」

「そんな馬鹿な……」

明らかに彼女の僕を見る目が変化した、怒りの眼から強い猜疑の眼へと。

「3年前。私の娘は自殺しました」

「え」

「いじめが原因です。ちょうどあなたのクラスですよ。それくらい知ってるでしょ?」

嘘を言っている口ぶりでは無かった。それに彼女がここで嘘をつく理由は一つたりともない、とするならあの同窓会にいた女性はいったい何者なのか。

「ひょっとしたら二次会の会場にいるかもしれないのでちょっと確認してみます」

そう断るなりすぐ電話を取り出しかつての親友の番号を呼び出していた。酷い耳鳴りがしていた。なにかよくないことがおこっている。上手く言葉で表現することができないのだが第六感、脳の片隅の一部がガンガンと鳴り響き先程から背筋に嫌な汗を滴らせていた。

「もしもし」

「もしもし?なぁ。ちょっと聞きたいことあんだけどさ」

「それはこっちの台詞だよ。本当に二次会ってここであってんのか?」

「は?」

「なんかわけの分からねぇ場所についたんだよ……ってなんだ?」

電話の向こう側がにわかに騒がしくなっていた。途切れ途切れの怒声のようなものが断続的に響き渡る。辛うじて聞き取れた言葉はただの一つ、火事だ。その一言だけだった。

「どうした?おい!?」

返答は無かった。ただただ電話を通して耳に届いたのはその話口の向こうに阿鼻叫喚の地獄絵図が展開されているのだろうという、ただそれだけのことだった。ついに親友からの言葉はなく無情にもぷつりと電話は途絶えてしまう。後にはプープーという無機質な断線を知らせる電子音だけ響き渡っていた。

 

△△△

翌日の新聞はどこもかしこも最悪の火事、クラス一つ分の人数全員が焼死してしまった事件のことを表紙一面にして飾っていた。あの火事で生き残れたのは二次会に行かなかった人、僕とごくわずかな人だけだった。

ふとあの同窓会を思い出して考えるのだ。あのとき、あの席で彼女の正体に気がつけていたらこんなことも無かったのだろうと。

【ホラー/怖い話】同窓会

あとがき
解説
小説タイトル作者タグ読了予測時間(分)
みっくちゅじゅーちゅ夜空人間系、グロ注意4
その瞳は何色か夜空ミリタリー、人間系5
ドライブKAITO人間系、パッと読み1
トモダチ瀬尾標生心霊系3
犬鳴峠夜空心霊系5
ピアノと妖精瀬尾標生心霊系6
藁人形夜空心霊系、怪奇系4
幻の原稿夜空怪奇系10
サツジンジケン瀬尾標生心霊系、怪奇系5
樹海の中で夜空心霊系20
違和感瀬尾標生心霊系、グロ注意8
ミソカヨー夜空心霊系、怪奇系10
嫌な家夜空心霊系、怪奇系7
悪魔(上)瀬尾標生心霊系、洋風12
悪魔(下)瀬尾標生心霊系、洋風7
鼻(前編)夜空人間系、意味怖10
鼻(中編)夜空人間系、意味怖10
鼻(後編)夜空人間系、意味怖10
(E)scapeGoat瀬尾標生人間系、サバイバル系7
Night Terror瀬尾標生人間系、パッと読み1
隠し家の三悪人(上)夜空人間系10
隠し家の三悪人(下)夜空人間系10
ホクロ夜空意味怖、閲覧注意5
緊急停止初矢粒人間系、グロ注意3
訳あり物件まるけす人間系、都市伝説、一部実話、パッと読み1
迷信不信初矢粒意味怖、心霊系4
産まれて来るキミへまるけす意味怖、心霊系5
魂売りませんか?夜空意味怖、心霊系5
大物youtuber夜空意味怖、心霊系5
後ろ夜空意味怖、心霊系5
鉄の雫初矢粒人間系、グロ注意5
催眠まるけす人間系3
人魚姫その後
夜空意味怖6
ゆうかいなう初矢粒意味怖5
めいにち夜空人間系、パッと読み3
同窓会夜空意味怖5

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